イケニエアゲハ~執着の檻に囲われて~

小達出みかん

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第二部 王様の牢屋

裏切り

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う゛ええっーーー…


玲奈はトイレに向かって吐いていた。吐いても吐いても、こみ上がってくる気持ち悪さは止まらない。次第に吐くものがなくなり胃液が出た。どこもかしこも痛い。


「うっ……く…………」


喉が気持ち悪い。口の中も。いや体中だ。精液がまだべったり残っているようだ。


玲奈は生理的に滲んだ涙を乱暴に拭った。その手首はまだ鎖でベッドに繋がれている。トイレはぎりぎり行けるが、台所や洗面所には行けない。


(口………ゆすぎたい)


薬をたてに、様々な事を強要された。一ノ瀬ともしなかったような事を。


体中這い回る温い舌、口に侵入する唾液、精液の味、そして首をしめられた感触…………


玲奈はぶるっと身震いした。どうがんばっても風呂場までは鎖が届かない。だけれどあいつの寝ているベッドには近寄りたくない。

玲奈はトイレに戻って、鎖をドアの下の隙間にくぐらせ閉めた。どんな細工をしたのか、鍵はかからなくなっていた。


携帯は壊された。この住居には外に連絡できそうなものは何もない。

一ノ瀬は、玲奈がいなくなったことには当然、気が付くだろう。だが………


(警察に届けなんて、絶対出さない……)


面倒ごとの嫌いな男だ。探しすらせず、「飛んだ」の一言で済ませるかもしれない。エリカの時のように。

そしたら玲奈が死んだとしても、誰も気が付かないーーーー。

玲奈はうなだれた。


(どうしよう。私、どうなるの………?)


だが何も考えられない。心身ともに痛めつけられ、疲労困憊した玲奈は下着のままトイレにもたれ掛かったまま死んだように眠りに落ちた。









深夜。はっと目が覚めた築城は隣に玲奈が居ないことに気が付いてあわてて飛び起きた。トイレを開けたら彼女はそこにいた。

自分の精液と、玲奈自身の匂いが混ざり合った甘い麝香のような空気に、ぞくりと鳥肌が立った。

彼女から自分の精液の匂いがすることに、体が奮い立ち、再び熱を持った。築城は苦笑した。


(さっき散々したあとだっていうのに…)


何回出しただろう?口に腹に足に…………それに膣内。何度も写真を見て欲望を募らせていた体。人形のように細くて華奢な……。


だけど足の間にはちゃんと男を受け入れる場所がついていた。唇と同じように桃色で、湿っていて、柔らかい肉の裂け目。その中に自分を入れて、何度も出した。白い精液がどろりとあふれだすほど、何度も。

正常位で覆い被さると、彼女の苦痛に歪む顔がはっきり見えた。バックから犯すと華奢な体は突くたびにしなって、あそこはぎゅっと締まった。抜いた後には、点々と彼女の血が垂れた。おもちゃを壊しているみたいだった。


気持ちよかった。我慢ならなくて何度も出した。


下着だけでトイレに倒れる玲奈の体には、築城が付けた様々な痕が残っていた。鎖骨に、腹に、背中に赤いキスの痕。首には手の痕、体中乾いてこびりついた精液と、顔には涙のあと…………


満足感と、興奮と同じくらいに哀れむ気持ちが築城の中に溢れた。


(可哀想に、こんなになって………お前は、ただ頑張って生きてただけなのにな)


玲奈の個人調査票には、両親は死亡とあった。そのあと転々として、いまの得体の知れない男のところに居る。おそらく利用されているだけなのに、玲那は男をうちの人とよんで頼って見せた。


そんな家庭環境なのに、他の生徒よりも良い成績を取っている。陰で相当努力しているのはわかっていた。


(ごめんな………だけどもう、辛い思いはさせない。勉強も頑張らなくたっていい。俺が……ここでずっと、お前を守ってやるから)


築城は眠る玲奈の体を抱き上げた。そして頬にキスをした。







朝の光。テーブルの上に置かれた一錠の薬を、玲奈は絶望的な気持ちで飲み下した。


「じゃあ行ってくるからね、玲奈。良い子にしてるんだよ」


築城はそう言って玲奈の頭を撫でた。ぞっとしたが、もう鳥肌も立たなかった。築城はそんな玲奈を抱きしめた。


「ごめんね。昨日はやりすぎた。次はもっと、仲良くしよう」


 次。次とは。当然やつが帰ってきたら、また無理やりされるんだろう。バタンと絞められた扉をぼんやりと眺めながら、玲奈はどこか朦朧とした頭でそう考えた。


 朝になってわかったが、ここの窓は開かない。広々としたワンルームの、天井まである窓ガラスは開くようにはできていないのだ。もし開いたとしても、目のくらむような高さだ。どうにもならない。


(スパイダーマンなら、逃げられるかな…)


 そう思うと、かすかに口の端が上がった。


(なんだ、まだ笑えるじゃん)


 ガラスにうっすら映った自分を見て、玲奈は不敵な笑みを浮かべた。そうだ。あんなことをされたって、私の心まで汚す事はできない。


「絶対負けない」


 玲奈は口に出してそう言った。あんな男、怖くなんかない。隙を見つけてなんとしてでも脱出してやる。そう心に誓った瞬間、さっき閉まったばかりのドアがバタンと開いて玲奈は


びくりと肩を震わせた。


「え…なん…で…」


「玲奈!」


 玄関から走ってきたハヤトが、玲奈に飛びついた。


「大丈夫?ひどいことされなかった?」


 ハヤトがそう言ったので、玲奈はなりふりかまわず必死で訴えた。


「お願いここから出して!閉じ込められたの、助けてくれればなんでも…」


 そこまで言いかけて、玲奈ははっと気が付いた。


「ねぇ、ハヤト…なんでここ知ってるの?もしかして」


 困ったようにハヤトは笑った。


「ごめんね、玲奈。先に謝っとく」


 玲奈は力なくその場にひざをついた。


「あんたも…共犯ってこと?なんで…なんでこんなこと」


 ハヤトはちょっとうつむいた。


「ごめんね…僕も最初は、反対したんだよ」


「どういうこと…?」


 ハヤトは再び玲奈を抱きしめた。


「だって玲奈がしたのは俺だけだったんだよ。だから他のやつにはさせたくなかった。でも…このままじゃ玲奈は、あのメガネと付き合って、俺たちを切る気なんでしょ?」


 玲奈は目を白黒させた。


「俺だけ?メガネって…三上くんのこと?なんでそんな…」


 そうか。築城がぜんぶこいつにもバラしたんだ。それで唆されて…。察した玲奈はがっくりと膝の力が抜けた。


「ねぇ、あいつの事が好きって本当?俺に男いないって言ったの嘘だったの?」


 ぎゅうぎゅうと腕に力がこめられた。玲奈は無抵抗につぶやいた。


「付き合ってなんかない。そんな時間あるわけない。私は誰とも…」


 ハヤトが玲奈の顔を覗き込んだ。


「じゃあ玲奈の片思いってことなの?」


 三上の事を考えると、玲奈の顔が歪んだ。


「なんなの?!そんなのどうでもいいじゃん、私が誰を好きでも嫌いでも!」


 それを見てハヤトは苦い笑いを浮かべた。


「玲奈も案外子どもなんだね。俺たちみんな、ただのコマだと思ってる」


「何言ってんの、ハヤトと私は…ただのセフレみたいなもんでしょ、なんで今更…」


「そうだね、僕はお金を出さないと玲奈とヤレなかったけど」


「それで怒ったの?なら今までもらった分返すよ、だからお願い、」


 だがハヤトはそれを遮った。


「だからわかってないなぁ。金の問題じゃないんだよ。その三上ってやつは、金を出さなくても玲奈とやれるんだ。キスもしたんだ」


 …そんなことまで知られてる。玲奈はぎゅっと目を閉じた。


「いいじゃん別に…!なんで、なんでそんな事で、こんな目にあわなきゃいけないの!?た、たかだかキスくらいで…!」


 必死の玲奈に、不気味なほど静かにハヤトは言った。


「見たくなかったんだけどさ。見ちゃったんだよね。動画」


「な…何の」


 もしかして、昨日の築城の…?!玲奈はさすがに泣きたくなった。


「花火の。君とあいつがしゃべってるの。せんせーが撮ってた」


 そんな所まで撮っていたのか。つくづく気持ちが悪い。玲奈はぞっとして腕を抱いた。


「玲奈さ、なんていってたっけ…『ずっとこうしてられればいいのに、三上君と…』だっけ。告白されて、すっごい嬉しそうな顔してたね」


 しずかな声とは裏腹に、目には力がこもっていた。


「俺見たくなかったんだよ。目をそらしたんだけどせんせーが無理やり見せたんだ。俺、吐きそうになったよ。胸がバクバクして頭痛くなって、倒れそうになってさぁ…。」


 今まで見たことがないほどハヤトは真剣で、その恐ろしさに思わず玲奈は体を縮こまらせた。


「そんなにあいつが好きなの?なんで?どうせ勉強しか取り柄ないつまんないガリ勉だろ。あんな分厚いメガネで、ダサいしキモいのに」


 怖くても、その言葉は玲奈の反抗心に火をつけた。お前になにが分かるんだ。三上君の気持ちがどれだけまっすぐか。清いか。

なんの関係もないのに罵られた玲奈を教室でかばってくれたのだ。

玲奈の見た目でなく、心に目を向けてくれた。心で、玲奈と彼はつながったのだ。


「何も知らないくせに!彼は…三上君は、まっすぐで、立派な人なんだ」


 ハヤトが目を細めた。見たことがないくらい意地悪な顔つきだった。


「玲奈も、恋愛のことになるとバカなんだね。俺があいつの事、知るわけないだろ。というか、知りたくもなかったよ、最初からね!」


 ハヤトは玲奈をそのまま床に押し倒した。


「ねぇ聞いていい?俺とあいつ、どっちが好き?」


 力で圧倒されながらも、玲奈は顔をゆがめて言い返した。


「そんなの、決まってるじゃん…!聞かなくたって」


「どっちなの?ねぇ」


 花火の日の事を思い出すとつらかった。彼の事を思うとこらえきれず涙があふれた。玲奈は叫んだ。


「三上君だよ!三上君が好き!!」


 今度はハヤトの顔が苦し気に歪んだ。


「好きって、好きっていったじゃん、俺のこと好きって言った…」


「言ってない!」


「言ったよ、玲奈に入れてるとき!俺の部屋で!」


「あ、あれは…」


「そうだよ分かってる!だけど俺、いつか、いつかは玲奈と付き合えるかもって…なのにあれっきり、連絡も来なくて、ラインも既読もつかなくて!」


「あの時は、試験とか仕事で忙しくて…ごめん」


 そうだ、あの時本当は。本当は少し、ハヤトの事が気にかかっていた。だけど深入りしたくなくて、わざと連絡を返さなかった。


「そんな事言って、あいつとは毎日学校で会って、花火も見に行った!」


 玲奈の肩をつかむハヤトの手が、わなわな震えていた。



「俺が毎日毎日返信を待ってる間に、玲奈はあいつと付き合って、卒業したら一緒の大学通って同棲して、毎日毎日あいつと…そう思うと、何も手につかないし、マジできつかった」


 ハヤトの手はそこで力が抜けた。


「だけどもう、そんな心配しなくていいんだ。せんせーにもやられるけど、ここにいつでも玲奈がいるならそれでいいんだ。あいつはもう玲奈に触れられない」


 ハヤトは笑った。どこかが痛むような、だけど嬉しそうな笑みだった。


「ずっと一緒だ。玲奈…」


 ハヤトが不器用に玲奈に口づけした。玲奈は抵抗しようとしたが、もはや空しかった。ハヤトの手が、玲奈の鎖骨をなぞった。


「ねぇなんでそんな下着のままなの?寒くない?」


 一ノ瀬が前に買い与えた、どこかのブランドの下着は、昨日あんな乱暴に築城に扱われてぐしゃっとなっていた。だけど服はすべて築城が取り上げてしまったからこれを着るしかない。


「もしかして、誘ってる?俺、俺もう…したい、玲奈としたいよ、いいよね?」


 はぁはぁとハヤトの息が荒い。唇を放して、玲奈は無意識に顔を反らせた。


「いいって言ってよ…!」


 私は歯を食いしばって首を横に振った。


「なんで?前はしてくれたじゃん…ほ、本当は嫌だったの?」


「あの時はしたけど今は嫌!こんな風に押さえつけられて、無理やりされて、嫌じゃないわけないじゃん!頭おかしいの!?…っ…!」


 玲奈は声にならない叫びをあげた。ハヤトが玲奈の腹をぎゅっとつねったからだ。彼はずいと玲奈の目を覗き込んだ。


「そうだよおかしいよ、俺、おかしくなったんだ。だからどんな事だって玲奈にするよ。ね、今日は俺の日なんだ。今日の分の薬は、俺が持ってるんだよ」


 玲奈は言葉を失った。
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