王子様、あなたの妃にはなりません!

小達出みかん

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第一部 馴れ初めから結婚まで

彼女はキラークイーン(2)

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「リリー様、先ほどつけていらっしゃった髪飾り、なくなっておりますよ。お探ししましょうか」


 部屋に戻る途中、リチャードにそう呼び止められた彼女は立ち止まった。


「いいのよ。殿下に差し上げたの」


「それはそれは・・・」


 チャールズは感心したようにうなずいた。


「大変ありがたいです、リリー様。あなたがいらっしゃってから、殿下もだいぶ落ち着かれて・・・」


「あら、そんなに悪さをしていたのね、殿下は」


「ええ、それはもう」


リリーはぷっとふきだした。


「宮仕えも、大変よね。でも私は、大したことはしていないわ。殿下も嫁取りするくらいの年齢ですし、成長したんじゃないかしら?」


「いやいや、それはもう、リリーさま、おかげさまで。ぜひ殿下の妃には、あなた様が・・・」


そこまで言いかけて、リチャードは黙った。さすがに差し出がましいと思ったからだ。


「あはは、冗談はよしてちょうだい。でも・・・はやく決まるといいわね、殿下は誰を選ぶおつもりなのかしら」


そう言ったリリーを見て、リチャードの表情は凍った。

てっきりリリーも、そういうつもりだと思っていたからだ。

リチャードは恐る恐る聞いた。


「あの、リリー様は・・・お妃になるおつもりは・・・?」


「まさか。あなたには殿下の証文を見せたでしょう?私はスノウを守るためだけに、ここに来たのよ。無事お妃が決まったら、お祝いを言ってスノウと帰るわ」


リチャードは内心絶句した。

まずいぞ。


(もし、リリー姫を手に入れられなかったら・・・)


その時の殿下がどれだけ荒れるかは、容易に想像できた。


(リリー様になんとか心変わりしていただけないだろうか・・・自分達・・いや、この国のためにも)


ひとりその方法について考えるリチャードであった。









「花の形になっているのか・・・しかしこれが、ニセモノ、か・・・」


 ルセルは一人自室で、先ほどの髪飾りを手にとってながめていた。

 針金で編まれた小さな金の櫛の上に、複数の大粒の真珠が花の形に留められており、鈍い光を放っている。

 そのまろやかな光は、リリーの肌を連想させた。

 それを目に近づけると、ふわりと香りがただよった。


(あ・・・リリーの、香水の匂いか)


 抱いてきた女の数だけ、今まで香水の匂いをかいできた。だいたいは重く絡みつくような花や麝香の匂いで、いいにおいだと思ったことは一度もない。

 だが、リリーのそれは、今まで感じたことのない、不思議な匂いだった。


(焦がした糖蜜のような、新しいインクのような・・・それでいて、どこか甘い匂い)


 その刹那、彼女との情事がありありと思い出された。彼女との熱く甘い口付け、舌の感触・・・・。

 思い出したら、すぐさま体が反応した。ズボンのしたで、そこが固くなっているのがわかった。


(リリー・・・・)


 ルセルは息をつきながら、自分のものに手をのばした。


(んっ・・・・)


 前、口でしてもらって以来、彼女とそういう事をしていない。


(呼んだらまた、してくれるだろうか・・・)


 だがリリーは、スノウを守るため仕方なくしているのだ。

 あのキスも抱擁も、奪って手に入れたものなのだ・・・


(でも・・・また、したい・・・)


 そして彼女にさわりたい。あの白いうなじに、自分の跡をつけたい。

 抱きしめて、あの眼差しも笑顔も、手も足も腹も乳房も、ぜんぶ自分のものにしたい。

 朝も夜も、離さない。


(はぁ、はぁ、リリー・・・っ!)


 快感と共に、精子がほとばしった。

 だが空しかった。頭の中ではリリーと抱き合っていたが、現実は自分ひとりだ。


(どうしたら、彼女は・・・自分のものになってくれるだろうか)


 スノウは姿も心も美しい。彼女が大好きなスノウを忘れて、自分のほうを見てくれることなど、ありえるだろうか。


(いや、ないな・・・)


 ルセルは頭を抱えた。苦しかった。

 こんな気持ちは、初めてだった。

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