ワケあり男装令嬢は家督を継いで、死刑執行人になると決めた。

みかん坊や

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二十三刑

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「じゃあね。精々自分の身の丈に合ったクラスを選びなさい」


 日付が変わる10分前……
 ギリギリ門が閉まる前に寮の敷地内に戻る事ができた。
 馬車から降りる時にはすでに、私達はもう何も話さなかった。
 ヴァージットには、私達のまだ生半可な部分を全て引っ張り出された気分だ。すっかり不安を煽られて、今や死刑執行人を目指す事自体が場違いな気がしてならない。

 スタート地点に立つ前からこんな事では行けないと分かっていても、頑張ろうと思えば思うほど不安が募る。
 『気合いだけで乗り越えようとしていないか』、『その覚悟が通用すると思っているのか』……不安の深みに嵌る程に自問自答が止まない。


「なあ、ラルフ!  1つ聞いておきたいことがある!」
「ビックリしたぁ!」


 急に掛けられたハイノの大声に、私だけでなくロイも隣で肩をビクつかせた。


「何?」
「何故死刑囚の事を答えられたのだ?  俺には全然分からなかった!」
「ああ、それ。俺も気になっていた」


 ハイノは先程から目線がずっと下になっていたから、今回ばかりはハイノも私と同じように色々と葛藤しているのかとは思っていたが、そんな事を考えていたのか。


「偶々だよ。トイレに行った時に偶然話を聞いた。グランの話を聞いた時、連れて来られた店で偶然聞く話にしては関連あるにも程があると思ったから」
「それでも、俺がもしラルフと逆の立場だったとしても気づくことが出来なかったと思う!  ラルフでなければ答えは出せなかった!  正直悔しい!  君に答えられて俺に答えられない現実が!  不甲斐ない事この上なしと先程から猛省している!」
「それ実はバカにしてるー?  不器用過ぎて言っちゃダメな事と良い事との判別間違えたかなー?」
「ライバルなのだから悔しいのは当たり前だろう!」


 そういえば入学当初にそんな事も言ってたっけ?
 私の中ではもう完全に友達という感覚しか持ち合わせていなかった。少しハイノに申し訳ない……。


「だから聞きたい!   ラルフに追いつくために!  君の目には、死刑執行人はどのように映っているのか!」
「『私に追いつく』って」
「今日一日で分からなくなってしまったのだ!  自分がこのまま死刑執行人を目指し続けても良いものなのか!  俺には、君のような本質を見抜く才能を持ち合わせていない!  だからと言ってロイ皇子のように学習能力も高くない!  失敗を繰り返さねば理解する事が出来ない不器用さしか持ち合わせていない!  今だってそうだ!  何を話し、何を話さなくて良いのか考えながら話す事が出来ないから心内を自分勝手に全てぶちまけている!  だから俺は欲しい!  ラルフのように、本質を理解する才能を会得したい!」


 『本質を見抜く能力』……違う。私にはハイノが言うような能力は持ち合わせていない。私が持っている執行人の概念は、父様の本のただの受け売りに過ぎない。父様の魔法の本を持っているか持っていないかの違いがあるだけで、実力で言えば私もハイノと同じだ。


「ハイノは、私を買い被りすぎだ。人の考えなんて十人十色。何が正しくて何が間違っているかなんてない。私は偶々、運が良かっただけだ」
「ならラルフの考えでいい!  君は、死刑執行人を何だと考えているのだ!」


 『私』が考える死刑執行人……?

 この国で死刑執行人は、『名誉』だと考えられている。その『名誉』を勝ち得る為に、死刑執行人に憧れて今まで何人もの学生や貴族が血と汗が滲む努力をしてきた。そして純粋な憧れで死刑執行人を目指しているハイノもきっと、これからなる予定だろう。
 でも私は違う。ハイノのように憧れなんて持っていない。私はただ、アルノルト侯爵家の権威を復活させたいが為に、死刑執行人の『名誉』を手段として利用しようとしているだけ。

 じゃあ、私にとって死刑執行人は何かしら。
 私がアルノルト侯爵家でも貴族でもない、ただの一人の国民だと捉えた時、客観的に見た死刑執行人を私はなんだと捉えるのだろう。
『名誉』? 人の首を掲げている姿が?
『罪人』? 例え殺めた死刑囚が連続殺人犯だとしても?
『価値』?    死刑執行人は同じ人間なのに?
『死神』?    人を殺しておいて、唯一罪が裁かれないものね。

 色々考えて見る視点を変えれば、死刑執行人が『名誉』と断定するだなんて、改めてみると滑稽ね。要はみんながみんな、帝王の方針に従っているだけだもの。


「……私は、『恥辱』だと考えている」
「「恥辱?」」
「民からは死刑囚にとどめを刺す『英雄視』され、死刑囚からは自らの命を脅かす『死神』。神からは人の命を殺める『罪人』とされ、王や貴族からは名誉ある『価値』そのもの。矛盾を人間の勝手な裁量で揉み消され、『名誉』と掲げられている執行人のその様には、その言葉がぴったりだと思ってる」


 執行人を目指す二人に、こんな事を言うのはおかしいとは分かってる。
 実際、死刑執行人は誰にでも為せる仕事ではないし、自分の心を削る仕事だ。それでも歴代受け継いできたアルノルトの人間は、本当に偉業を成し遂げて来たと誇りに思っているのは事実だ。

 でも……


『例え、冤罪だっとしてもね』


 悪く言えば、都合よく煽てられて動く操り人形とも言える事に、私は今日気づいてしまった。
 それに気づいた事が、父様の本の内容が全てだと考えていた私の固定概念にヒビが入った瞬間だった。


「あくまで個人的な意見だから気にするな」


 私も、ハイノを見習わなければならない。
 死刑執行人になる事がどう言う事なのか、改めて考えなければならない。


***


 数日が経ち、配属希望申請の締切日当日。
 私は一人、授業終わりにある所へ真っ直ぐ向かった。


「失礼します」
「あら、ラルちゃんじゃない!  何ー?  どうしたの?」


 数日前の出来事がまるでなかったかのように、ヴァージットは再び訪れた私を普通に歓迎してくれた。しかし、その笑顔を他所に、私はある書類を荒々しくヴァージットの机に叩き出した。


「用があって来ました」


 私がヴァージットに突き出したのは、今日これから提出しに行く少人数授業の配属希望クラスの申請用紙だ。
 その申請用紙の第1希望の欄に書いた指導員の名前には、ヴァージットの名前を書いた。


「あらあらまあまあ。嬉しい事書いてくれてるけど、自分の事買い被り過ぎじゃないかしら?  言っとくけど、あたしの質問に答えられたからと言って、まずあの程度で即答できていない時点でほとんど望み薄……」
「分かってます。だからこそ、ヴァージット先生の御指南の元、私の至らない部分を叩き直し、死刑執行人となりたいのです」


 ヴァージットが良い顔をしない事は分かっていた。だからこそ、提出前に釘を刺しておきたかったのだ。万が一、などの、馬鹿げた事故が起きないようにする為に。


「言っておきますが、捨てても無駄です。何度でも来ますし、予備だって何枚も準備してますから。用はそれだけです」


 ヴァージットに有無を言わす隙を与えず、私はヴァージットの手から紙を回収して踵を返し、すぐ退出しようとした。


「待って!」


 私が扉のドアノブに手をかけた時、ヴァージットは少し焦り気味に私を引き止めた。


「……ちょっと、座って話さない?  ラルフちゃん。……いや、ちゃん」
「!!」


 ——……え?


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