ワケあり男装令嬢は家督を継いで、死刑執行人になると決めた。

みかん坊や

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二十四刑

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——『ラウラちゃん』


「ギリギリまで、言うか迷っていたの。貴女、ラウラちゃんでしょ?  オスカー様の……アルノルト侯爵家のご令嬢」


 誤魔化すとか、シラを切るとか、そんな事さえも頭に浮かばなかった。ただただ、数年ぶりに呼ばれた真名に驚きを隠せず、私は反応して振り返ってしまった。
 振り向くと私の背後では、ヴァージットが片膝をつき深々と頭を下げていた。


「ここで合間見えた事に、感謝と祝福を申し上げます」







「昔、一度だけ刑務所に見学しに来たでしょ?  小さくて覚えていないだろうけど、あたしその時に貴女の事を見ているのよ。でも、それはほとんど理由にはならないわ。一番の理由はやっぱり、貴女がオスカー様に似ていたから」


 何を話されようとこの時ばかりは焦りが募って、ヴァージットの昔話を聞く気にも、出されたお茶を飲む気にもなれなかった。
 完全に盲点だった。ヴァージットが父様の補佐官を務めていた事に気付いていたのに、この数年、誰にも気付かれなかったからと油断してしまった。まさかたった一度見ただけで私の正体がバレるなんて……。


「一眼見てすぐに分かったわ。オスカー様にはご子息が居なかったから、状況を把握する事に時間がかかったけれど」


 もうこの状況は、少人数授業の選択どころじゃないわ。司法クラスに入れるかどうか……それ以前に学園にも、公爵家にも残れるかどうかの問題よ。どうにかしてヴァージットを口封じしないと……!


「公爵家の養女となったとは聞いていたけれど、数年前から部屋から出て来ないし、一部では実は死んでいるのではと噂されていて心配していたの。そんな姿をしていたら見つからないはずだわ。何故男装を?」
「義妹のリアが第二皇子と婚約する為に、私が女では都合が悪かったの。だからアルノルト公爵の協力の下、男装をし続けていたのですわ。私としては、父母が亡くなった以上、生きていられるだけでも御の字でしたから。性別に強い拘りはありませんでしたの」
「あの公爵らしいわね。でも、それだけではないでしょ。ひょっとしてアルノルト侯爵家を再興も目論んでいたりして」


 この人の勘は鋭い。
 父様の指導を受けていただけあって、彼自身、残り二人の指導員と着眼点が全くの別物。ただ死刑執行人の試験対策をするのではなく、死刑執行人として必要な素質を根本から学ぶことが出来ると思ったから、私は彼の指導を受けようと決めたのに。まさかその判断が仇になるなんて……。
 私が話さずとも、彼は推測だけで全て当ててしまう。否定して言い訳を並べたところで、逆に怪しまれるだけだわ。


「……私の事を学園に話すおつもり?」


 私の質問に、ヴァージットは静かに微笑んだ。


「何故、歴代執行人が男性だけだったのか分かる?」
「男尊女卑と、体力の問題だからでは?」
「子どもが産めなくなるリスクが高まるからよ」


 聞けば、その理由の一つに、執行中の過度なストレスにより不妊になる可能性が高まるという研究論文が浮上している事。さらに別の理由では、生命を生み出すべき女体で殺生をするのは神への冒涜だという神聖論の批判などから、女性は死刑執行人の候補から除外されるらしい。


「問題はそれだけじゃないわ。
 例え貴方がオスカー様のご息女でなかったとしても、あたしのクラスを選んだ以上、女である事は伏せておくけど、それ以上の授業の配慮はないわ。
 となると、それだけ女だとバレるリスクは高まる。もしバレるような事があった場合、貴方ならもう自分だけの事では済まないでしょ? 
 何よりイノちゃんとロイちゃんを裏切る形になる覚悟はあるの?」


 ——『自分がこのまま死刑執行人を目指し続けても良いものなのか』


 あの時、ハイノに聞かれた言葉が今、私に跳ね返ってきたような気がした。
 私は、誰にも迷惑をかけていないようにしてきたつもりだったけれど、それは今だけの話で、失う物をすでに持っている事に気付いていなかった。
 あの二人は、私が女だと知ったらどう思うだろう……。毎朝私の体力作りに付き合ってくれて、授業見学だって私の融通をわざわざ聞いてくれて……何より私がオスカー・アルノルトの実子だと知れば、二人はどういう目で見るだろう。

 少なくとも、それでもライバルだと言ってもらえる自信は、私にはない。


『だから聞きたい!   ラルフに追いつくために!』
『俺の事はロイと呼べ、ラルフ!』


 昨日悩んでいた事が馬鹿みたいだ。
 『気合だけで乗り越えようとしていないか』?
 私はなにを馬鹿な事で悩んでいたのだろう。気合ででも乗り越えなければ、後戻りが出来ないところまでとっくに足を踏み込んでいた。このまま進んでいかなければ、私はあの二人を裏切る事になる。
 嘘をついている私を信頼し、初めてあった日から今日まで共に努力してくれた二人の恩を仇で返す事になる……アルノルト侯爵令嬢として、それだけはあってはならない!


「望むところよ。殺す気で私を指導しなさい」




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