ワケあり男装令嬢は家督を継いで、死刑執行人になると決めた。

みかん坊や

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二十七刑

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「よく考えれば、こうしてラルフと二人で話をするのは初めてのことですね」
「そ、そうですね!」


 すっかりフラグを回収してしまった。
 強引に連れ出されて、気づけば貴族が通いそうなお洒落なカフェのお洒落なテラス席に座らされ、今現在は二人揃ってコーヒーを静かに嗜んでいる。
 だが、コーヒーの味がまるで分からない。恐らく美味しいのだろうが、フランツと二人きりのこの空間が私の味覚を奪っているようだ。


(一刻も早く帰りたい……)
「ロイとはどう言った経緯で親交を深めたのですか?」


 フランツはコーヒーカップの中に視線を落としたまま、急にロイの話を切り出した。


「ま、まあ同じクラスですし、卒業後の進路も同じで共通点があり、意気投合という感じでしょうか」
「そうですか」


 気まずい……。
 今は全く別の人物を演じているものの、昔泣かされた過去から私はフランツが大の苦手だ。それにこうして真正面から二人で話すのは初めての事。何を話せばいいのか分からないし、無駄を嫌う彼の口から出る言葉は最低限の言葉しか出てこない。だから会話が全く続かない。


「すでにご存知かもしれませんが、僕は無駄な時間が何よりも嫌いです。生産性がない」


存じております。


「できれば僕の質問には嘘偽りなく、単刀直入で答えて頂きたい。共通点だけではないでしょう?  なんせ、庶民の中で貴方が唯一、ロイを殴る事を許されているのですから」
「!!」


 誰かが話しているのを盗み聞いたか、誰かが報告したか、それとも普段から弟のことを監視しているのか。
 いずれにせよ、フランツに知らされたのは非常にマズイ。いくら殴られた本人が気にしなかったとはいえ、一庶民が王族を殴ったのだ。同じ王族として、名折れの恐れがある要素を放っておくわけにはいかないはず。
 まさか、私とロイの関係を問い詰める為に連れ出したのかと思っていたが、本当の狙いは、この事について言及するためだったのか?!


「そんなに焦らなくても、別に一庶民の貴方が王族を殴った事を責めるつもりは全くありません。寧ろ、貴方には感謝しているのです」
「え?」


 貴方から感謝されること以上に恐怖を感じるものはないのですが。


ロイが他人に心を許すとは思いもしませんでしたから。彼は僕と兄への劣等感の塊……最早それ自体が人型を為し得ていると言っても過言ではありません。僕や兄には常に頭を下げ、僕たちよりも出来が悪い人間はそもそも近寄らせない。彼も僕同様、利用価値がない物には一切興味を注ぎませんでしたから。
 だからこそ、貴方との関係が謎なのです。平々凡々な君の何がロイの興味を引いたのか」


 ……曲者の弟の人間関係を気にかけているとは、弟想いのお兄さんになったものだ。
 単純に無駄・無利益が嫌いな人間なのだと勝手に思い込んでいたけれど、成長するに連れてフランツも変わったな。

——まさかここまでになっているなんて


「残念ですが、決め手が何のか私にもさっぱりです。『一緒に頑張ろう』という声掛けをしたくらいしか心当たりがございません!  あははは!」


 私がもしフランツの性格を知っていなければ、彼はただの弟想いの心配性なお兄さんという印象以外思わなかっただろう。
 一見聞こえはいいけれど、『僕と兄への劣等感』という発言で本心ではロイの事を完全に見下している事が見て取れる。『常に頭を下げている』のは、そういう状況になるまで追い詰めているから。出来の悪い人間を近寄らせないのは、フランツ自身がそういう教育を彼に施したのだろう。そうでなければ心を許しても、自分から私やハイノに今も近づいて来たりもしないはず。

 本当に良い兄ならば、日常生活で頭を下げさせることはしないし、彼の難ありな性格を直そうとしてきたはず。そして、そういう努力をしてきた良い兄ならば本来、弟の過去よりも未来を語るのだ。

『昔や今はこんなだったけど、いつかはこうなってほしい』と。

 でも彼は過去の事に執着するばかりで、弟にどうなって欲しいかの話は出てこない。結局、ロイの事なんて何とも思っていないのだ。寧ろ本性は、ロイの孤立を望み、その姿を腹の中で密かに楽しんでいる、ただのだ。


「そうですか」


 期待に及ばないと分かった途端、意外にもフランツは追求する事を諦め、すぐに残念そうな顔を見せた。


「その調子だともう一つの質問も答えられそうになさそうですね」
 「もう一つの質問?」
「リア嬢の話によると、ラルフさんは6年前から公爵家に突然雇われたとか」
「それが何か?」


 この時、私は彼が言うもう一つの質問を聞く前に帰っておくべきだった。


「『鳥籠の姫』……オスカー・アルノルト侯爵家のラウラ令嬢と面識はありますか?」


 彼の口から出た『ラウラ』の名前が、私のコーヒーを飲む手を止めた。



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