イケニエアゲハ~執着の檻に囲われて~

小達出みかん

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第二部 王様の牢屋

熱さと冷たさ

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ハヤトは玲奈を抱きしめて一緒のベッドで寝た。彼女の汗と、肌の匂い。相当疲れていたのか、横になってろくに嫌がりもせず、ハヤトの腕の中でだんだん玲奈の力が抜けていった。


こんな無防備な玲奈は初めてだった。眠る顔をよく見ると、目じりが赤い。背中や首にも跡もある。


(せんせー、相当ひどくやったんだろうな)


 もっと怒って抵抗すると思ったが、玲奈はすでにあきらめて想像したより従順だった。それで少し、悲しかった。


(でももっといろんなことしたい、まだ玲奈の身体、ちゃんと触ってない気がするし)


 玲奈の頭の重みで、だんだん腕がしびれてきた。でも、うれしかった。そのままずっと、玲奈の寝顔を眺めていた。

「あ…起きた?」


 玲奈の目がぱっちり開いた。玲奈の目が、ハヤトの目を見た。


「水…水がほしい」


 ハヤトは飛び起きた。


「わかった、ちょっと待って」


 キッチンへ向かうが、水道はあってもコップがなかった。


「どうしよ…玲奈、これるとこまできて」


 玲奈は素直に下着姿のまま、キッチンのそばまできた。


「ここが限界」


「コップがないんだ、だから」


 ハヤトは手を器にして、そうっと水を玲奈の口元へもっていった。玲奈は暗い顔で俺の手から水をのんだ。相当渇いていたらしく、ごくごくと飲み切った。玲奈の唇が掌にあたって、白いのどが動いているのを見て、ハヤトは無意識に唾をごくんとのんだ。


「も…もっといる?」


 持ってきた鞄には、いつも使ってたマグがあったのに。そう思いながら玲奈は首を振った。


「おなかすいた?何かほしいものある?」


「…私のカバン、そのへんにない?」


「どんなの?」


「黒い小さいリュック」


 ハヤトは部屋中すべて探し回った。が、なかった。


「クローゼットにもどこにもないや」


 玲奈ははぁとため息をついた。


「…せんせーがもって帰ったのかもね。何か大事なものあった?」


「タンブラーがはいってた」


 玲奈の持ち物はそう多くない。


「ああ、そっか…コップ、次俺もってくるよ。服とかもさ」


 あきらめたように、玲奈はすこし首をうごかしてうなずいた。それを見てハヤトは肩をつかんだ。


「ごめん、ごめんね玲奈。他にほしいものは?」


「ない」


 ハヤトは何も言えなくて、ただ彼女を見た。再び玲奈はため息をついた。


「なんであんたが泣きそうな顔してんの」


「だって…だって」


「むかつく。どつきまわしたくなる」


「いいよ、どついて」


 玲奈は手を振って鎖を見せた。


「これで全力だせるわけないじゃん、バカハヤト」


「うん…ごめん。もっと怒っていいよ」


「バカ、アホ、単細胞、顔だけ野郎」


「…最後の褒めてるの?」


「褒めてないし。中身からっぽのバカって意味だよ」


 そういうとハヤトは黙ってしまった。玲奈は自分が嫌になった。こんな状況下ですらハヤトをいじめて、築城から受けたストレスを晴らしてる事が。


「もういい、やめよ。悪かった」


 ハヤトは上目遣いで玲奈を見た。


「…なんで?」


「ハヤトに八つ当たりしたってどうもならない」


 玲奈はベッドの上に腰を下ろした。


「…さむ。エアコン効きすぎ」


 そういって玲奈は布団を体にかぶせて膝をかかえた。その姿は、昔の傲慢で堂々とした玲奈とはかけ離れていて、ハヤトはふいにぎゅっと胸がしめつけられたようになった。


「ごめんね…」


 ハヤトは玲奈の隣へきて、自分も布団にもぐった。


「…ずっとここにいなくても。あんたは鎖ないんだから」


 布団の中で、ハヤトは玲奈を抱きしめた。


「…またやるの?」



 ハヤトは首を振った。


「玲奈の身体…つめたい」


「ハヤトは熱い」


「俺が玲奈を温めるよ」


 玲奈がちらっとこちらを流し目で見た。その目をまともにくらうとまた胸が痛くなりそうで、ハヤトは目を閉じた。


「玲奈…ずっとこうしてたい」


 玲奈はそうだね、とは返してくれなかった。






 最初に2回やってから、なんだかハヤトはずっとしおらしかった。その後ずっと手をつないだり、抱きしめたり、そんな感じで一晩中落ち込んで変な感じだった。朝の玄関でもかなりぐずぐずしていた。


「じゃ、いって、くるね」


出ていきかけてハヤトは振り向いた。


「一緒にきてよ、これるとこまで」


 鎖の限界はトイレまでなので、ハヤトはそこからさき何度も振り返りながら玄関に向かった。


「大げさだよ、大した距離でもないのに」


「…また、またね、玲奈、またくるから待ってて」


 玄関で振り向いてハヤトはそう言って立ち止まった。

「わかったよ」


「やっぱ…やっぱやだ」


 ハヤトは再び戻って玲奈を両手で抱きしめた。


「いきたくない、やだ」


「ふざけてんの?じゃあ私がかわりあんたの家に帰ろうか?」


「ごめん…」


 このままだといつまでもぐずぐずに突き合わされそうだったので、玲奈はぐいっとハヤトの顎をつかんでキスした。


「っ…!」


「ほら、とっとと行っておいでよ。そんな顔すんなら次は長いの持ってきて。そしたら玄関まで見送れるじゃん」


 とたんにハヤトの顔が明るくなった。


「うん、うん…!わかった、そうする」


「ほら、いってらっしゃい」


「帰ってきたら、またさっきの、してね?」


「さっき?」


「…おかえりなさいのキス」


 玲奈は毒気を抜かれてうなずいた。


「わかったよ、するからするから」


「じゃあ、いってきます」


 バタンと玄関のドアが閉まった。何度かわからないため息を、玲奈はついた。
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