あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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【マシューSide】

「カシールではゆっくりさせてやれなくてすまなかった。」

夕食後、部屋でくつろいでいた僕にアダム様がそう言った。

「そんな、僕の方こそ送ってもらうつもりだったのに。
結局、乗組員の皆さんに1日港で待ってもらう事になってしまって。
本当に申し訳ありませんでした。」

そう、カシールの港に着き、そのまま船は出航するとばかり思っていたのに、
結局は次の日の昼過ぎまでその港に係留された。

「お前をカシールに置いて行きたくは無かったからな。あれはどちらかと言えば、俺の我儘だ。
ジークには職権乱用だと言われたが、乗組員は降ってわいた休暇に、皆喜んでいたよ。」

それならば…よかったです。


カシールの家族からは、別れて大して時間も経っていないのに、とても歓迎されました。
お父様は、治療ではなく、今の僕の精神状態をとても気に掛けていられたようです。
しかし、僕が思いのほか安定していたようで、安心して下さいました。

「マシューは自分一人で物事を抱え込む傾向があるから。もう少し人を頼る事を覚えなくてはいけないよ。」

「そうね、何でも旦那様に相談しなくちゃだめよ。でも…もし旦那様にも言えないことが有ったら、すぐに帰ってらっしゃい。母様が聞いてあげるから。いえ、連絡をくれればすぐにマシューの所に駆け付けるわ。」

「そんな、母さんより兄である俺が行くよ。俺の方が年が近いし話しやすいって。
な、マシュー。」

「あなたはマシューの所に遊びに行きたいだけでしょう。」

たった一日だけだったけれど、みんなと過ごした時間はとても楽しかったです。


「ただ、モーガンが他の屋敷に移ってしまったため、会えなかったのが心残りです。」

そう、執事のモーガンは、他の家に望まれ、勤め先を変えたため、エイムズの家を辞めたそうです。
小さい頃から僕の事を気に掛けてくれた事。
僕の事で家族との間で板挟みになり苦労を掛けた事。
本当に今までモーガンにはお世話になりっぱなしだったから、
沢山お礼を言いたかったのにとても残念でした。

「心配せずとも、きっとまた会える。」

アダム様はそう言って慰めて下くれました。
そうですね。その時はちゃんとお礼をしなくては。



【セインSide】

食堂の仕事をしながら、またあいつの事を考えていた。

「どうしたセイン、ボーっとして。心ここにあらずって感じだな。」

「そうそう、最近ミスが多いってチーフが怒っていたぞ。一体どうしたんだ?」

「大方好きな子でもできて、その子の事が頭から離れないんだろう。
そんな目をしているよ。」

「なっ、何言ってるんだよ。そんなんじゃないよ。」

確かに気になっている奴はいる。
一度会っただけのちっこい奴だけど、妙に気に掛かるんだ。
また来いよと言ったのに、あれから一度も姿を見掛けない。

一体何をしているんだろう。
もしかしてもう船には乗ってないのかもしれない。

「なあ、マシューってやつ知らないか?」

俺は食器を洗いながら、隣でキャベツを刻んでいたカルに声をかけた。

「マシュー?お前、それって少将様の……。」

そうカルが言いかけた時、入り口付近が妙にざわついた。
見ると、食堂に座っている船員が注目する中、数人の男達が入り口から入って来るところだった。

「マシュー!?」

一番前にいるのは久しぶりに見るあいつだ。
おまけにその後ろには少将様もいる。
少将様が食堂に来るなんて珍しいな。
そうか、マシューは俺が言ったことを覚えていて、きっとここに食事に来たんだ。
少将様は珍しくて、一緒に付いて来たのかもしれない。

俺はすぐにマシューに声を掛けたかったけれど、
少将様達と一緒だから、やたらに声をかける訳にはいかない。
何とかマシューが一人になる隙が無いかと、ちらちらと様子をうかがう。
すると彼らの食事がほとんど終わった頃、不意にマシューが席を立った。
大方トイレにでも行くのだろう。
チャンスは今しかない。
これを逃すと、またいつ会えるか分からないからな。
俺は仕事を放り投げ、マシューの後を追った。

「マシュー、待てよ。」

マシューが用を足して戻る所を慌てて呼び止める。

「はい?」

「久しぶり、また来いって言ったのに、ちっとも来ないから心配してたんだぞ。」

「あ、あの……。」

「まあ、いいや。元気そうだから安心した。
なあ、今度時間が空いた時、改めてゆっくりここに来ないか?
いや、ここじゃなくてもいいのか。
飲みながら話でもしないか?
故郷の話でも何でもいいんだ。
そう言えばこの間特別休暇が有っただろう?
俺は食堂の仕事があったから休めなかったけれど、お前は家に顔を出してきたのか?」

俺は嬉しくて、立て続けにマシューに話をした。
だがマシューは、何故か戸惑ったような顔をしている。
そうか、悪かった、俺ばかり話をしていたな。

「どうかしたのかマシュー。」

突然声がした。
見るといつの間にか少将様が心配そうな顔をして立っている。

「あ、アダム様。いえ、大したことじゃないんです…。
この方が、話しかけて来られて、…でも僕…その…。」

「失礼だが、君はマシューと会ったことが有るのか?」

「あ、はい、ええ、以前一度少将様の所に一緒にお食事を運んだ事が有ります。」

「あぁ、そうか君があの時の…。」

どうやら少将様は俺の事を知っていたみたいだ。
マシューが話をしたのかな。

「で、マシューは彼の事を?」

するとマシューは何やら困ったような顔をして少将様の方を見てから、首を振った。
お前、もしかして………。

「そうか、それならちゃんと言わなければいけないな。」

「そう…ですね。
あの、実は僕、あなたの事を覚えてないんです。ごめんなさい。」

う、嘘だろ………。俺はあんなにお前の事を…。
お前は俺の事を覚えてもいなかったのか?
そうか、俺は今思い知った。
俺はこいつの事が好きだったんだ。
それなのに、俺の事は忘れ去られるような存在だったなんて…。
いや、まだこれからだ。
これから知合って…、

「マシュー、浮気はだめだぞ。」

「そ、そんな浮気だなんて、僕は絶対しません!
そんな事する訳ないじゃないですか。知っているくせに…。」

「そうだな。すまないマシュー。」

そう言いながら少将様はマシューの唇にキスをした。
それも思いっきりディープなやつを。
そしてマシューは、それを嫌がるでもなくうっとりと受け入れている。

ぐわあぁぁぁぁぁぁ—―――。

終わった。
俺の恋はいきなり終わりを告げて去って行った……。

少将様達が席に戻った後、カルが話しかけてきた。

「そうかあ、お前の好きなやつってマシュー様だったのかぁ。そりゃ相手が悪かったな。」

「なあ、少将様って結婚したって言っていたよな。それも運命の番と。それってもしかして…。」

「ああ。マシュー様の事だ。
お前、よりにもよって番様に横恋慕するなんて、命知らずだな。」

そうか……、マシューが少将様の運命の番だったのか。
だったら相思相愛の二人にとって、俺なんか記憶の端にも残るはずなんてないよな……。

俺はその後、何日もどっぷり落ち込んだのは言う迄も無かった。



【アダムSide】

「出会ってだいぶ経つし、結婚もした。だがマシューはいまだに俺を敬称を付けて呼ぶし、敬語を使う。
もう少し打ち解けてくれると嬉しいんだが。」

「まあ、それがマシュー君の個性なのかもしれませんね。」

そうジークが言うが、
どう考えても俺に話すよりもジークに話している時の方が、
気軽に話しているような気がして気に食わない。

「私は従兄で少将殿は旦那様。おまけに仕事上は上司ですから自然と言葉も違ってくるのでしょう。
真面目なんですよマシュー君は。」

「そうかもしれないが、やはり俺としてはもう少し気軽に話してほしいんだ。」

「でしたら直接言ってみたらいかがです?
真面目な上に、かなり鈍いところ…と言うか、天然なところが有りますからね。
はっきり言わなければ分からないかもしれませんよ。」

「なんだと!?」

「あぁ、悪い意味ではないのですよ。天然と言っても可愛いという意味です。」

「可愛いだと……。」

「ああもう、変な意味に取らないで下さいよ。
いちいち突っ掛かられていたら、まともに話も出来ないでは有りませんか。」

…………。

「取り合えず、あなたの気持ちを話してみたらいかがですか?」

「だがなぁ、あいつに無理強いさせるかもと思うとなぁ。」

「そうですねぇ。マシュー君も気にする性質ですから、
無理な話し方をさせるより、今のままでもいいかのもしれませんね。
いずれ時間が解決してくれるかもしれませんよ。」

「そうかなぁ、そんなものかな。」


その夜の事、マシューがそう言えばと、話しかけてきた。

「カシールのお母様は、お父様の事をあなたとか、旦那様とか呼んでらっしゃったんですけど
結婚すると旦那様の呼び方って変える物なんでしょうか。」

「えっ、そ、そうだな。夫婦になると呼び方を変える人は多いな。」

「そうなんですね。あの…僕も変えた方がいいのですか?」

「それはマシュー次第だが、俺的にはもう少し親密な呼び方で呼んでもらうと…嬉しい…。」

「そ、そうなんですか…。」

マシューは顔を赤くし俯いた。

「えっと、なんて…呼べばいいでしょう。
旦那様?」

マシューはやっと聞き取れるほどの小さな声でそう呼び掛けてきた。
旦那様か…。いいかもしれない。

「それとも…あ、ああ…あなた?」

あなた!?
どうしよう。恥ずかしいほどに嬉しいが、
やはり恥ずかしい。
かわいい。抱き締めたい。
マシューを抱きながらそう呼ばれたい。
だが、そんな呼び方をされたら、呼ばれる度に押し倒したくなる。
だめだ、仕事どころではなくなってしまう。

「マシュー、仕事の時は名前を呼んでくれないか。
そして二人きりの時はそう呼んでほしい。」

「え、ダメですよ。お仕事の時はやっぱり仕事ですからちゃんとアダム様と呼ばなければ。
いえ、皆さんと同じように少将様と呼ぶべきかもしれない。」

「いや、それだけはやめてくれ。
番であるお前にそんな呼ばれ方はされたくない。」

「そうなんですか?
でも、僕はかなり下っ端だから少将様って呼ぶべきかと……。」

俺は思わずマシューのその口をふさいだ。

「ふっ…、はあぁ……。」

くちづけの後、念を押すように言う。

「いいかいマシュー、この可愛い口で、俺の事を少将様などといってはだめだ。」

「はい……。」

まだ、余韻から覚めていないマシューは、素直に頷いた。

それからのマシューはベッドを共にする時、感極まると俺の事を“あなた”呼ぶようになった。
それも意識せずに自然に口から出てしまうようだ。
その言葉が俺にとって、どんな薬よりも極上の媚薬となるとも知らずに。


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