王子様、あなたの妃にはなりません!

小達出みかん

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第一部 馴れ初めから結婚まで

恋とはどんなものかしら

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 ルセルは下からリリーを見上げていた。
 彼女は微笑んでいる。煙るようなブルネットの髪に、怪しく光る金の瞳。そして柔らかそうな乳房・・・・


「ううっ、や、やめろっやめろっ、そんなっ・・・ああっ・・・・!!」


「殿下、どうしました」


「どうしたって、お、お前、お前がっ!!」


「殿下、起きてください、朝ですよ」


「はっ!?」


 前後不覚でルセルは目覚めた。従僕が心配そうにベッドを覗き込んでいた。


「お加減はいかがですか?ルセル様。ここのところ寝起きがよろしくないようですが・・・」


「大丈夫だ、かまうな」


 ルセルは手を振って従僕を追い払った。


「はぁ~~~~~」


 誰もいなくなったとたん、ルセルはベッドの上で頭をかかえた。


 あれから数日。どうもいつもの調子が戻らない。何をしていても、すぐあの女の顔が頭に浮かぶのだ。

 かといって庭歩きや晩餐でリリーを目にするとなんだかいたたまれなくなって、すぐ顔をそむけてしまうのだ。


 そう、自分はあの夜、彼女に負けた気がするからだ。






(なぜ余は、こんな下らないことでぐだぐだ悩んでいるのだ!?)


朝食を食べながらがくっとうなだれたルセルに、リチャードが声をかけた。


「ルセルさま、そろそろ妃は決まりそうかとお手紙があったとか?」


「ん?ああ、父上から昨日手紙がきた」


「お返事はもうなさったのですか?だいぶご心配のようみたいですが」


「ふん、心配などしているものか。第一、余は妃などだれでもよいのだ」


「はぁ・・・その、夜会を開きましてからだいぶたちましたし、また何か新しい催しをなさっては?」


 そしたらまたあの女と顔を合わせてしまうでないか。顔を・・・


 しかし、そこでルセルはふっきれた。


 よし、顔を合わせてやろうじゃないか。

 あの女にこのもやもやを思い切りぶつけてやる。それですっきりして、また元の日常に戻るのだ。


「よし、なら企画を頼むぞ。できるだけ姫たちと一対一になれるようなものが望ましい」


「かしこまりました、殿下」









 秋晴れのその日、城のほとりの湖はエメラルド色に輝いていた。

 湖面を渡るさわやかな風が、ボートの上のリリーとスノウの髪を揺らした。


「まぁ、綺麗な景色ですわ・・・」


 白銀の髪をなびかせながら、スノウは景色に見入っていた。


「本当ですね・・・」


リリーは眼福とばかりにそれを見つめていた。白いボートの上のスノウと私。まるで一幅の絵のような光景だ。


ただ一人、お邪魔虫を別にすれば・・・


「2人とも気に入ったか?」


不自然なほど爽やかな笑顔でルセルが言った。

小さいボートのなかに3人きり。一体何をたくらんでいるのだろうか?リリーは不安な気持ちだった。


「ええ、とても。こんな景色を自分の物にされている殿下がうらやましいですわ」


リリーが隣にいるからか、スノウは少し口数が多くなっていた。


「ありがとう。その気になれば、君のものにすることもできるぞ」


ルセルはここぞとばかりにとっておきのスマイルを出した。その瞬間、リリーの顔が怒りにゆがんだ。何かに似ている・・・そう、まるでトレアドールに向かって走り出す前の闘牛のようだ。ルセルはふきだしたいのを必死にこらえた。


リリーに対して一本とったような気がして、ルセルは少し気が晴れた。


「まあ殿下ったら、お上手ですのね」


「何を言う、本心だよ。君のような美しい人を目の前にして舞い上がっているのだ」


「ところで殿下の本命は誰ですの?やっぱりエルザ様?それともヴィクトリア様?」


「いやあ、そんなの決まっているじゃないか、なあ」


「ヒントだけでも良いから、教えてくださいませ!ねっ、リリー」


「ええ、はい、そう、気になりますね」


額の血管が爆発寸前のリリーは生返事をした。







(はははははは!!!あの、リリーの顔!傑作だったなぁ!!)


 ルセルがスノウを口説くたびにひきつっていって、最終的には額に青筋がくっきりと浮かび上がっていた。

 だがスノウの前で、リリーが2人の間の約束の事を口にできるはずもない。


(よし、やっと勝ったぞ、あの女に!愉快愉快)


夜、ルセルが居室で一人悦に入っていたところにリチャードがやってきた。


「ん?どうしたリチャード」


「その、リリー様がお話があるとおっしゃっておりまして」


 来た来た。予想通りの反応にルセルは口元をほころばせた。


「よし通せ」


「・・・かなりお怒りのご様子ですが」


「かまわん」






 ドアを蹴飛ばす勢いでリリーが入ってきた。


「ちょっと、どういうことですか今日のあれは。話が違うじゃありませんか」


「何のことだ?余は約束どおり、スノウには指一本触れなかったぞ」


「指は触れませんでしたけど!この景色を自分のものにできるとか、本命はスノウだとか、散々妃を匂わせてスノウを困らせていたじゃないですかっ!」


「妃になれ、とは一言もいっておらぬぞ」


「同じことです!!!」


「なぜそうスノウのために必死になるのだ?彼女だっていつかは結婚するだろう?その時お前はどうするのだ」


「だから言ったじゃないですか。彼女には恋・・いえ、普通の人と結婚して幸せに暮らしてほしいんです。私はずっと彼女のそばで、それを見守るんです」


「スノウが別の男と結婚しているのを目の当たりにして平気なのか?」


「ええ、彼女が本当に幸せなら」


「・・・お前がキスしていた相手というのは、スノウなのだろう?なぜ平気でいられるのだ」


「はい?いえ、スノウとキスしたことなんて、ありませんよ」


「え?じゃあこの間、余にに言った失礼な発言は嘘だったのか」


 思い出したリリーははぁと肩を落とした。


「またその話ですか。もういいでしょう」


「ふーん。では嘘なのか」


「嘘ではないですが・・・そういうことって、軽々しく人に話すものではないでしょう。殿下だって、今まで付き合ってきた人とのことを話せといわれたら、いやでしょう」


「そんな事はないぞ。なんでも聞いてかまわない」


「じゃあ・・・・殿下の初恋はいつです?」


「初恋?うーん・・・」


「ほら、そんな軽々しくしゃべれないでしょう?」


「いや、初恋というのがいまいちピンと来ぬ。初体験ならしゃべれるが」


 リリーは頭をかかえた。そうだ、この王子はこういう王子だ。


「今まで抱いたどの女も、余に不満を申したことなどなかったぞ。お前はわがままだ」


「はぁ。それ、楽しかったですか?文句を言わない女と次々寝るのは」


「本当に失礼な女だな、お前は!そりゃ楽しかったに・・・」


決まってるであろう、と言いかけてはたと脳内に疑問がわいた。

楽しかったはずなのに、誰一人として関係してきた女の顔が浮かんでこない。髪の色も目の色も、名前ですら、思い出せない。


「殿下は、恋をしたことがないのですね・・・だからあんなひとりよがりのセックスを」


「はぁ!?いわせておけばこのわがまま女め!もう辛抱ならん!!」


 怒ったルセルはリリーを床に押し倒した。


(うわ・・・またあの三大約満を味あわされるのか)


 げんなりしたリリーだったが、乗せられた唇はそっと唇を食み、遠慮がちに舌を這わせてきたので驚いた。


(すごい、前回ので学習したのか)


 リリーは唇を少し開き、ルセルの舌の侵入を許した。最初は浅い口付けが、だんだん深くなっていく。


「はぁ・・・はぁ・・・どうだ、わるくないだろう・・・?」


 上から見下ろすルセルはドヤ顔だった。リリーは心の中でため息をついた。


「きょ、今日は・・・お前に、入れるからなっ!」


 そういってズボンを脱ぎ捨てたので、リリーはぎょっとした。


(待って待って、入れられるのは困るっ!)


「で、殿下、その前にちょっと」


「ん?何だ」


「前回あんなでしたし・・・きょ、今日は私サービスいたしますよ」


「はぁ?何をしてくれるというのだ」


「今日はお口でしてあげますっ」



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