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第一部 馴れ初めから結婚まで
ライクアバージン
しおりを挟む「キャー、だめよだめよ、殿下、まだ見ちゃ」
「う、うわっ、どうした、スノウ」
部屋に踏み込んだ瞬間、いきなりスノウに目隠しされたルセルはうろたえてあとさずった。
「だって、結婚前にウエディングドレス姿を旦那様が見るのは、不吉なのよ!私も見られないよう気をつけていたわ」
つい数ヶ月前、アーネストと式を挙げ、侯爵夫人となったスノウはそういってくすくす笑った。
「わかったわかった、では余は退散しよう」
あきらめて出て行ったルセルを見て、リリーとスノウはぷっと吹き出した。
仮縫い中の部屋の中はところせましと絹布が広げられていて、白とピンクの洪水だった。
「さあ、続きをお願いしますね」
スノウはうきうきと王室お抱えの仕立て屋にそう声をかけた。
あの後、リリーとスノウはいったん領地に帰って、それぞれの報告をした。
父上は最初は仰天していたが、2人の娘が文句なしの良縁をそれぞれつかんだことに、安堵したようだった。
「なんとまぁ、まさかまさか、このリリーが妃の座を射止めるとは、思っても見なかったぞ」
「当選確率をあげておいてよかったですね、父上」
「何を言っているの、リリーは見事、王子の心を射止めたのよ。彼、最初からリリーのことばかり見ていたもの」
「え・・・そうだったかしら」
「そうよ、そばにいたからよーくわかったわよ、私には」
実際は体だけの関係だったのだが、そんなことちらとも思っていないスノウは力説した。
そこへ侯爵のため息が重なった。
「それにスノウ、お前もいつのまにか、ローデンス家の倅とそういう仲になっていたとは・・・」
「アーネスト様はとてもご立派な人ですよ。いまどきの若い男性には珍しいくらいです」
今度はリリーが力説した。
「そんなことわかっておるわい。しかし・・・2人とも、あっというまにいなくなるのだな・・」
愛娘のスノウの笑い声も、リリーの生意気な口答えでさえも、こうなってくると惜しいと思う侯爵であった。
「まぁお父様、いなくなる前にお父様には大仕事がありましてよ、教会の長ぁい廊下を歩くというお仕事が」
伯爵ははっとした。
「という事はワシ、今年二回もバージンロードを歩くことになる・・・?!」
「そうですわお父様。しかもそのうち一回は、聖中央教会で国中が注目する中で、ですわよ」
伯爵はあわわと震えた。
「国中が・・・!絵にもかかれる・・・!ワシ・・・ダイエットしたほうがいいかの?」
2人の娘はふきだした。
「そ、それは・・・父上のご自由に」
そして2人は最後の独身時代を領地の城で過ごし、リリーはスノウの結婚式に出席した後、王子の婚約者として王宮へ赴いた。
その花嫁準備期間中に、ハネムーンを終えたスノウが駆けつけてくれたのだ。
挙式は、来月だ。
「でもスノウ、よかったの?アーネスト様をひとりおいてきて」
「いいのよ。だって私達、もう結婚したんだもの。それにリリーが心配だし・・・」
その言葉に、リリーは顔をほころばせた。
「ありがとうスノウ、嬉しい」
「いつもリリーが私の世話をやく方だったじゃない?だからこうやって私が、リリーを助けてみたかったのよ、一度くらい」
リリーはその言葉を胸中でかみ締めた。ああ・・・ありがたい・・・・・。
だがひとり感慨にふけっているリリーを置いて、スノウは美しい眉をひそめた。
「あら・・・この方もお呼びするの?」
スノウはリストを指差して言った。そこにはアンバー伯爵夫妻と記してある。
リリーはうなづいた。
「一応、お世話になったからね・・・でもスノウは彼女、ちょっと苦手だものね」
「そんなことないわ。ただ・・・私には、先進的すぎて」
リリーは過去を反芻はんすうし、ちょっと遠い目になった。
スノウは、リリーとアンバー夫人の仲を知るはずもないが、彼女のような清い乙女が夫人を苦手に思うのはよくわかると思った。
「その場をかきまわさずにはおれない・・・なんというか、刺激的なひとだものね・・・」
「ええ、そうね・・・。」
彼女との間にはいろいろあったが、今となっては感謝している。そう思うリリーは夫妻の欄に、招待のチェックを入れた。
過去は過去、今は今だ。
自分の力で暗闇を抜け、先に進むことができたのを、リリーは少し、誇らしく思った。
「どうだ、仮縫いはおわったか」
ドアから出てきたスノウに、ルセルが声をかけた。
「ええ、もうとっくに終わりましたわ、殿下」
「そうか、そなたが止めてくれてよかった」
素直にそんなことを言うルセルに、スノウは微笑んだ。
「私もよかったですわ・・・殿下が、リリーを選んでくださって。リリー、幸せそうですもの」
ちょっと誤解のある発言だが、訂正しようもないルセルは笑って首をかしげた。
「・・・・そうか?」
「そうですわ。彼女・・・殿下の前では、笑ったり、あせったり、怒ったり・・・。素の表情をしていましたわ。いつからかしら、私の前ではそんな表情、見せてくれなくて。いつもすきがなくて、固い鎧で心を覆っているようで・・・だから、殿下と結ばれて、本当によかった」
その理由が目の前のスノウであることを知っているルセルは何もいえなかった。
が、むしろ鋼鉄の意志で張本人にそのことを悟らせなかったリリーをあっぱれだと思った。
(余のように誰にも省みられないというのと、欲しいものがそばにあっても手に入らず飢えるのと・・・どちらがましなのだろうな)
表面的には全く違う苦しさだが、リリーとルセルの場合その本質は似ている気がする。お互い辛かったな、とルセルはしみじみと思いつつ、ドアに手をかけた。
「リリー、何をしているのだ?」
リリーは机の上から顔を上げた。
「いろいろ・・・招待客リストとか、席の配置リストとかです」
「ほう・・・そんな根をつめて、疲れないか」
「あら、そんなこと。もしかして・・・心配してくださってるんですか?」
「当たり前だ。お前は余の、妻になるのだから」
リリーは困ったように微笑んだ。こうして誰かの一番にしてもらうのは始めての経験で、どういう顔をすればいいのかわからない。
(うれしいんだけど、うれしいだけどさ・・・)
「少し一緒に歩かないか?」
ここのところ忙しくて、ルセルと2人きりの時間はあまりなかったので、リリーはうなずいた。
「ええ、よろこんで」
花の咲き乱れる王宮の庭園を、二人はのんびり歩いた。
春が訪れて、足元にはスミレやポピー、頭上にはミモザが鮮やかに咲き誇っている。どこからかライラックの甘い匂いもする。
(そろそろ薔薇のつぼみもほころぶころかしら・・・)
リリーはただ心安らかに、花をめでていた。こんな平和な気持ちで何かを眺めるのは、ほぼ初めてのことと言ってよかった。
「きれいですね・・・」
「リリーは、春が一番好きだと言っていたな。今なら、春のよさもわかる気がする」
「あら、どんな所でしょう?」
ルセルはあごに手を当てた。柔らかい春の日差しを受け、蜜色の髪は輝きを増している。そんななか、真剣に考える姿が少し可愛らしかった。
「そうだな・・・お前が綺麗だと言えば、余も花が綺麗なものだとおもえた。それまで花なんてよくわからなかったが・・・」
「そうなんですの?ではこれからは、夏や秋や冬のよさも、わかっていきますね」
「ああ、そうだな・・・」
そう、これからもずっと二人は一緒だから。
花咲くミモザの陰で、二人はそっと唇を重ねた。
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