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なんであなたがここに⁉
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詩音は気を取り直した。
「ありがとうございます。では、契約後のご相談なのですが……」
詩音は用意していたパンフレットを取り出した。
「弊社は製造、流通、手広く行っていますので、新パッケージの実際の作成や広告戦略もお任せいただければと思います。今サンプルをお見せしますね」
詩音は今までのサンプルが入っているプラスチックケースを棚から出した。
本当はここからの説明は亮の仕事でもあるのだが……いたし方ない。
詩音はサンプルを彼の前に並べた。
「こちらは他社さんの洋菓子のパッケージと広告なのですが、プランAでの流通を行いました。どれも良い数字が出せておりまして……」
蒼汰も岡本も、まじまじとパッケージを眺めていた。
蒼汰も仕事モードになったのか、真面目な顔付きに変わっていた。
「なるほど……これは大きさが統一されているんだね?」
「ええ。そうです。主に宅急便で配送するために、サイズを合わせました。これによって、コストを抑えての発送が可能になっていて」
「へええ、一度うちの工場に持ち帰って意見を聞きたいですね」
「そうだな。サンプルを借りても?」
「ええ、もちろんです。あのよかったら、説明要員として、営業の者も同行しますが」
先ほどの件を思い出して、詩音は慌てて付け加えた。
「あ、もちろん、笠原とは別の者をです」
その説明くらいなら、誰でもできるだろう。別に亮じゃなくても。
すると岡本がちらり、と鹿野を見た。
「たしかに説明してくれる方が来てもらえるのはありがたいですね」
鹿野はちょっと迷うそぶりを見せてから――詩音にきいた。
「営業の人じゃなくて……直に製品を作る佐倉さんから、できれば説明してもらいたいのですが……だめかな?」
岡本がとりなすように言った。
「でも社長、佐倉さんは営業ではありませんから、さすがに……」
詩音は首を振った。さきほど、亮が退出したのには、詩音にも責任がないとは言えない。自分でそのツケは払わなくては。
「い、いえ、先ほどあんなことがあって……いきなり他の人が来ても、信用にかけるのは理解できます。もとはといえば、管理ができていなかったこちらの落ち度なので、よろしければ私が同行いたします」
「いいんですか? すみません……」
なぜか申し訳なさそうな顔をする岡野に、蒼汰はスマホを取り出した。
「ありがとう。なら、佐倉さんの直通の電話番号を教えてもらっても?」
「あ、はい。こちらが社内の私の部署の番号で……こちらが、私のスマホの電話番号と、メッセージのIDです」
営業の人がそうするように、詩音は個人のスマホの番号もすべて書いて、鹿野に手渡した。
「こちらでもメールでも構いませんので、日取りを調整させてもらえれば」
すると岡本が心配そうに言った。
「あの、申し訳ありません、うちの本社の工場は結構遠くて……せめて交通費、お支払いしますので」
詩音はにっこり笑った。
「S県ですよね! 大丈夫ですよ。出張費として、経費で落ちますので。それに、私も地元なんです。帰るのは久々で、ちょっと楽しみなくらいで」
すると蒼汰が社長の顔をやめて、ふっと笑った。
「ふふ、僕も楽しみ」
こら、仕事ですよ……。と思いながらも、詩音もつられて微笑んでしまった。
すると岡野が詩音に聞いた。
「佐倉さんは、故郷が懐かしくはなりませんか? 私はどうも、東京の水は合わなくて……」
「そうですよねぇ。やっぱり水とか食べ物とかは地元が一番です……でも、こっちにも美味しいものはあるから、どうにかやっていけてます」
すると鹿野が興味深そうな顔をした。
「それはどんな?」
佐倉は胸を張った。
「ええと、こちらに来てからずっとコツコツ作ってきた、安くて美味しいご飯屋さんリストがあるんです、実は」
鹿野と岡野のテンションがわかりやすく上がった。
「えー! それは気になりますね!」
「ぜひ知りたいな」
が、逆に詩音はちょっと恥ずかしくなった。
「よかったら、お二人にリストお送りしますね。でもあの……お仕事に使えるような立派なお店じゃなくて、全部庶民的なところばっかりで」
しかし、それでもわくわくした顔の二人に乞われて、詩音はその場で「お気に入りお店リスト」を送るハメになったのだった。
◆
「と、いうわけで……ハイ、今日はいろいろありました」
出先から帰ってきた鈴木部長に会議の報告をし、詩音は頭を下げた。
「すみません、三輪と笠原の件で、鹿野様から連絡が入るかと思います……が、契約はとれました。今後の商品展開も弊社にお任せくださると」
帰ってきたばかりで詩音につかまった鈴木は、デスクの椅子に座って深く息をついた。
「そんな事が……まぁ、先方の機嫌はなんとか損ねなかったようで、よかった。一体どう納得してもらったんだ」
先方はなんと、幼馴染だったんですよ……とはさすがに言えず、詩音はごまかした。
「いえその……社員の不正については結構お怒りでいらっしゃいましが、デザイン自体は気に入っていただけていたので、どうにか謝罪しまして……」
はぁ、と鈴木が深いため息をつく。
「そうだよなぁ……はぁ。うちは信用第一なところがあるのに、そんな事されちゃ、怒って当たりまえだよなぁ」
「はい……なんとか外部機関への告発は思いとどまっていただきましたが」
「まぁ、本当にそれだけですんでよかった。うん。これも佐倉の仕事ぶりのおかげだな。とりあえず、三輪も笠原もこの企画からは外して、シュガードロップ様の事は佐倉に一任するから。人員が欲しければ割くから言ってくれ」
「はい……! あ、ありがとうございます!」
思わなかった采配に、詩音の気持ちは沸き立った。
「で、あいつらの処分だが……そっちの方は俺に任せてくれ。佐倉は仕事に注力してほしい」
助かった、と思いながら詩音は頭を下げた。
三輪に注意をするのは自分の仕事だとは思うが――正直、もうあの子とかかわりたくない。またトラブルを引き起こしてしまいそうで。
「ありがとうございます、部長」
残っていたこまごまとした作業を片付け、詩音は久しぶりに定時に退社した。
(さて…と)
今日もいろいろありすぎて、あえて考えていなかったが、ここに大問題が一つ横たわっている。
(住む場所……どうしよう)
あんな家、正直もう暮らせないし、帰りたくない。
かといって、ずっとカプセルホテル住まいも現実的ではない。
(ああもう、となると急遽住む場所を探さないと)
詩音はエレベーターの中で頭を抱えた。
「引っ越しって本来……準備期間とかいるものなのに」
何てことをしてくれたのだ。亮め。
詩音は、心の中で彼に対して毒づいた。
(しかも私の仕事まで……ぞんざいに扱って)
三輪と浮気しただけではない。彼女と一緒になって、詩音の仕事まで貶めようとしてきたのだ。
もう詩音の中で完全に彼に対する気持ちは冷めてしまった。
(そりゃあ……良い思い出もあるし、辛くないわけじゃないけど……もう、やり直したいとは思えない)
シュガードロップ社の件も全面的に任せてもらって、仕事も上がり調子なのだ。
(そうちゃんなんて、いつの間にか社長にまでなっちゃって……軽く『試行錯誤』なんて言ってたけど、きっと相当努力したんだ)
彼に負けていられない。詩音だって良い仕事がしたい。
亮の事は忘れて、次に進もう。詩音はうなずいた。
「となると……荷物を引き払って、さっさと引っ越さなくっちゃ」
今週中に、入居できる物件を探そう。
「それまで……ウィークリーマンションにでも住むかな。そうすると……」
よし、今からやることが決まった。
「当面の荷物をあの家から持ち出そう!」
一人なのをいいことに、気合を入れて拳を握ったその時――
エレベーターのドアが開いて、男性が一人入ってきた。
「あ……佐倉さん」
涼し気なたたずまいは、まぎれもなく――
「そ……鹿野社長⁉」
彼はエレベーター内を見まわしていった。
「ここは二人きりだから、しーちゃんでいい?」
「いいですけど……」
なぜ彼がここに? という疑問が顔に出ていたせいか、蒼汰は詩音に説明をした。
「驚かせてごめんね。実はさっき、鈴木さんと会って話をしてきたところで」
あっ、報告の件か……と気が付いた詩音は、神妙に頭を下げた。
「わざわざごめんなさい……! 忙しい中なのに」
S県から出てきているのだ。社長の彼には、他にも予定が詰まっていたことだろう。
しかし彼は、なぜか嬉し気に微笑んだ。
「そんな事ないよ。僕はけっこう東京には頻繁に来てるから、そう急いでもないんだ。しーちゃんは、今退社?」
「そう。あれ、岡本さんは?」
「さっき帰っちゃった。今日は奥さんとの結婚記念日だとかで」
「あら……それは申し訳なかったですね。次は言ってください。日程、調整するので」
「いいんだ。新幹線ですぐ帰れるからね」
「じゃあ、しゃちょ……そうちゃんは?」
詩音がそう呼ぶと、蒼汰は嬉しそうにスマホを取り出した。
「あのね、さっきしーちゃんが送ってたリスト、眺めてた。ねえ、一緒に食べに行かない?」
はっ。詩音は固まった。
幼馴染からの誘い……だが、それ以上に、取引先の社長からのお誘いだ。もし亮のような営業であれば、這ってでも行く案件だろう。
けど……。
「ごめんね。そうちゃんと会うの久々だし、とっても行きたいんだけど……今日はどうしても済ませないといけない用事があって」
今日この時間、亮と三輪は逆に、今日のツケを払うかのように残業していた。
ので――あの二人と顔を合わせずに荷物を回収できる時間は、今しかない。
「用事って、当面の荷物を持ち出す……とかなんとか?」
ぎくり。詩音は思わず頬が熱くなった。
「き……聞こえてたの……?」
「ありがとうございます。では、契約後のご相談なのですが……」
詩音は用意していたパンフレットを取り出した。
「弊社は製造、流通、手広く行っていますので、新パッケージの実際の作成や広告戦略もお任せいただければと思います。今サンプルをお見せしますね」
詩音は今までのサンプルが入っているプラスチックケースを棚から出した。
本当はここからの説明は亮の仕事でもあるのだが……いたし方ない。
詩音はサンプルを彼の前に並べた。
「こちらは他社さんの洋菓子のパッケージと広告なのですが、プランAでの流通を行いました。どれも良い数字が出せておりまして……」
蒼汰も岡本も、まじまじとパッケージを眺めていた。
蒼汰も仕事モードになったのか、真面目な顔付きに変わっていた。
「なるほど……これは大きさが統一されているんだね?」
「ええ。そうです。主に宅急便で配送するために、サイズを合わせました。これによって、コストを抑えての発送が可能になっていて」
「へええ、一度うちの工場に持ち帰って意見を聞きたいですね」
「そうだな。サンプルを借りても?」
「ええ、もちろんです。あのよかったら、説明要員として、営業の者も同行しますが」
先ほどの件を思い出して、詩音は慌てて付け加えた。
「あ、もちろん、笠原とは別の者をです」
その説明くらいなら、誰でもできるだろう。別に亮じゃなくても。
すると岡本がちらり、と鹿野を見た。
「たしかに説明してくれる方が来てもらえるのはありがたいですね」
鹿野はちょっと迷うそぶりを見せてから――詩音にきいた。
「営業の人じゃなくて……直に製品を作る佐倉さんから、できれば説明してもらいたいのですが……だめかな?」
岡本がとりなすように言った。
「でも社長、佐倉さんは営業ではありませんから、さすがに……」
詩音は首を振った。さきほど、亮が退出したのには、詩音にも責任がないとは言えない。自分でそのツケは払わなくては。
「い、いえ、先ほどあんなことがあって……いきなり他の人が来ても、信用にかけるのは理解できます。もとはといえば、管理ができていなかったこちらの落ち度なので、よろしければ私が同行いたします」
「いいんですか? すみません……」
なぜか申し訳なさそうな顔をする岡野に、蒼汰はスマホを取り出した。
「ありがとう。なら、佐倉さんの直通の電話番号を教えてもらっても?」
「あ、はい。こちらが社内の私の部署の番号で……こちらが、私のスマホの電話番号と、メッセージのIDです」
営業の人がそうするように、詩音は個人のスマホの番号もすべて書いて、鹿野に手渡した。
「こちらでもメールでも構いませんので、日取りを調整させてもらえれば」
すると岡本が心配そうに言った。
「あの、申し訳ありません、うちの本社の工場は結構遠くて……せめて交通費、お支払いしますので」
詩音はにっこり笑った。
「S県ですよね! 大丈夫ですよ。出張費として、経費で落ちますので。それに、私も地元なんです。帰るのは久々で、ちょっと楽しみなくらいで」
すると蒼汰が社長の顔をやめて、ふっと笑った。
「ふふ、僕も楽しみ」
こら、仕事ですよ……。と思いながらも、詩音もつられて微笑んでしまった。
すると岡野が詩音に聞いた。
「佐倉さんは、故郷が懐かしくはなりませんか? 私はどうも、東京の水は合わなくて……」
「そうですよねぇ。やっぱり水とか食べ物とかは地元が一番です……でも、こっちにも美味しいものはあるから、どうにかやっていけてます」
すると鹿野が興味深そうな顔をした。
「それはどんな?」
佐倉は胸を張った。
「ええと、こちらに来てからずっとコツコツ作ってきた、安くて美味しいご飯屋さんリストがあるんです、実は」
鹿野と岡野のテンションがわかりやすく上がった。
「えー! それは気になりますね!」
「ぜひ知りたいな」
が、逆に詩音はちょっと恥ずかしくなった。
「よかったら、お二人にリストお送りしますね。でもあの……お仕事に使えるような立派なお店じゃなくて、全部庶民的なところばっかりで」
しかし、それでもわくわくした顔の二人に乞われて、詩音はその場で「お気に入りお店リスト」を送るハメになったのだった。
◆
「と、いうわけで……ハイ、今日はいろいろありました」
出先から帰ってきた鈴木部長に会議の報告をし、詩音は頭を下げた。
「すみません、三輪と笠原の件で、鹿野様から連絡が入るかと思います……が、契約はとれました。今後の商品展開も弊社にお任せくださると」
帰ってきたばかりで詩音につかまった鈴木は、デスクの椅子に座って深く息をついた。
「そんな事が……まぁ、先方の機嫌はなんとか損ねなかったようで、よかった。一体どう納得してもらったんだ」
先方はなんと、幼馴染だったんですよ……とはさすがに言えず、詩音はごまかした。
「いえその……社員の不正については結構お怒りでいらっしゃいましが、デザイン自体は気に入っていただけていたので、どうにか謝罪しまして……」
はぁ、と鈴木が深いため息をつく。
「そうだよなぁ……はぁ。うちは信用第一なところがあるのに、そんな事されちゃ、怒って当たりまえだよなぁ」
「はい……なんとか外部機関への告発は思いとどまっていただきましたが」
「まぁ、本当にそれだけですんでよかった。うん。これも佐倉の仕事ぶりのおかげだな。とりあえず、三輪も笠原もこの企画からは外して、シュガードロップ様の事は佐倉に一任するから。人員が欲しければ割くから言ってくれ」
「はい……! あ、ありがとうございます!」
思わなかった采配に、詩音の気持ちは沸き立った。
「で、あいつらの処分だが……そっちの方は俺に任せてくれ。佐倉は仕事に注力してほしい」
助かった、と思いながら詩音は頭を下げた。
三輪に注意をするのは自分の仕事だとは思うが――正直、もうあの子とかかわりたくない。またトラブルを引き起こしてしまいそうで。
「ありがとうございます、部長」
残っていたこまごまとした作業を片付け、詩音は久しぶりに定時に退社した。
(さて…と)
今日もいろいろありすぎて、あえて考えていなかったが、ここに大問題が一つ横たわっている。
(住む場所……どうしよう)
あんな家、正直もう暮らせないし、帰りたくない。
かといって、ずっとカプセルホテル住まいも現実的ではない。
(ああもう、となると急遽住む場所を探さないと)
詩音はエレベーターの中で頭を抱えた。
「引っ越しって本来……準備期間とかいるものなのに」
何てことをしてくれたのだ。亮め。
詩音は、心の中で彼に対して毒づいた。
(しかも私の仕事まで……ぞんざいに扱って)
三輪と浮気しただけではない。彼女と一緒になって、詩音の仕事まで貶めようとしてきたのだ。
もう詩音の中で完全に彼に対する気持ちは冷めてしまった。
(そりゃあ……良い思い出もあるし、辛くないわけじゃないけど……もう、やり直したいとは思えない)
シュガードロップ社の件も全面的に任せてもらって、仕事も上がり調子なのだ。
(そうちゃんなんて、いつの間にか社長にまでなっちゃって……軽く『試行錯誤』なんて言ってたけど、きっと相当努力したんだ)
彼に負けていられない。詩音だって良い仕事がしたい。
亮の事は忘れて、次に進もう。詩音はうなずいた。
「となると……荷物を引き払って、さっさと引っ越さなくっちゃ」
今週中に、入居できる物件を探そう。
「それまで……ウィークリーマンションにでも住むかな。そうすると……」
よし、今からやることが決まった。
「当面の荷物をあの家から持ち出そう!」
一人なのをいいことに、気合を入れて拳を握ったその時――
エレベーターのドアが開いて、男性が一人入ってきた。
「あ……佐倉さん」
涼し気なたたずまいは、まぎれもなく――
「そ……鹿野社長⁉」
彼はエレベーター内を見まわしていった。
「ここは二人きりだから、しーちゃんでいい?」
「いいですけど……」
なぜ彼がここに? という疑問が顔に出ていたせいか、蒼汰は詩音に説明をした。
「驚かせてごめんね。実はさっき、鈴木さんと会って話をしてきたところで」
あっ、報告の件か……と気が付いた詩音は、神妙に頭を下げた。
「わざわざごめんなさい……! 忙しい中なのに」
S県から出てきているのだ。社長の彼には、他にも予定が詰まっていたことだろう。
しかし彼は、なぜか嬉し気に微笑んだ。
「そんな事ないよ。僕はけっこう東京には頻繁に来てるから、そう急いでもないんだ。しーちゃんは、今退社?」
「そう。あれ、岡本さんは?」
「さっき帰っちゃった。今日は奥さんとの結婚記念日だとかで」
「あら……それは申し訳なかったですね。次は言ってください。日程、調整するので」
「いいんだ。新幹線ですぐ帰れるからね」
「じゃあ、しゃちょ……そうちゃんは?」
詩音がそう呼ぶと、蒼汰は嬉しそうにスマホを取り出した。
「あのね、さっきしーちゃんが送ってたリスト、眺めてた。ねえ、一緒に食べに行かない?」
はっ。詩音は固まった。
幼馴染からの誘い……だが、それ以上に、取引先の社長からのお誘いだ。もし亮のような営業であれば、這ってでも行く案件だろう。
けど……。
「ごめんね。そうちゃんと会うの久々だし、とっても行きたいんだけど……今日はどうしても済ませないといけない用事があって」
今日この時間、亮と三輪は逆に、今日のツケを払うかのように残業していた。
ので――あの二人と顔を合わせずに荷物を回収できる時間は、今しかない。
「用事って、当面の荷物を持ち出す……とかなんとか?」
ぎくり。詩音は思わず頬が熱くなった。
「き……聞こえてたの……?」
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