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第五章
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しおりを挟む私は涙が中々止まらなくて、泣き止んだ時には目が少し赤くなっていた。
「うーん、泣いていたのが丸わかりだな」
「そんなに酷いですか?」
「ちょっと赤いだけだから、遠くからでは分からないだろうけど、近くですれ違う時にイリーナの顔を見たら分かると思うぞ」
それは困る………
貴族令嬢が泣き腫らした顔を見せるなんて恥になる、それに公爵令嬢として威厳がなくなってしまう。
「誰かに会う前に早く帰りましょう」
「そうだな」
お兄様も自分が泣かせたと、周りに思われたくないみたいですぐに行動に移す
お兄様が泣かせたようなものですけどね!!
馬車置き場に着くまでは、お兄様の後ろをピッタリ着いていき、すれ違う人に顔を見られないように気を付ける。
「お前な~、それだと余計に怪しいだろ」
「だって!!顔を見られたら絶対に泣いたのがバレてしまいますもの」
途中でお手洗いに寄らせてもらい、鏡で顔を確認したけど酷かった。
顔が隠れる帽子を目深にかぶりたい気分よ。
馬車に乗り込んだ私達は、やっと安心して力を抜くことが出来た。
「迎えに行っただけなのに酷い目に遭った」
お兄様は凄い疲れた顔をしているわね。
誰にもバレなかったから良いよね?
私が原因で疲れてるのは分かってるけど、気不味いから知らんぷりをしてると、横から頬をむにゅーっと引っ張られる。
「イリーナが原因で気疲れしてるんだが、何でお前は他人事みたいな反応をしてるんだよ」
「誰にも勘違いされてないから良いじゃないですか、それに私が泣いたのはお兄様が悪いんです。反省してください」
「だから悪かったって言ってるだろ」
「許してあげるので、お兄様もグダグダ言わないでください」
お兄様は大きな溜息をついてから、小声で分かったと言う。
私の勝!!
「それで何処まで分かったんだ?」
「全然です。古代語のせいで全く進んでないです」
「古代語か………、俺も選択してなかったから分からないな」
「ですよね~。お兄様の知り合いで古代語が分かる人いませんか?辞書を作ってまとめてる人が居たら良いのですけど」
私の周りには居ないのよね。
私の知り合いは女性ばかりだから、古代語を学ぶ人は居ない。
この国では女性が知識を身に付けるのをあまり良い顔をされないから、貴族の社交に役立たない古代語を学んでる人が居たら、周りから変人扱いをされてしまう。
こっそり勉強してる人がいるかも知れないけど、それを調査する方法がないのよね。
女性が独特な趣味を持っても良いじゃない!!
趣味にまでケチをつけるなんて、了見が狭いのよ。
「イリーナが抵抗ないなら、元叔父上を頼ってみたら良いんじゃないか?」
「フェンネル伯爵ですか?」
「あの方は学園では歴史を教えてるんだよ。特に古代文明が専門分野だから、古代語も得意なはずだぞ。伯爵になった今も教師を続けてるのは、教師でいるほうが色々と情報が回ってくるからだと言ってるぐらいだからな」
そうだったんだ。
フェンネル伯爵とは、私はあまり交流がないのよね。
お父様達が離婚する前も年に1度会う程度でしたし、離婚してからは1度も会ってないのよね。
これからは私も社交界に参加するから、会う機会が増えると思うけど気不味いのよね。
お互いに疚しい気持ちはないのだけど、親の離婚理由がアレだったから、お互いに気不味く思っている。
フェンネル伯爵は一般クラスを担当みたいだから、学園でも関わることはないのよね。
「話しかけづらいか?イリーナは昔っから元叔父上が苦手だったからな」
「うーん、優しい人だとは知ってますけど、あまり表情が変わらなくて、何を考えてるのか分からないから苦手なんですよね」
「あの人は興味があることならコロコロと表情が変わるんだけどな。イリーナは元叔父上と古代文明の話とかしないから、余計に不気味に感じるかもしれないな」
当たり前じゃない?
普段あまり関わらない人と古代文明の話なんてしないでしょ?
内容が独特過ぎるわよ。
「魔法が普通に使われていた時代の話は興味ありますけど、今はあまり関わるべきでは無いと思うんですよね」
「何で?」
「私はテイラー伯爵令嬢とテイラー伯爵夫人と関わらないようにしてるんです。2人を遠ざける時に親が離婚して他人になったのだから、関わらないように言ってるんです。ですからフェンネル伯爵と関わってたら、テイラー伯爵令嬢が絡んでくると思うんですよね」
言ってることもやってる事が矛盾してるって、絶対に責めてくる気がするのよね。
出来るだけ隙を作りたくない。
「あぁ~、なら俺が変わりに交渉してくる。お前達が学園に行ってる間に行くから、バレることはないだろ。元叔父上は歴史担当だから、休みも多いからその日を狙えばフェンネル邸で会えるだろ」
「お願いしていいですか?」
「任せろ」
フェンネル伯爵から辞書を借りることが出来たら、魔法について一歩前進するかもしれない。
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