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第42話 わかってるってば

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自室のソファにうつ伏せに身体をうずめて漫画を読んでいた。その体勢がとても楽であった。
その時、玄関の扉が開く音がして真っ直ぐに和也の部屋に向かってくる足音した。

嫌な予感した。

時計を見ると塾に行く時間であったため、起き上りリュックを背負ったところで部屋の扉が勢いよく開き「和也」と母の大きな声が響いた。

「どういうこと?」と和也の都合を気にせずに部屋にはいるとマシンガンの様に言葉をはいた「先生から電話があっただけど。なに? 学校途中で帰ったの? どういうこと?」

質問しているのに、こちらの返答を待たず鼻息を荒くしてしまってくる母に、腹が立った。
帰った理由がある。母は江本貴也と面識があったため彼の学校での様子を話しながら今回帰ってしまった事を説明するつもりではいた。

しかし、今この瞬間そんな価値がないと思った。

「うるせー」

大きな声を出すと母は驚いたようで口を閉じた。

「関係ないだろ」と言って部屋を出た。すると、後ろから母の声がしたが無視して走って家から飛び出た。
本気で“関係ない”などと思ってはいない。母に迷惑をかけた事は分かっていたが、急き立てられると言葉が出なくなった。

塾ビル近くに来ると同じ様に登校する生徒がチラホラ見え始めた。
いつもやる気がないが今日は特に勉強への意欲が激減していた。塾に行くのが面倒くさいと思ったが、行かないとまた母に文句を言われるので重い足を進めた。

塾に入るとすぐにクラス変更の掲示が目に入った。クラスは変わっていなかったが順位へ上がっていた。
不思議に思い自分より下の名前を見ると納得した。

新しい生徒だ。
勉強していないのに上がるわけがないと思ったため納得した。

教室に入ると和也がいつも座っていた席がもう埋まっていた。順位変更があり席替えが行われた。ホワイトボードに書かれた座席を確認して座ろうとすると、憲貞に声を掛けられた。

「うん?」
「授業後、話がしたいのだがいいか?」

あまり大きく表情を変えない憲貞であるが、この日は誰が見ても明らかに沈んでいた。

「あぁ」と一言告げると、自席に座った。

憲貞の話したい事が気になり、授業に集中できなかった。いつも集中しているわけではないが今日は特にだった。

全ての授業が終わり、自販機前の椅子に隣同士に座ると憲貞が口にしたのは“貴也”の名前であった。
学校での様子を聞かれたのでそのままを答えた。

「実は……。貴也は余り寝ていないと思うだ。私が寝る時、勉強している。私が目が覚めても勉強しているのだ」
「まぁ、都内の御三家だけじゃなくて首都圏の最難関校を狙うって言ったからそれくらいしねぇーとダメなんじゃねぇ?」
「そうなのだが……。貴也の身体が心配なんだ」
「そうだよな。じゃ、学校でなんかあったら連絡すればって」和也はそこまで言ってため息をついた。
「なんだ? 連絡は嬉しい。えっとメールか?」

自分のスマートフォンを見せる憲貞に和也は困った顔をして自分の子ども用携帯電話を見せた。

「あぁ、そうか。それは登録した番号にしか連絡できないのだったな」頷くと、憲貞ははすぐに鞄からちいさなメモ帳を出してサラサラと電話番号とメールアドレスを書いてくれた。

それを受け取ると和也は頷いた。

「あ、それと私が通っている桜華小のことなのだが」

憲貞は、渋るような言い方しながら和也に桜華中の現在の様子とそれを調べることになった理由を伝えた。

「ふーん。まぁ、俺は桜華いけねぇーしなぁ。 まぁ情報として知っとくわ」

あまり興味の持てない話に相槌を打つと鞄を持って塾を出た。以前なら母の迎えがあるが仕事が始まったためなくなった。
1人で帰るもの気楽だと考えているから特に気ならなかった。空は真っ暗であっても街頭や店の光で自宅までの道はとても明るかった。

歩きながら、憲貞の言った桜華中の桜花会の話を思い出した。会長に相当な権利があるらしく、まるで漫画の世界の様だと感じた。それを貴也が面白がる気持ちはわかるが行きたいとはならないなと思った。

「中村とか言う奴と戦うのかなぁ。アイツ俺には好戦的だけど学校じゃにこにこしてるだけじゃねぇーか。戦えんのかぁ。まず、俺らのグループに言われ放題のところをなんとかしねぇーと無理だろ」

自宅の玄関を開けると、派手な足音がしたと思ったら膝当たりに衝撃があった。

「おかえゆ、にぃたん」
「佐和子。ただいま」

足にくっついている可愛い妹を抱き上げると、頬に口づけした。

「さわちゃんね。きょうとーちゃん むかえ なのよ」
「そうなんだ。もうお風呂もはいったんだね」
「そーよ。ねまき なのよ。 ごはんもたべたのよ」

更に佐和子が今日あった出来事を話し始めたので、和也は頷きながらリビングに行った。そこに、食事を並べる父がいた。

「お帰り。食べたら洗ってしまってね。僕はさわちゃんと寝るから」
「かーさんは?」
「仕事」

それを聞いて安心した。喧嘩して出て行ったため帰宅後会うのはが気まずいと思った。
父が佐和子と寝室へ入るのを見送ったあと席について食事にした。母の味ではなかった。不味くはないが違和感があった。

風呂に入り自室に行くと、塾の宿題をローテーブルに置いた。その時ふと憲貞に携帯番号を貰ったことを思い出して父のもとへ向かった。

寝室を覗くと佐和子がぐっすりと寝ていたが父がいなかった。
少し考えてから父の仕事部屋をノックした。するとすぐに返事が返ってきて父が顔を出した。

「なに? これから仕事なんだけど」
「5分だけ」

そう言って、子ども用の携帯電話と憲貞にもらった番号を渡した。番号の相手を聞かれて憲貞であることを説明するとすぐに登録してくれた。
これが子ども用携帯電話の面倒くさいところだ。登録した番号からの電話やメールしか受診せず、登録するに暗証番号が必要なのだ。

和也は父に礼を言うとすぐに電話番号を登録したという憲貞にメールをした。それを“承知した”という返事が返ってきた。

ローテーブルにむかった。
そこには真っ白な課題が置いてあった。やる気が出ず転がると漫画が目に入った。
ヤンキーが大暴れして主人公をいじめる話だ。最終的にヤンキーが主人公の仲間になる。何度も読んでも面白くて読み始めると止まらずあっという間に時間がすぎた。

「あー、もう23時じゃん」チラリとローテーブルを見ると真っ白な課題が目に入った「うん、明日やろう」と頷いた。

ベットに入ろうとすると、廊下でバタバタと音がしたと思ったら扉が開いた。

部屋に入ってきた人物はローテーブルに開きっぱなしになってる真っ白なテキストを見て般若と化した。
その恐ろしさに何も言えず固まった。

「塾から帰ってきてなにもしてないの? 大体学校から帰ったらすぐに自習室へ行きなさい。授業ぎりぎりまで家で何しているの?」

怒鳴り声が部屋中に響いた。すると、パタパタと軽い足音がして父が焦ったが顔して入室した。

「ちょっと、なにしてんの? 僕、今授業中なんだよ」
「……」

父の声かけに般若の面が外れて母の顔が現れた。父は何も言わずに息を切らして真っ赤な顔をする母を連れて部屋を出て行った。

数分の出来事であったが、衝撃が強すぎて和也はすぐに動くことができず両親が出て行った扉をじっと見ていた。
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