エリート魔術師様に嫌われてると思ったら、好き避けされてるだけでした!

小達出みかん

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離せ、クソ野郎

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 イリスが呆然としているまにも、レミングスは声を張り上げていた。

「私はずっと、このサイラス・スノウに関して不信感を抱いていました。今までどの学園にも学会にも、在籍がない。にもかかわらず、サザフィールド氏のもとで、ひそかに研鑽を積んできたといいますが――魔術とはそんな簡単に身につくものでしょうか? 
 彼は何か、不正を行っているのではないか。そもそも、彼はサザフィールド氏の息子でも親戚でもなんでもない。一体彼はどこから沸いて出たのか? 疑問に思って調べ始めたら、とんでもない事実がそこにはあったのです!」

 レミングスは、スクリーンを指さした。

「これは、16年前の、6月20日の新聞記事です。レンヨルドの森にほど近い村で、少女が人間の男の子のような魔物に襲われたという事件のものです。
 詳細を申しますと、その魔物少年Aは、魔眼による魅了を用いて、少女をその毒牙にかけようとするも、彼女の両親に取り押さえられ未遂に終わりました。その後レンヨルドの保安官に引き渡されたらいまわしにされたのちに、7月1日に魔術協会にその身柄が渡った。そして――」

 レミングスは、手元の記録を皆に向かって読み上げた。

「16年前の7月4日。当時は魔術学会本部に所属していたサザフィールド氏が、協会から一人の少年の身柄を引き受けた、との記録が、秘密裡に残っていた」

 レミングスは、溜息をついて首を振った。

「この記録にある日付の事実と、この新聞記事の絵姿――これを合わせれば、この『魔物少年A』とサイラス・スノウが同一人物であることは明白でしょう! 彼は人間ではない! 魔眼を用い、女性を襲う生き物といえば、我々魔術師にはその正体はわかるでしょう」

 レミングスはサイラスを指さした。壇上の彼は、青ざめてただただ無表情だった。

「そう! 彼は昔に滅んだはずの、忌まわしい、人の精気をすする――『淫魔』なのです!」

 声がいっぱいに、会場内に響く。その音に張り飛ばされたように、イリスは立ち上がって駆け出した。

(――いけない!こんなこと、やめさせなくては)

 我に返ったイリスは、舞台の電源を落とそうと駆け出したが、舞台袖から飛び出してきた別の男につかまった。

「おおっと、行かせはしないよ」

「ゴディさん⁉ はなして!」

 イリスが抵抗すると、奥から別の声が聞こえてきた。

「離せ……ッラシエル君は、無関係……だ!」

 とぎれとぎれの苦しそうな声。

 ばっと振り向くと、サザフィールドが衰弱して、椅子に縛り付けられていた。イリスは叫んだ。

「院長に何をしたの⁉」

「これさ」

 するとゴディは嗤って手を振り上げた。
 殴られる――! そう思って、とっさにイリスは眼をつぶった。

「っ痛……!」

 腕にチクリとした痛みが走る。目をあけてみると、腕にペン型自動注射器が突き刺さっていた。

「な……にを」

 にやりと笑って、ゴディはそれを抜いた。

「軽い麻酔さ。君は重要参考人だ。坊ちゃんのためにも、よろしく頼むよ」

 頭がもうろうとする中、イリスは抵抗することも声を上げることもできず、ただレミングスの不快な演説が、耳の中に入ってくるのを聞くしかできなかった。

「サザフィールド氏が、彼を研究対象として保護したのか、それとも情けをかけたのかは不明です。が、淫魔である彼を人間と騙って、こうして世に放っているのは明らかな犯罪です。しかも彼は、この治療院の助手にその毒牙を伸ばしていたのです!」

 おお、と芝居がかった声で、レミングスは続けた。

「彼女は私とも仲がよかった――彼女の名誉のために、名前を公表するのは差し控えさせてください。ですが、彼女はおぞましい淫魔の『発情期』がくるたびに、性的暴行を受けて、苦しめられてきたのです……!」

 ざわっ、と客席が反応を示す。イリスはぐったりとゴディに抱えられながら、はらわたが煮えくり返るような思いだった。

(……っ、言いたい放題、あること、ないこと……ッ)

 イリスとサイラスの関係をどこで知ったのかはわからないが、嘘を堂々と、こんな大人数の前でしゃあしゃあと吐くとは。

「離してっ……」

 このまま、好き放題に言わせてなるものか。その一念で、イリスはもうろうとしながらも、ポケットにさしていた鉛筆を抜いて、自分を抑えるゴディの内ももに突き刺した。

「いってぇ! このアマぁ!」

 腕が緩んだそのすきに、イリスは逃げ出した。

「待てっ、クソっ!」

 ゴディが追いかけてくるが、イリスはその前に舞台の中央へと躍り出て、レミングスにつかみかかった――が、手足に力が入らないせいで、よろけて床に手をついてしまった。

(ああもう……! でも、これだけは)

 イリスは顔を上げ、皆に向かって言った。

「違うんです……ッ 先生は、そんなんじゃない……!」

 イリスは必死に叫んだ。しかし――マイクを通さない声は、たよりなく舞台の下までとどかない。イリスは絶望した。
 しかし、そんなイリスを、レミングスのむっちりと汗ばんだ手が抱え起こした。

「おお、大丈夫か。今まで辛かったろう――この男を弾劾したい気持ちはよくわかる。が、君が表に立って傷つく必要はない。今まで十分、傷ついてきたのだから――」
 マイクを通した、隠す気なんてないしたり顔の小芝居に吐き気がしながらも、イリスは毒づいた。

「離せ、クソ野郎……ッ」

 するとレミングスは、マイクに声が入らないよう離してイリスを見下ろした。

「威勢のいいことだ、アバズレめ。サザフィールドとスノウを治療院から追い出したら僕の天下だ、お前はクビにしてやる」

 ちくしょう。好きにされてなるものか――。
 身体をおこさなきゃ。先生は悪くないって皆に説明しなきゃ……。
 しかし、麻酔が回り切った身体はそこが限界だった。イリスは憎々しくレミングスをにらみつけながらも、がくりと頭をたれた。

「イリス!」

 サイラスの切羽詰まった声が聞こえた。 

「よしよし……」

 意識を失ったイリスを見て、レミングスはほくそえんだ。
 それを見て、壇上のサイラスは青ざめながらも、決心した顔で再びマイクを握った。

「待ってください、私は――」




 ――目が覚めたら、イリスは海辺の町の治療院にいた。

「す……スノウ、先生は」

 はっと身体を起こすと、そこは窓から海が見える、豪華な個室の病室だった。イリスはとりあえず、伝言メモがないか周囲を探して、サイドボードの引き出しを次々とあけた。
 すると、前の患者の使い残しだろうか、しっかりとした作りの伝言メモが、一枚くしゃくしゃになって入っていた。

(わ、すごい。これ、文字だけじゃなくて、声とか吹き込めるタイプのだ)

 たしか値段が二倍三倍したはずだ。イリスはそれを広げて、とにかくサイラスに連絡を取ろうとした。その時――
 ガラリとドアが開いて、レミングスが入ってきた。イリスは全身をこわばらせた。

「目が覚めた? 薬の効きがよくないね。スノウにいろいろ打たれてたのか?」

 その発言にカッとなりそうになったが、イリスは思い直して冷静に聞いた。

「何のつもりですか。こんなことをして」

「なんのつもりって……僕は真実を公表したまでだ。学会の公平性のためにね」

「真実じゃない! 私は暴行なんて受けていないもの!」

 するとレミングスは、わざとらしく憐れむ表情を浮かべた。

「可哀そうなイリス・ラシエル。性被害を受けたのを、なかったことにしようと必死なんだね。いわゆる心的外傷後ストレス障害だ。君は休職するといい」

「は⁉ 何を言っているんです?」

 するとレミングスは、憐れむ顔からニタニタ顔に戻った。

「――と、いう筋書だ。君は可哀そうな被害者として、治療院を去るんだよ。これからは、僕がそう言えば、そういうことになるんだよ」

 イリスはきっと相手をにらみつけた。

「――私を排除したって……スノウ先生が残した功績はなくなりません。すぐにあなたがスノウ先生をはめたことがばれて、痛い目にあいますよ!」
 すると彼はくつくつと笑った。

「ラシエル君、君はまさか、常に嘘をついた者が罰をうけて、正しい者が報われると思っている?」
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