甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理

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恨みますわよ、お父様

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 私は今日――結婚する。
 いわゆる政略結婚だ。……だと思う。
 私の結婚相手は父が決め、私も相手も平民ではない。

 それなのに、なぜ、政略結婚なのか疑問があるのか。

それは私と結婚相手の間にある身分差だ。

私は、しがない伯爵家の長女だ。
伯爵家なので、私の祖国では一応上位貴族に入る。
  しかし――相手の身分の前では塵に等しい。

私の結婚相手は……なんとびっくり、大国である、隣国の皇帝陛下なのだ。

 しかもそのお相手は、冷酷と名高い方で、政敵をばったばったとなぎ倒し、今の地位についたのだ。
 そんな冷酷皇帝陛下の、妻になるのだという。

 こんなの絶対政略以外に、理由があるはず。
 大方、本命は別にいて、私はそれを隠す羊だ。

 そして、役目が終えたら断頭台へ、というわけだ。

「恨みますわよ、お父様」


◇◇◇

「お前の貰い手を、ずっと探していたんだがな」
 父から深刻そうに話を切り出されたとき、私は覚悟した。
 私は伯爵家の長女であるが、跡取りではない。これは、もしかすると、修道院……。

「ついに見つかったぞ! 良縁をつかんだ父を褒めたたえよ!!!」
「……まぁ、すごい」

 気のない返事をした私をじっとりと父はねめつけた。
「私が、……私がお前の結婚相手を見つけるために、何本の髪を犠牲にしたと思っておる」
「そうですね、ざっと八万本でしょうか」
「ええい、具体的な数字を言うんじゃない!! 悲しくなるわ」
 残り二割になった髪の毛を大事そうに撫でながら、父は咳ばらいをした。

「……とにかく。そんな心労を抱えながらも結んだこの縁、必ずものにせよ」

 父がものにしろ、とまで言うのは無理もない。
 実は今まで私の婚約話は十回ほどあがっており、そのどれもが破談になった。もはや、私の中では諦めムードである。

「今回は破談にならないといいですわね」
「また、お前は他人事のように……。よし、決めたぞ」

 父がびしっと私の前に人差し指を突き出した。

「お相手様は、今すぐにでもとお前をお求めだ。というわけで、嫁ぐか」
「……は?」
「うんうん、それがいいな。私ってば天才。必要なものも、あちらで用意してくれるようだ。……というわけでミレシア、行ってきなさい。今すぐに」
いうが早いか、父は指をぱちんと鳴らした。
「……!?」
 そして、使用人に書斎の外へと連行される私。

「お父様、いくら何でもそれは……!」
「幸せにな!!!!!!!」

 親指を立てた父の向こう側――母の肖像画に助けを求めたけれど、絵でしかない肖像画が応えてくれるはずもなく。

 私はあっけなく、邸から連れ出され、馬車に押し込められた。


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