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十七刑
しおりを挟む「ご機嫌よう! フランツ様!」
「おはよう、リア嬢。今日も一段と輝かしい」
教室の片隅で一人静かに読書をしているところへ、うるさいハエが今日も集ってきた。
毎日毎日、心にも思ってもいない世辞をハエに言い続けなければならないこちらの気持ちも考えて欲しい。ハエとてそれほどの知能は最低限身につけて欲しいものだ。
「ねぇ、フランツ様?」
「失礼、今考え事をしている」
話しかけてくるな。どうせまたどこかの店が可愛いとか、欲しいものがあるなど、一銭の価値にもならない心底どうでもいい話を持ちかけてくるだけだろう?
可愛い店を探しに徘徊する時間があるのなら、少しでも自分の知能を上げろ。
『公爵』の名さえなければ価値のないただの動物……二酸化炭素を排出する能力しかない、ただの害虫に過ぎないのだから。
「フランツ様の弟」
「!」
「ロイ皇子は確か、司法クラスに御入学されたのですよね?」
何故この女からロイの名前が出てくる?
学園でも僕にひっついてばかりで接点を持つ暇などないはずだが……。
「どうもラルフと仲が良いみたいですわ!」
「ロイが? ラルフと?」
「ええ。今朝二人が一緒に居るところを見ましたの。ロイ皇子はとても楽しそうにしていましたわ!」
あのロイが、友人を作るとは……それも、公爵家の一使用人という底辺と。
司法クラスの最初の学力テストではロイが首席だと聞いたから、ラルフが学力の面で特別あの子よりも秀でているわけではない。況してや、あの病弱そうな貧相な体つきで、身体能力の面で彼に勝てるはずもない。
あの子は、羨望の眼差しで見つめるがあまり、僕や兄上と似たような部分を持っている。
ラルフの何がロイのお眼鏡にかなったのかが気になるな。
「それは実に、興味深い」
スクールにいる間の暇つぶしにはなりそうだ。
今まで全く利用価値がなかった小蝿にしては、中々上等な話を持ってきたようだ。初めてにしては上出来だ。
わざわざ公爵家に縁談を持ちかけたにも関わらず、本来の目的が果たせなかった上に、リアをつかまされたからいつ返品してやろうかとずっと機会を伺っていたが……少し利用価値が出来てしまったな。
(迷惑料も兼ねて、利用させてもらうとしようじゃないか)
***
「配属希望は10日後提出なので、遅れないように」
この日、司法クラスではとある話に持ちきりで、教室中は終始落ち着きない様子だった。
「ラルフ! 何処を希望する予定なのだ!」
「まだ悩み中だから、見学参加してから決めようかと」
「それは良いことだ! 見学は是非とも一緒に回ろう!」
「いいよ」
入学して1ヶ月……ついに私達も、少人数授業の配属を選ぶ時が来た。
要するに、ゼミのクラスを選ぶようなものである。この授業クラスの選択が、後々死刑執行人の道への鍵を大きく握る。
少人数授業を請け負う指導員は全部で15人。そこから自分の進路にあった専門分野の指導員のクラスを選択するのだ。選び方としては、自分の進路の専門にクラスが合っているのか、クラスの雰囲気、そして指導員自身の卒業実績が注目となっている。
私が希望する死刑執行人指導を請け負っているクラスは5クラス、内3クラスの指導員が元死刑執行人補佐人である。希望するとしたらこの3人の指導員の何処かだが……結局、今の雰囲気や過去の実績を見ても未来で頑張るのは自分なのだから、どこを選んでも同じな気がする。
「なんだ、ラルフ。ジェームス指導員の所にしないのか? 彼が死刑執行人の輩出実績が一番多いのに」
いつの間に背後にいたのか、ロイが勝手に私の白紙の申請書を覗き込んできた。その口振りからすると、彼の中ではもうクラスを決めているらしい。
「ジェームス指導員ももちろん候補には入っているけど、ソブチェルとヴァージットも入れてる。執行人育成専門の指導員全員候補者だ」
「「ヴァージットも入れているのか!?」」
ロイは兎も角、ハイノも同じ反応を寄越すとは珍しい。お陰で鼓膜の奥から耳鳴りが鳴り止まなくなってしまった。
もしかして2人を前のめりにさせてしまうほど、私は今血迷った選択をしようとしていたのか?
「ラルフ! 悪い事は言わない! ヴァージットだけはやめておいた方がいい!」
「なんで?」
「的外れな教育をする上に無駄に厳しく評判が悪いからだ! 逃げ出す為に退学志願者も出たという話もある。なにより執行人輩出実績も0を貫いており、彼自身もすでにやる気をなくしている。この学園にまだ腰掛けられていることが不思議なくらいだ!」
2人は善意で言ってくれているのだろうが、そんなに熱く悪評を語られても逆に反応に困ってしまうのだが……。
寧ろそこまで悪評を極めているのなら、一度見てみたい気もする。この10日間は見学を兼ねての猶予でもあるしな。
「見学くらいなら別に害ないでしょ」
「それもそうだが! おススメはしない!」
「まあ如何にもゴミらしい時間の使い方だ」
気乗りしない二人には悪いけれど、私は念には念を入れてここは慎重に慎重を期しておきたい。
何故なら、ここが死刑執行人への分岐点になるから……。
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