ワケあり男装令嬢は家督を継いで、死刑執行人になると決めた。

みかん坊や

文字の大きさ
9 / 30

九刑

しおりを挟む



「なぜ受刑者をすぐに殺さないんですか」
「……」


 何も答えない案内人に変わり、逆に私が皇子に聞きたい。

 ……貴方はなぜ、その質問をしようと思えたの?


「質問に答える前に、そう思う理由をお聞かせ頂いても?」
「彼らは死刑になって然るべき罪を犯したゴミ共だ。そんな奴らに好物?  司祭の祈り?  何故罪を犯した人間共にそんなもてなしをしなければならない。何故国を脅かしたゴミ共の為に無駄金をかけるのだ」


 我が物顔で語る皇子……非人道的な事を言っているように見えるが、言っていることは間違ってはいなかった。理論で言えば、彼ら受刑者が先に悪いことをしたから……多くの人々を苦しめ、悲しませてきたから、その罪に然るべき制裁を加えるだけのこと。
 基、彼らが犯罪さえ犯さなければ、本来処刑場は必要ない。受刑者に使う金が無駄金と主張する、皇子の意見は間違っていない。
 だから異議を唱える生徒はもちろんのこと、案内人も皇子の意見を否定しなかった。


「確かに、ロイ様が仰る通り、罪人達への対応はご納得頂けない点はあるかもしれません。しかしこれらは来世では罪を犯さぬようにという祈りと、今生に悔いを残さぬようにという供養の想いが……」
「死に行く者にかける時間と金をかけるくらいならば、他に有効な使い道があるとは思わないか?  全ては犯罪者共の自業自得。情けも供養も必要ないはずだ」


 皇子の言う通り、数分後には命を落とす者の為にわざわざ大金はたいて司祭を呼び、豪華な食事を用意する事に何の意味がある?   そのもの達を養う為に、今も尚市民が働いて稼いだ金が溶かされて行っているのだ。
 情けがなんだ、供養がなんだ。それはただ、まだ今生で生き残る私達生者の、ただのエゴじゃないか……。

 死刑囚は、即刻殺して然るべき——…………














……——しかし私は、真っ向よりその正論に反対する!!



バコッ!!!!


 ふと遠くから聞こえた何かの鈍い音と指の痛みで、私はふと我に返った。
 目の前には右頬を手で押さえ、尻餅をついて私のことを下からキョトンとした表情で見つめるロイ皇子の姿があった。
 無意識のうちに私は、彼を思い切り殴ってしまっていた……あまりの怒りに耐え切れずに。


「『自業自得』?   『無駄金』?  『情けも供養も必要ない』?   ふざけんな!!!  彼らがどうして罪を犯したのかも知らないクセに!!」


 驚いた表情で呆然としていた皇子だったが、その形相はすぐに変わった。
 普段の『ゴミ』と罵る彼の顔なんて比じゃない。顔を真っ赤にさせ、立ち上がるなり私の胸倉を本気の力で掴み、鬼のような怒声をあげた。


「力もないどチビのクセに、何知った風な口を利いてんだ!!!  クソがッッ!!!  じゃあお前に分かるのかよ!!  犯罪者でもないクセになんで罪を犯したのか、あのゴミ共の考えてることが分かんのかよ!!  言ってみろよ!!」
「国税を払う為だよ」


 私がそう答えると、ふと一瞬、私の胸倉を掴む皇子の力が少しだけ緩んだ。


「知ってる?
朝から晩まで1ヶ月間働いて漸くもらったお給料の使い道を、市民は最初何に使うと思う?  
好きな物を買う?  1ヶ月頑張ったご褒美に美味しいものでも食べる?  
どれも違う。
彼らは、その日貰った給料を片手に、そのまま役所へ向かい、月の税を納め、その余ったお金で生活をするのさ」


——税を払わなければ犯罪者脱税と見なされ、晴れて刑務所入り。
 だから例え、所得は減り、年々税が増加して行っても市民は必ず課せられた税を納め続けるのだ。
 でも、そんな矛盾した金の動きにいつまでもついていける人間なんていない。税を払えず、金がなくなり貧困に陥った人間が次にすることは……生きる為に、奪うこと。

 受刑者の大半は、国の為に自らの貴重なお金を払い続けてくれた心優しい人間の末路そのもの。


「受刑者は、受刑者である前に一人の市民だった。市民には納税の義務があり、ここで使われている金は、まだ受刑者が市民だった時に納めていた金だ。それを最後に自分達の為に使って何が悪い。
彼等がゴミなら、彼等が働き稼いだお金で学校に通っている貴方は、ただのクズだ!
働いてもいない、税を納める訳でもない。親に与えられた身分が高いだけで、国の為に働いてくれていた受刑者を罵るお前の方が裁きを受けるべきだ!!」


 言い返す間も与えないまま、私は皇子の手を払い捨て台詞だけを吐いて、その場から消え去った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...