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十九刑
しおりを挟む開きっぱなしの窓から入った風に、白レースのふわふわカーテンが靡き、外から光が差し込んだ。
日の光に照らし出された、ヴァージット指導員の部屋の中は、想像を絶……予想とはだいぶ違っていた。
壁紙はピンクの花柄、ライトはシャンデリア、部屋の中央にはメルヘンチックな猫足ソファにその上には多種多様なクマのぬいぐるみが置かれており、本棚などの家具はレースリボンやスパンコールなどによって色取られている。挙げ句の果てには、この狭い部屋の片隅には白の化粧台も置かれていた。
明らかに、女性的な部屋だ。いや、それ以上……リアの部屋でもここまで派手ではない。
「間違えた……?」
不安になって表札を何度も確認するも、確かに「ヴァージット」と書かれている。階数だって間違えてないし、左隣も部屋はなく壁しかない。聞いた話だと、間違いなく部屋はここであっているはずなのだ。
しかしどうだろう……この目の前に置かれている現実は。学園指導員をクビになっていない事さえも不思議であるというのに、明らかにジェームズやソブチェルと待遇が違う。二人の部屋にはシャンデリアなんてなかった。
「ここで合ってる……よな?」
「誰もいないようだがな!!」
「あら、どちら様?」
背後から急に聞こえた優しく可愛らしい声に、私たち3人は思わず臨戦態勢を向けた。部屋に気を取られ過ぎて、近くに人がいた事に全然気が付かなかった。
振り返った先にいたのは、ロリータファッションが似合う可愛らしい女性だった。
「もしかして見学かしら? あら!! あらあらまあまあ! 嬉しいわぁ~! 3人も来てくれたのね!」
「えっと……」
「あたしがヴァージットよ!」
「「「女!!?」」」
ヴァージット指導員が女?! 確かヴァージットもジェームズと同じ、元補佐官! 年齢不詳な為、いつの時代の補佐官なのかは知らないけれど、執行人は然り女性補佐官なんて聞いたことがない。
「ウフッ! そうなの~! 私が歴代初の女性執行補佐官なの!」
女性補佐官が実在していたなんて!
ということは、死刑執行人に女性が認められる可能性もゼロでは……
「まあ、手術はまだなんだけどね~」
「「「うわぁ……」」」
2秒前の私の期待を返せ。
ある意味歴代初ではあるけども! 歴代初おカマ執行補佐官ではあるけれど!! いい年した大人がなんの罰ゲームがあってそんな格好で学園に来ているのよ!
「今年は貴方達が初めての見学者よ~! ま、今年どころか3年ぶり?」
3年間も人を寄り付かせない悪評とは最早どうなの?
「私の悪評も聞いたでしょうに、見に来てくれてありがとうね。お礼に愛を注入するゾ!」
なるほど、こういうところが悪評の根源になっているのか。コレが男だという事実が心底信じ難い。
ヴァージットの第一印象は、恐らく三人共同じ印象だったと思う。
『掴めない人』
彼が一言話す度、何が本当の事でどれが嘘なのかが分からない。端的に言ってしまえば、ハイノとはタイプが違う話すだけで体力を奪う疲れる人だ。
「さ! そうと決まったら行くわよぉ~ん!!」
「え?! どこに!?」
「決まってるじゃない。見学に来たんでしょ? 見学に!」
・
・
・
・
「マスター!! 今日はお祝いよ~ん! じゃんじゃん持ってきてん!!」
ヴァージットに強引に連れていかれるものだから、てっきり処刑場とか授業教室にでも移動するのかと思ったのだが……彼に連れられた先は、授業とは全く関係ない港町のただの飲み屋だった。
「貴方達もじゃんじゃん飲んでね! 今日は奢りよ!」
おかしい。クラス見学に来たつもりがどうして酒の席に付き合わされているのだろう。3年ぶりの見学者が来て嬉しいのは分かるけれど、何故その見学者が指導員の個人的な祝いに駆り出されてしまっているのだろう。
「こ、ここ酒屋……だよな?」
「見学授業と言うより、まるで遊びに付き合わされているようだ!!」
この二人も戸惑うばかりでおカマの勢いの前では無力。キャラ主張が強い二人を連れてこの振り回されよう……私一人で来ていたらどうなっていた事か、想像しただけでも恐ろしい。
「もう~! 別に授業って言ったって、こうしなさいって言うルールなんてないんだから良いじゃない! これがあたしの授業なの!! 飲まないと単位上げないわよ!」
『ヴァージットだけはやめておいた方がいい!』
『的外れな教育をする上に無駄に厳しく評判が悪いからだ!』
見学前に二人が言っていた事を素直に聞けば良かった。好奇心と興味だけで見学しに来た事を、私は今、心底後悔しているよ。
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