その童貞は返却可能か否か

矢須キヨ

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その童貞は返却可能か否か

第2話

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 互いに一人暮らしをしていると判明した後、どちらの部屋に行くかで話し合った。事後の心境を予想して、虚しい気持ちで帰路に就くよりも相手の背中を見送る方がましだろうと考えた澪は自室に八重を招き入れることにした。
 帰宅途中に寄ったコンビニで八重は確かに避妊具を購入したので冗談ではないのだろう。
 澪の部屋に帰った後に再度確認した。

「やっぱり風俗でプロにお任せした方が良いんじゃない?」

 お金が惜しくて澪を誘ったのだとしたら舐められた話だし、初めての経験を満足のいくものにしたいならプロの力を借りた方が確実だ。
 お気に入りのソファに並んで腰掛けた八重を見上げると、びっくりするくらいに真剣な眼差しで見つめ返された。

「知らない人に金渡してするくらいなら羽島さんに渡すよ。いくら必要?」
「ちょ、売春になっちゃうでしょ、それは。いらないっ、いらないから」

 財布を取り出した彼に本気を感じて慌てて止める。流石に金銭を受け取るわけにはいかない。
 八重は財布を鞄に戻さずに無垢材のローテーブルにとんと置いた。黒い革の長財布に添えられた指がやけに艶めかしく見えて一瞬気を取られる。その指がするりと軌道を描いたかと思うと、澪の顎に静かに添えられてくいっと上を向かされた。

(あっ)

 と思ったときにはすでに二人の唇は重なっていた。咄嗟に目を閉じた澪は益々混乱する。童貞だと言い切った割に躊躇いもなく落とされたキスと、その慣れた手つきに。
 最初は軽く触れ合うだけだったキスが何度か触れて離れてを繰り返した後、八重の唇が澪のそれをむように動き始めた。柔らかな感触が上唇、下唇と交互に優しく吸い付いてくる。

「んっ……」

 次第に唾液が滲んできて、ちゅっちゅっと微かな音を立てると羞恥に声が漏れる。それを待っていたと言わんばかりにぬるりと熱い舌が澪の唇をこじ開けて侵入してきた。

「ふっ、んんっ……」

 唇の浅いところをぐるりと一撫でした八重の舌が遠慮なく伸ばされて澪の舌を絡め取ろうと蠢く。互いの舌が触れ合ったかと思えば、性急な動きで擦り付けられて澪も必死に応じる。
 経験はある。キスもセックスも。
 とは言え、最後に彼氏がいたのはもう二年も前だし、恋人と呼べる男性以外と関係を結んだことも、こんな誘われ方をして身体を繋いだこともない。至って健全なお付き合いしかしてこなかった。

(どうして頷いちゃったんだろ……)

 ぺちゃぺちゃと響く水音を聞きながら、舌全体に心地良い快感を受けながら、ぼんやりと頭の片隅で思う。けれど澪の顎を支えていた指がするりと頬を撫でたことで思考は分断された。

「はぁ……」

 わずかに離された八重の唇が色めいた吐息を吐き出した。そっと目を開けば間近で瞬く切れ長の瞳に澪が映り込んでいる。

「ベッド借りていい?」
「……うん」
「じゃあ行こう」

 先に立ち上がった八重に手を取られ、さほど距離のないベッドに向かう。彼の身体に触れるのはこのときが初めてで、先にキスを済ませてしまっているアンバランスな事実を思い知らされる気がした。

(服、脱いだ方がいいのかな)

 しかし初体験の彼を思いやる気持ちは不要だとわかった。ベッドで並んで腰掛けた八重が啄むようなキスを落とすと同時に澪のモヘアニットの裾から両手を滑り込ませてきたからだ。
 指の腹が腰から脇を滑る感覚に背筋がぞわぞわと波打つ。八重の大きな手はほんの一瞬だけブラジャーの上から胸を包みこんだ後、背中に回ってホックを外し、ニットもシャツもブラジャーも一息に脱がしてしまった。

「や、恥ずかしい……」
「大丈夫。可愛いから見せて」

 俯く澪の耳元に甘い囁きを落として八重は胸に触れてきた。
 最初は掌を押し当てるように。次に下からすくい上げるようにやわやわと揉みしだき、親指で乳輪と乳首を優しく撫でさする。

「あっ、やだ……」
「あー……柔らか。触ってる俺も気持ちいい」
「んんっ」

 次第に力の増す親指が乳首をこね始める。不規則な動きは胸の先端を尖らせて、より快感を得ようと敏感さを増していった。

「おっぱいデカかったんだね」
「そ、そうかな……あっ」

 八重の言葉につられて胸元に視線を落とすと細く長い指が鷲掴みにした澪の胸に食い込んでいる。音楽を奏でるために鍵盤を叩くというその指がみだらな行為に耽っている。そう意識してしまったら澪の腹の奥底がじわりと疼きを呼び起こした。
 それに気付いたのか、それとも偶然か。八重が掌に力を込めて澪をベッドに押し倒し、覆い被さってきた。唇から頬、首筋と鎖骨へと舌を這わせ、熱を帯びた乳首をべろりと舐めあげる。

「やっ、あんっ、待って」
「んー?」

 駆け上る快感に身体を弾ませても八重は動きを止めてくれない。ねっとりと湿った舌でピンと張った先端をつついて転がして押し込んで、もう片方の乳首も指で執拗に責め立てる。ショーツに温かいぬめりが広がっていることを自覚してしまい、澪は思わず腰を揺らした。

「羽島さん、気持ちいい?」
「ん、んんっ」
「教えてほしい」
「き、もち、いい、よ……」
「じゃあこっちは?」

 乳輪をぐるりとなぞる舌の動きに背を反らせていると、八重の空いた手がスカートからはみ出した太腿の内側に潜り込んだ。

「やっ、そこは」
「ここはどう?」
「やんっ……」

 ショーツの上から的確に膣口に触れられる。すでに愛液を染ませたクロッチがくちゅりと淫靡な音を立てた。

「濡れてるね」
「言わないで……」
「どうして? えろくて可愛い」

 身をよじる澪の首元にキスをしながら八重はクロッチに当てた指でくるくると円を描く。緩やかな動きなのにひどく気持ちいい。なのにもっと強い刺激を求めるように膣口がひくひくと震えてしまう。ねちゃねちゃと粘着質な水音が大きさを増す中、羞恥と快感で身体が燃えるように熱かった。

「うわ、えろっ……」

 促されて腰を軽く持ち上げるとスカートとショーツを下ろされた。立てた両膝を割り開き、陰部をじっと見つめた八重がそんな感想を漏らす。

「やだっ、じっと見ないで!」
「見るに決まってる。びしょびしょだ……」

 ずけずけと吐き出されるデリカシーのない言葉に目を閉じて顔を背けた。もう勝手にしてほしい。
 澪の心の中を読んだのか、八重の手は性急に陰部へと伸ばされた。淡い茂みを掻き分けように指で払い、てらてらに愛液のまみれた秘肉をくいと押し広げる。感触を楽しむように入り口付近をくにくにと揉んで、卑猥な水音を更に響かせた。

「はぁっ、あんっ……」

 触れて欲しいのはもっと奥の方なのに、浅いところを弄られて切ない吐息が溢れる。
 初めて抱き合う相手、それも童貞だからか、彼のペースがわからなくて焦れったさが募っていく。刺激を望む秘所がはくはくとうねってしまうのを澪自身は止められない。
 緩慢な時間に息が切れそうになったところでくちゅ、と八重の指が膣に差し込まれた。周辺への緩い快感に悶えていた澪は熱い中心に訪れたダイレクトな刺激に身体を弾ませる。

「やぁっ……!」
「あー……めっちゃトロトロであったかい……柔らかすぎてやば……」
「ま、待って、八重、くん……っ!」

 ずぶずぶと沈められた指が内壁をなぞり、こちらの反応を試すようにあちこちを蹂躙していく。二年ぶりに感じる内側からの刺激はあっという間に高みへと押し上げる。

「気持ちいい? いけそう?」
「やだやだ、待って……あっ、あぁっ!」

 ぐちゅぐちゅと抜き差しされる指に追い立てられて澪は容易く達してしまった。まだ衣類をまとったままの八重の下で白い素肌を晒して全身を震わせて。

「はぁ、はぁ……」
「うわ、締め付けやば……ごめん、俺ももう我慢出来ない」

 指を引き抜いた八重がベッドを降りてローテーブルに向かい、直ぐさま澪の足の間に戻ってきた。その手には避妊具の箱があり、ペリペリとフィルムを剥いでゴムの個包装を引きちぎる。そして自らの服を脱ぎ捨てていく。

(やっぱり細い……)

 絶頂直後の霞んだ意識で八重のほっそりとした上半身を眺める。無駄な贅肉のないすべすべした肌が綺麗で思わずじっと見つめてしまう。
 が、下半身のベルトに手を掛けたので慌てて視線を逸らすと、衣擦れの後にペチンとゴムを装着したであろう音が鳴って澪の鼓動をどくんと昂らせた。
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