次女ですけど、何か?

夕立悠理

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中学生編

37 道脇桜 とある問題に関する疑問

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 欠伸をしながら、別荘――道脇家は毎年夏休みは別荘で過ごす――の階段を降りると、玄関で楓ちゃんが出かける準備をしていた。まだ時刻は朝の七時を回ったばかりだというのに、もう、出かけるらしい。
「あら、楓ちゃん出かけるの?」
「今日は、海に行ってきます」
楓ちゃんは確か最近、水泳教室でビート板から卒業したばかりのはずだ。そんな状態で、海なんて行って大丈夫かと心配になる。

「泳ぐの?」
「いいえ、残念ながら。今日は、前川様と夏休みの工作に使う貝殻探しです」
――桃さんも誘ったのですが、断られたのが残念です。
 ですが、貝殻探しが終わった後はサグラダファミリアを砂で作る予定なんですよ。と得意げに笑った。どうやら、心配は杞憂のようで、安心する。そして、その様子を見ながら、考える。
 前川零次――……前川家次男で楓ちゃんの親友だ。楓ちゃんとは、時々こうして遊びにでかけるらしい。……そう、本当に仲がいいのだ。
「本当に仲がいいのね」
「ええ、親友ですから」
 数年前から、ずっと気にかかっていることがある。
 当時は、私も小学生でお爺様に反抗できなかったけれど。でも、今ならもしかしたら。

「お姉様……?」

 楓ちゃんに呼びかけられてはっとする。どうやら、考えごとをしていて少しぼうとしてたらしい。
「何でもないわ。楽しんできてね」
私がそういうと、楓ちゃんは笑みを浮かべて頷いた。
「はい、お姉様。お姉様にもお土産を持って帰りますね」
前川様の迎えが来たようなので、失礼しますね、そういって、楓ちゃんは、出かけて行った。

 その姿を見届けた後、私はリビングに行き朝食をとった。

 ■ □ ■

 私、道脇家の長女である道脇桜には妹が二人いる。一つ年下の道脇楓と、三つ年下の道脇桃だ。末っ子である桃ちゃんに触れるのは、また次の機会にするとして、今日は、次女の楓ちゃんについて話そうと思う。

 数年前まで、楓ちゃんは、学校だけでなく、家の中でも事務的なやり取りしかしなかった。お母様やお父様、私や桃ちゃんに対して、まるで興味がないといったような顔をするのだ。
 私はどうにか楓ちゃんの感情を引き出したくて、プールとか色んな場所に連れまわしたりもしたけれど、全く無感動で逆に感心したりもした。桃ちゃんも私とは別の方法で何とか、感情を引き出そうとしていたけれど、どれも失敗に終わった。

 そんな楓ちゃんが、家族の中で唯一心を開いた相手がいる。道脇淳――道脇家の次期当主で私たちの従兄にあたる人物だ。私と桃ちゃんは淳さんと呼んでいるが、楓ちゃんは淳お兄様と呼んでいる。
 楓ちゃんは、淳さんに本当によく懐いた。小さい頃は、それはもう雛のように淳さんの後をついて回っていたし、私たちには向けることのない笑みを淳さんの前ではたくさん零した。

 従兄じゃなくて実の姉である私にだって懐いて欲しかった――とは思うけれど、今思い返せば仕方ないのかもしれない。
 お父様とお母様は、楓ちゃんよりも私や桃ちゃんを優先させることが多かったから、楓ちゃんは疎外感を感じていたのだろう。決してお父様とお母様が楓ちゃんのことを全く愛していないわけではない。でも、私たちの目にも明らかなぐらい、お父様たちの中で明確に優先順位がついていて、その中で楓ちゃんの順位は下だった。

 けれど、その家族関係にも数年前から、変化が見られた。楓ちゃんは、私たちの前でも笑うようになったのだ。家族関係の件はお父様たちにも大いに原因があると思うし、そのせいで楓ちゃんと桃ちゃんの仲がこじれたと思うけれど――楓ちゃんにどのような心境変化があったかは知らない。けれど、確かに楓ちゃんは私たちに歩み寄るようになった。

 そのこと自体はとても嬉しいことで、私は以前にも増して楓ちゃんを可愛がっている。
 ただ、そうなるうちに一つひっかかることができた。

 だから、私は今、目の前の人物を呼び出したのだ。

「……やぁ、桜ちゃん。突然、どうしたの?」 
淳さんは私の向かい側の席に座ると、私に尋ねた。わざわざ、洋菓子専門店に呼び出したのは、別荘ではできない話をするためだった。

「桜ちゃん、本当によく食べるね。……流石楓と同じ血だ」
 私がホールケーキを食べていると、何かぼそぼそと淳さんが言ったが、そんなことは関係ない。今日は、雑談をしながらケーキを食べに来たわけじゃない。名残惜しいけれど、フォークを置いて、本題に入る。
 さて。今日私が淳さんを呼び出したのは道脇桜として――、いや、道脇楓の姉として聞かなくてはならないことがあったからだ。

「淳さん、楓ちゃんではなく、私を貴方の婚約者にする気はない?」
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