ワケあり男装令嬢は家督を継いで、死刑執行人になると決めた。

みかん坊や

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十刑

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 ああ……もうどれくらい時が経ったのかしら。
言いたい事だけ言って全力で逃げて外に出たは良いものの、自分が刑務所内のどこに居るのか全く分からない。

 そろそろ学園に戻る時間帯だろうなぁ。今頃、ハイノとかきっと必至になって私のことを探しているに決まっているわ。でも次に皇子に会ったらきっと……確実に息の根を止められてしまうかも……。


(……詰んだ)


 幾度目かの重いため息は、きっと私の余生で起こるはずだった幸福の時間が全て吐き出されているに違いないわ。
どうしてあんなバカ相手に感情を制御できなかったのかしら。父様の仕事の素晴らしさを、あんな親の七光りの塊が理解できるはずもないのに……。


「お、ここに居たのか!  ラルフ!」


 座っている私の頭上から聞こえてきた、聞き慣れたうるさい声。私の頭上にある建物の窓からハイノが顔を覗かせていた。


「ハイノ~! 何時間も、ずっと探していてくれたのか?!」
「いや!  自由見学の時間になり施設内を歩いていたら偶然見つけただけだ!  それに君が消えてまだ10分も経っていないぞ!」
「あっそう」


 嘘でもいいから『大丈夫か』の心配する一言は欲しかったわぁ。というか、一応今のところクラス内で一番仲良くしてるのは私なのだから、せめて貴方は探しに来なさいよ。

 時間だって全く経っていないじゃない。私の感覚的にはすでにもう夕暮れ時を過ぎていたというのに。もういっその事、夕暮れ時になっていて欲しかったわ。あとまだ2時間、(皇子を含めた)皆と団体行動を続けなければならないなんて……。








「気に病む必要はない!  俺はかっこいいと思った!」


 慰めのつもりなのか、私の隣に座るなりハイノはそう励ましてくれた。


「そっか、格好よかったか。胸倉掴まれて身長差でほぼ爪立ちになっていた姿が格好良かったか」
「本当だ!  死刑執行人に最も必要なのは、冷酷な心でも、首を綺麗に斬る技術でもない!  死刑囚への敬意だと俺は思う!  死刑執行人は死刑囚の全てを誰よりも知り、理解者となった上で斬首するからこそ執行人であるのだ!  死刑囚を理解せずにただ首を斬るだけの執行人は、最早ただ首を切っているだけの殺人だ!」
「!!」


 彼は……父様の指南書を読んだ事でもあるのかしら?


——『死刑囚には敬意を』


 父様の指南書の裏表紙に、同じ事が書かれていたのを覚えている。
 父様が歴代の執行人の中でもズバ抜けてその実力が認められていたのは、きっとこの部分にあったのだと思う。

 父様は死刑囚が何たるかを最初から理解していた。彼等が何者なのかを理解した上で、父様は死刑執行人の役割を一から見直し、指南書にテコを入れを行っていた。その証拠に、歴代の執行人が斬首方法中心にテコ入れを行なっていたのに対し、父様は指南書の最初のページ……死刑執行人の定義からテコ入れを行なっていた。自分の代から、死刑執行人と死刑囚の関係を見直すつもりだったのだ。


 私はまだ、死刑囚のことなんて何も知らない。全ては父様からの受け売りでしかない。だけど一人の人間を殺すのは、いつも周りの人間だ。生まれながらの死刑囚なんて誰もいない。
 だから父様は、死刑囚達を一人の人間として向き合っていたのだ。そして私は、そんな父様がとても誇らしかった。だから、ただ首を斬るだけという皇子の発言が、どうしても許せなかった。


「あの中で誰よりも死刑囚に敬意を払っていたのは、紛れもなくラルフだった!  だからとても男らしい……いや、死刑執行人足る格好良さだった!」
「ハ、ハイノ~~!!  だったらもし私が死刑になったら一緒に死のうな!」
「むむっ!!?」


***



 ——翌日


 結局昨日は、私が消えたすぐ後にロイ皇子は刑務所を出て帰ってしまったらしい。勝手極まれりな行動ではあるものの、こちらとしては正直助かった。


……と安心したのも束の間の事。


ドサッ!!


「……」


 今朝学園に来て早々、私が自席に着くなり、ロイ皇子は黙って私の机の上に鞄を置いてきた。
 嫌がらせのつもりなのか何なのかは分からない。しかしただ一つ言える事は、皇子が怖くて顔が見れない。怖がっているのを悟られないように、ポーカーフェイスを装って皇子の鞄を一点に見つめているものの、心臓の音がうるさい。


「おい、どチビ」


 不運な事に、頼みの綱であるハイノはまだ寮からこっちに来ていない。あいつは鍛錬終わった後のシャワーが長いから偶にギリギリになるのだが、よりにもよって今日!  勘弁して!


「おはよう、ロイ皇子」


 とりあえず、命が惜しいので平静を装って笑顔で挨拶を返した。でも私が微笑みかけたところで、皇子はやっぱり殺意に満ち満ち溢れた表情をしていた。瞳孔は開き、怒りの所為なのか所々浮き出ている血管が見える。

 ああ……神様。私の笑顔で皇子の殺意が癒えたというあり得ない奇跡がどうか起きますように……。


「ちょっと来い」


嫌だ。行きたくない。


「困るなぁ。あと少しで授業が」
「いいから来い!」
「のわっ!?」


 痺れを切らした皇子は私の腕を掴み、そのまま強引に引っ張ってどこかへ連れ出した。事の一部始終を見ていたクラスメイト達はその瞬間、あからさまに顔を逸らした。中には胸の前で手を合わせ、私に十字を切る者もいた。彼等の様子を見て、私はすぐに確信した。


——……詰みました☆
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