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十六刑
しおりを挟む「頑張れ! まだ行けるぞ、ラルフ!!」
(あと3キロ……!)
今日も今日とて朝から熱が入ったハイノの指導を受けている。彼の指導を受けて早1ヶ月が経った。お互いに毎日欠かさず頑張ったお陰か、体力は日に日に向上していた。体重も食べる量も着実に増えてきて、この短期間で私の体型はギリ男性から、細身の男性にまで変わることが出来た。
「むむ!? あそこにいるのは……」
「あ、ロイ!」
走り進んだ先から登園中のロイ皇子の姿が見えた。
ロイ皇子は自分で時間が好きに使えるからという理由で、フランツと違って馬車を使わずに学園まで歩いて来る。その為、いつも遅刻ギリギリに教室に入って来るので、朝練中に会うことは無いのだが、珍しくも今日は早いご登園のようだ。
「朝からゴミと一緒にゴミ拾いか? ラルフ」
皇子との蟠りがなくなった日から、なんやかやで私とは話す間柄にはなった。しかし、その傲慢この上ない性格は相変わらずご健在だ。そのせいで他のクラスメイト達からは距離を置かれる存在となっている。ただし……
「おはよう、ロイ皇子!」
ハイノは例外であるが。
「皇子も共に筋トレしないか! ロイ皇子も我々と同じ死刑執行人を目指すなら体力をつけておいた方がいい!」
「うるさい、ゴミ。俺はラルフと会話しているのだ」
これだけ蔑ろな態度を取られていながらも、ハイノだけは通常運転で彼に話しかけ続けていた。心に防弾チョッキを着ているとしか思えない忍耐力だ。
「何故こんなうるさいゴミと朝から一緒にいるんだ」
「毎朝ハイノが私の筋トレに付き合ってくれているんだ。男の割に全然筋肉が付かなくて困ってたから」
「は! 凡人らしい悩みだ! 俺は元々筋肉が付きやすい体質だからな。特別運動せずとも苦労はしていないのだ!」
「それは凄い! 皇子は神に選ばれし身体の持ち主だったのか!!」
ハイノの捉え方は極端だが、無理に運動せずとも勝手に筋肉がつく体質なのは正直憎らしい。元々女の身体は出産に向けて男性より脂肪が付きやすいから、私が皇子やハイノのような男らしい身体を手に入れるには、彼らの倍以上の量を食べて運動するしか方法がない。
私には、地道な努力しか近道が無いのだ。私も皇子のように、簡単に筋肉がつく体質だったら良かったのに。
……そしたら、自分の正体がバレる不安に脅かされながら生きなくて済むのに。
「……羨ましい」
「え?」
思わず口から本音が溢れた。
私はその時、私が零したその一言でロイにとある現象を引き起こさせてしまった事に全く気がつかなかった。
ロイは三兄弟の末っ子。周囲からの目が厳しい自分とは違い、出来のいい2人の兄達に不可能なことなどなかった。ロイが出来無い事はもちろんのこと、ロイに出来る事が2人に出来ない事などなかった。
この環境が、幼い頃のロイから一つの経験を奪った。
その経験とは『誰かに指導する事』
指導される事があっても、ロイが誰かに教えた事は一度もなかった。自分よりも知識・経験が豊富な人間にしか囲まれて育って来たそんな彼の潜在意識の中には、とある願望が隠れ潜んでいた。
『羨ましい』
↓
『ラルフが欲しいもの』
↓
『ラルフが困っている』
↓
『自分にはあってラルフにはないもの』
↓
『自分が教えられる』
↓
『自分には教える義務が生じる』
このような過程を得て、ロイに起きた現象……それは、『末っ子気質』現象。
それは兄弟の末っ子にしか分からない、お兄ちゃんがしている事を無性に自分もしてみたくなる現象なのである!
・
・
・
・
「遅いぞ! 亀よりも遅い!!」
「さすがは神に恵まれし身体! 指導の熱の入り方も違う!」
「し、死ぬーーーーーーーー!!!」
末っ子気質現象により、この日、ロイはハイノ以上に厳しい訓練を私に課した。
倒れかけながら私が必死に這い蹲っている一方で、私を指導している時のロイの表情は、とても爽やかで生き生きしてて、今まで見た中で最もきらきら輝いていた。
そんな楽しそうな彼を見て、私はなんていうか……まるで…………まるで!!
——シンプルに死ねば良いのにと思いました。
***
ラルフがロイとハイノから扱かれていたその一方で、彼らの様子を遠目から見つめる一人の女の姿があった。
「あれはラルフ……と、一緒にいるのはもしかして……」
ラルフの義妹 リアである。
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