エリート魔術師様に嫌われてると思ったら、好き避けされてるだけでした!

小達出みかん

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サイラスの過去

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 するとサイラスの顔がとまどったあとに、念を押された。

「いいんですか……?」

(それはこっちのセリフです……)

 本気にしちゃって、いいんですか。そう思いながらも、イリスははにかみつつかえした。

「はい! 学会が終わったら、また計画、立てましょう」

 ぱあっ、と光が差したように、この上なくうれしそうに、サイラスが微笑んだ。

「本当ですか。うれ……嬉しいです。あなたの行きたいところに、私も行きたいです。教えてくださいね。学会が終わったら」

 終わったら……。嬉しいようなあまずっぱいような気持ちで、イリスのその言葉を繰り返した。
 



 イリスはいつもよりちょっとフォーマルな服装に着替え、サイラスはいつものネクタイに白衣姿で――学会の会場へと向かった。車がずらりと並んでいて、会場内には新聞社も来ているのか、カメラやマイクを持っている人々も混ざっていた。

「おお、こっちだ、ふたりとも」

 すでについていたサザフィールドに呼ばれて、二人は舞台袖へと向かって説明を受けた。

「今回の目玉だ、皆『バイオプロテクター』の内容を聞くのと、お前を見るのを楽しみにしている。公の場に出るのは初めてだからな」

 すると若干、サイラスの顔が曇った。

「楽しみ、ですか……」

「心配するな。お前の薬の功績を、皆認めているんだ。認められれば……」

 そう言って、サザフィールドはサイラスの顔を見たあと、イリスを見てウインクした。
 サザフィールドの意図を察して、サイラスの心の中はさーっと光が差したように明るくなった。

(そうか……もし、私が世の中に役立つと皆に認めてもらえれば……)

 いつか薬が完成し、淫魔だと公表したとしても、そう抵抗なく受け入れてもらえるかもしれない。
 もう化け物じゃない。そう言える日がくれば……

(その時こそ……私はイリスに、胸を張って……この気持ちを、伝えられるかもしれない)

 サイラスはおもむろに力が沸いてきた気がした。
 壇上で司会が案内を始めた。

「それでは本日、魔術師学会の賞を授与しますのは――国立治療院魔術師、サイラス・スノウ氏になります」

 イリスから演説用のレポートを受け取って、サイラスはライトと拍手の中、壇上に出た。

「では、こちらへ。スノウ氏にはこの素晴らしい新薬『バイオプロテクター』についてご説明いただきます」

 司会がにこやかにマイクを差し出したので、サイラスはその通りに受け取って壇上に上がった。
 マイクがキィン……とわずかにハウリングすると共に、サイラスはかるく眼を細めた。

(壇上は、ライトがまぶしいな)

 舞台の天井からつり下がっているスポットライトが、サイラスの姿をあますことなく照らしている。
 ――観客には、さぞよくサイラスの顔が見えることだろう。
 そう思うとサイラスはぞっとして、自分の身を隠したくなった。が、舞台袖で、映写機に資料をセッティングし終えたイリスと眼が合った。

(先生、ファイトです!)

 笑顔で、彼女は親指を立てた。それを見て、サイラスはなんとか不安を押し込み、レポートに目を落とした。

「――ご紹介にあずかりましたスノウです。では簡単に、『バイオプロテクター』の成り立ちと概要について説明させていただきます」

 山奥の害植物から身を守るために、3種の材料からなる薬を考案したこと。そして治療院でロディと出会い、この薬を『悪魔の蔦』の治療に特化させて開発しなおしたこと――を、サイラスは事前に用意した原稿のとおりに説明した。

 打合せの通りに、イリスが資料や写真を映写機で映し出し、聴衆たちはそちらを見た。
 大勢の目線が自分からそれた事に感謝しながら、サイラスはつづけた。

「――何度も魔術式を組み替えてやり直したところ、やっと薬は安定し、『悪魔の蔦』に嚙まれた患者の解毒をするに至りました」

 締めると、ぱらぱらと拍手が起こった。

「先生、ご説明をありがとうございました! それでは質疑応答の時間になります」

 司会が聴衆たちに向かっていうと、何人もの人々が手を上げた。

(質疑応答? そんな時間があるとは聞いていないが……)

「はい、ではそこの方」

 司会にさされた白衣の男が立ち上がる。

「魔術式を何度も組み替えたとのことですが、なぜポーション方式ではなくエリクシル方式を?」

 何を言われるのか――と戦々恐々としていたが、スノウはすっと肩の力が抜けた。

(――そういう質問ならば、答えられる)

「ご質問ありがとうございます。薬を精製する際の基本型はポーション方式ですが、液体より気体に働きかけるエリクシル方式のほうが、材料であるエンジェルリーフの花粉を組み込むのに都合がよかったのです」

 すると男はうなずいた。

「なるほど。既存の方法を覆す画期的な視点ですな」

「では、他に質問のある方!」

 司会の誘導に従って、スノウは次々と質問に答えた。

「――はい、『バイオプロテクター』の投薬は基本的に経口になりますが、現在苦味をやわらげたものも製作中です」
「――次の研究ですか? 現在は心臓病に働きかける薬『シールドハーツ』の臨床実験の途中です。他には、苦痛を和らげる薬『ユーフォリア』を……」

 いくつもの質問に答えて、挙手する人がいなくなったかに思えた時、その声はサイラスの耳へと飛び込んできた。

「スノウ先生。あなたはそのすばらしい魔術センスを、一体どこの学院で学んだのですか?」

 聞き覚えのある声だな、と思いながら、サイラスは声の主を探しながら答えた。

「私は学院には所属しておりませんでした。サザフィールド教授について、長い間学ばせてもらいまし――」

「失礼ですが、ご出身はどちらですか? ご両親は?」

 言葉を遮ってきたその質問に、サイラスは眉をひそめた。

「この場は、個人的な事を話す場ではありませので、回答を差し控えます」

 サイラスは司会をちらりと見た。司会は慌てて声を張り上げた。

「で、では、薬に関する質問はもうないようですので、次はそれぞれの論文発表へ――」

 しかしそのとき、どこから現れたのか、堂々と会場から壇上へと上がった男がいた。

「いえいえ、何をおっしゃる。これからですよ。ねぇ、スノウ先生?」

 サイラスの目の前に、にやにや笑いを浮かべたレミングスが立っていた。

「レミングス先生? どうかされましたか」

 するとレミングスは、ばっと聴衆に訴えかけるように、皆に向かって両手を広げた。
「皆さん、騙されてはいけません。ここに立っているのはとんでもないペテン師です、その証拠に――」

 レミングスはつかつかと舞台袖の映写機まで歩いて行った。イリスは叫んだ。

「ちょ、ちょっと、何をするんですかっ」

「うるさい、どけ!」

 抗議するイリスを振り払い、レミングスは持っていた一枚の紙を映写機にかけた。
 スクリーンいっぱいに、古い一枚の新聞記事が映し出された。その見出しには、『少女昏倒、森から沸いた「魔物」が原因か?』と大きく書かれていた。そして、その下には少年の絵姿が載っていた。

「えっ……」

 スクリーンに映った画像を見て、イリスは息をのんだ。小さい子供の姿だが、この整った顔立ちはまぎれもなく。

「これって……スノウ先生?」
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