41 / 82
三章 私という存在
9話
しおりを挟む
ノクト様は、そう冗談めかして笑った。
「とはいっても、魔法に限らず、君にはたくさん選択肢がある。他の誰でもない今の君が、したいことをするのが一番だと思うよ」
ーー他の誰でもない、今の私。
記憶が抜け落ち、感情の起伏があまりない今の私。
……でも。
「……ありがとうございます」
私を見てくれた、その言葉は嬉しかったから。
唇が自然と弧を描く。
「! ……ううん」
ノクト様から笛を受け取る。
紐もついているそれを、首にかけた。
「ありがとうございました。家のことも、魔法のことも」
「そんなに畏まらないで。僕がしたいことをしただけだから」
首を振るとノクト様は、微笑んだ。
「……さて。そろそろ城に戻るけどーー遠慮なく、笛は吹いてね。魔法に限らず、困ったことがあったらいつでも」
「……はい」
ーー優しい人だ、と思う。
彼との間に何かがあったのは、間違いないのだろうけれど。
それでも、記憶がない今の私の意思を尊重してくれたのは、彼だった。
そんなことをぼんやりと考えながら頷く。
「じゃあね」
ノクト様に手を振りかえす。
するとーー。
「消えた……」
淡い光に包まれてノクト様は、消えた。
「ううん、あれはーー転移魔法だわ」
私の頭の中の知識が囁くままに、呟く。
「ーーすごい! すごいですね!」
その様子を近くで眺めていたアリーは、興奮気味に私を見た。
「魔法を初めて見ました!」
きらきらと輝く瞳は、まるで、幼子のようで、微笑ましい。
「わたしも初めて見ましたが……あんなに一瞬で消えるものなんですね」
カイゼルも感心した様子で、ノクト様がいた方を見ている。
「転移魔法は、よほど練度が高くないと別の場所に転移するからーー本当に優秀な方みたい」
知識を手繰り寄せると、二人は感心したようにため息を漏らした。
君の次に優秀な魔術師、なんて冗談めかして言っていたけれどーー。
私は、魔術師団長だったのだという。
彼よりも上の立場の。
……本当に?
ーーかつての私は、本当に一人でそんなところまで上りつめることができたのかしら。
平民の私に、家庭教師がついていたとは考えられない。
それなのに、魔術師の通う学校に入学して、無事卒業して、それで魔術師団長まで?
話が出来すぎではないだろうか。
ーーそういえば。
「……元師匠で、友で、ライバル」
そう、ノクト様は言っていた気がする。
だったら、彼が魔法を私に教えてくれたのだろうか。
彼のように優秀な魔術師から教わったなら、魔術師団長になれる可能性はありそうだ。
でも、彼が私に魔法を教える利点はあったのだろうか。
「ロイゼ様?」
考え込んだ私を不思議そうにアリーとカイゼルが見つめていた。
「ううん。……!」
首を振ったところで、腹の虫が鳴った。
「ふふ、昼食にいたしましょうか」
「とはいっても、魔法に限らず、君にはたくさん選択肢がある。他の誰でもない今の君が、したいことをするのが一番だと思うよ」
ーー他の誰でもない、今の私。
記憶が抜け落ち、感情の起伏があまりない今の私。
……でも。
「……ありがとうございます」
私を見てくれた、その言葉は嬉しかったから。
唇が自然と弧を描く。
「! ……ううん」
ノクト様から笛を受け取る。
紐もついているそれを、首にかけた。
「ありがとうございました。家のことも、魔法のことも」
「そんなに畏まらないで。僕がしたいことをしただけだから」
首を振るとノクト様は、微笑んだ。
「……さて。そろそろ城に戻るけどーー遠慮なく、笛は吹いてね。魔法に限らず、困ったことがあったらいつでも」
「……はい」
ーー優しい人だ、と思う。
彼との間に何かがあったのは、間違いないのだろうけれど。
それでも、記憶がない今の私の意思を尊重してくれたのは、彼だった。
そんなことをぼんやりと考えながら頷く。
「じゃあね」
ノクト様に手を振りかえす。
するとーー。
「消えた……」
淡い光に包まれてノクト様は、消えた。
「ううん、あれはーー転移魔法だわ」
私の頭の中の知識が囁くままに、呟く。
「ーーすごい! すごいですね!」
その様子を近くで眺めていたアリーは、興奮気味に私を見た。
「魔法を初めて見ました!」
きらきらと輝く瞳は、まるで、幼子のようで、微笑ましい。
「わたしも初めて見ましたが……あんなに一瞬で消えるものなんですね」
カイゼルも感心した様子で、ノクト様がいた方を見ている。
「転移魔法は、よほど練度が高くないと別の場所に転移するからーー本当に優秀な方みたい」
知識を手繰り寄せると、二人は感心したようにため息を漏らした。
君の次に優秀な魔術師、なんて冗談めかして言っていたけれどーー。
私は、魔術師団長だったのだという。
彼よりも上の立場の。
……本当に?
ーーかつての私は、本当に一人でそんなところまで上りつめることができたのかしら。
平民の私に、家庭教師がついていたとは考えられない。
それなのに、魔術師の通う学校に入学して、無事卒業して、それで魔術師団長まで?
話が出来すぎではないだろうか。
ーーそういえば。
「……元師匠で、友で、ライバル」
そう、ノクト様は言っていた気がする。
だったら、彼が魔法を私に教えてくれたのだろうか。
彼のように優秀な魔術師から教わったなら、魔術師団長になれる可能性はありそうだ。
でも、彼が私に魔法を教える利点はあったのだろうか。
「ロイゼ様?」
考え込んだ私を不思議そうにアリーとカイゼルが見つめていた。
「ううん。……!」
首を振ったところで、腹の虫が鳴った。
「ふふ、昼食にいたしましょうか」
3,073
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる