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前世の話
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──世界を救うのだと、そういわれた。
事実私の人生はそういわれてから、そのためだけにあった。決して、弱音を吐いてはいけない。決して、涙を見せてはいけない。
それでも、良かった。私のしてきたことに意味があるなら。それに、私を支えてくれる人が隣にいたから。
「大丈夫だよ、エフィー」
名前を呼ばれるたび、大丈夫だと手を握られるたび、どれだけ、貴方に救われただろう。
けれど。
「どうして、一か月もエフィーの恋人でいなければならない! 私は──」
■ □ ■
私、絵梨は、ある日中学の登校途中に、異世界に召喚された。世界を救う『聖女』として。その世界は、どうやら魔物と呼ばれる獣と戦っているらしい。けれど、その獣たちは強く魔物と言う種を根絶やしにするまでは至っていなかった。そこで、人々は、魔物を根絶やしにする力を持つものを望んだ。
そこで、私が召喚されたわけだ。
どうか、世界をお救いください、と私を召喚したであろう人々に懇願された私は頷いた。
元より、孤児だった身だ。誰かに必要とされるのは嬉しい。
そして、魔物という種を根絶やしにするために、世界中から集めたという精鋭を引き連れて、魔王──全ての魔物の産みの親だ──を倒す旅が始まった。
日本ではただの小娘だったはずの私は、その『聖女』という役割に合わせて、強大な魔法が使えるようになった。
けれど、最初はその力を魔物に向けることを躊躇った。いくら人間に害をなすとはいえ、命を奪うという行為に抵抗があった。
けれど、聖女として召喚された際に、決して弱音を吐いてはいけない、と言い含められていたので、誰にも相談できなかった。
けれど、魔法を唱える度に震える手を必死に後ろに隠した私の手をそっと握ってくれた人がいた。
その人の名をセドリックという。私を召喚した国──ユートリアの第二王子だった。
驚きで、固まった私に彼は私にだけ聞こえるように、囁いた。
「大丈夫だよ、エフィー」
包まれた左手が暖かい。そのことを意識すると、何一つ大丈夫じゃないはずなのに、不思議と震えは止まっていた。
絵梨という名前はこの世界では発音しづらいらしく、エフィーというこの世界で与えられた名前も、セドリックに呼ばれると、なぜか悪くない気がした。
──旅を続けること、五年。一度魔王相手に撤退しながらも、何とか私たちは魔王を倒すことができた。
私を召喚した国の王に望みを一つだけ叶えようと言われたときに、一ヶ月だけ、彼を私の恋人にして欲しいと頼んだ。
魔王を倒すためとはいえいつでも、私に優しいセドリックに私が恋心を抱くのは必然だった。
セドリックには、恋人も婚約者もいないと聞いていたし、それに、おそらく私自身も嫌われてもいないという自惚れがあった。
けれど。
「どうして、一か月もエフィーの恋人でいなければならない! 私は──」
どうやら私は、貴方を邪魔するだけの存在だったようだ。忌々し気に漏らされた声に息をのんだ。伝えたいことがあり、扉をノックしようとした手を止める。それ以上、聞いていられなくて、気づけば、城から飛び出していた。
──そして、私は死んだ。
事実私の人生はそういわれてから、そのためだけにあった。決して、弱音を吐いてはいけない。決して、涙を見せてはいけない。
それでも、良かった。私のしてきたことに意味があるなら。それに、私を支えてくれる人が隣にいたから。
「大丈夫だよ、エフィー」
名前を呼ばれるたび、大丈夫だと手を握られるたび、どれだけ、貴方に救われただろう。
けれど。
「どうして、一か月もエフィーの恋人でいなければならない! 私は──」
■ □ ■
私、絵梨は、ある日中学の登校途中に、異世界に召喚された。世界を救う『聖女』として。その世界は、どうやら魔物と呼ばれる獣と戦っているらしい。けれど、その獣たちは強く魔物と言う種を根絶やしにするまでは至っていなかった。そこで、人々は、魔物を根絶やしにする力を持つものを望んだ。
そこで、私が召喚されたわけだ。
どうか、世界をお救いください、と私を召喚したであろう人々に懇願された私は頷いた。
元より、孤児だった身だ。誰かに必要とされるのは嬉しい。
そして、魔物という種を根絶やしにするために、世界中から集めたという精鋭を引き連れて、魔王──全ての魔物の産みの親だ──を倒す旅が始まった。
日本ではただの小娘だったはずの私は、その『聖女』という役割に合わせて、強大な魔法が使えるようになった。
けれど、最初はその力を魔物に向けることを躊躇った。いくら人間に害をなすとはいえ、命を奪うという行為に抵抗があった。
けれど、聖女として召喚された際に、決して弱音を吐いてはいけない、と言い含められていたので、誰にも相談できなかった。
けれど、魔法を唱える度に震える手を必死に後ろに隠した私の手をそっと握ってくれた人がいた。
その人の名をセドリックという。私を召喚した国──ユートリアの第二王子だった。
驚きで、固まった私に彼は私にだけ聞こえるように、囁いた。
「大丈夫だよ、エフィー」
包まれた左手が暖かい。そのことを意識すると、何一つ大丈夫じゃないはずなのに、不思議と震えは止まっていた。
絵梨という名前はこの世界では発音しづらいらしく、エフィーというこの世界で与えられた名前も、セドリックに呼ばれると、なぜか悪くない気がした。
──旅を続けること、五年。一度魔王相手に撤退しながらも、何とか私たちは魔王を倒すことができた。
私を召喚した国の王に望みを一つだけ叶えようと言われたときに、一ヶ月だけ、彼を私の恋人にして欲しいと頼んだ。
魔王を倒すためとはいえいつでも、私に優しいセドリックに私が恋心を抱くのは必然だった。
セドリックには、恋人も婚約者もいないと聞いていたし、それに、おそらく私自身も嫌われてもいないという自惚れがあった。
けれど。
「どうして、一か月もエフィーの恋人でいなければならない! 私は──」
どうやら私は、貴方を邪魔するだけの存在だったようだ。忌々し気に漏らされた声に息をのんだ。伝えたいことがあり、扉をノックしようとした手を止める。それ以上、聞いていられなくて、気づけば、城から飛び出していた。
──そして、私は死んだ。
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