エリート魔術師様に嫌われてると思ったら、好き避けされてるだけでした!

小達出みかん

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迎えにきました!

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 イリスが叫ぶと、ミリアムとカレンデュラは窓から手を差し伸べた。

「おはいりなさい、かくまってあげるから」

 イリスは窓から病室に入って、とりあえずミリアムは病室に鍵をかけた。
 そしてくるりと振り返り、イリスに聞いた。

「一体どうなってるの? サザフィールド院長はいきなり更迭されるし、スノウ先生の正体がその……魔物で、イリスが被害者だなんて」

 ミリアムはぼかして言ったが、この病院にまでいち早くレミングスの誤った情報が流れていることがわかった。

(あのクソ、こういう時だけ仕事が早いなんて……)

 イリスがほぞをかんでいると、カレンデュラが心配そうに口をはさんだ。

「スノウ先生がいなくなるなんて困るわ……私も、他の患者さんも」

 その言葉で、イリスは怒りから我に返った。

「そうですよね。一番困るのは患者さんたち……本当のこと、お話しますね」

 イリスはミリアムとカレンデュラに、かいつまんで今回のことを説明した。
 たしかに、スノウは人間ではないこと。でも危険な魔物では全然なくて、職務に支障がないことも、できる範囲で説明した。

「それで、先生とその……」

 さすがに、発情期の性処理係をしていました、というのは言いづらい。イリスはオブラートに包んだ。

「その事を知ってしまったのがきっかけで、親しくお付き合い……をさせてもらっていたんだけれど」

 まぁ、とミリアムは目を見開くも、冷静に聞いた。

「じゃあイリスは、無理矢理どうこうされた……とかじゃ、ないのね?」

 念を押されて、イリスはうなずいた。

「うん。あくまで自分の意思でその……」

 イリスは言い淀んだ。患者のカレンデュラの目の前で、スタッフの私的なことを話すのは、少し気おくれがあった。
 しかし逆にカレンデュラは目を輝かせて言った。

「まぁ! 二人は付き合っていたのね! そうなればいいと思っていたのよ~!!」

「えっ、いや、その、そういうことではないんです……」

 あくまで『性処理』相手だったイリスは、声を小さくして弁解した。しかしカレンデュラは聞いていなかった。

「先生が珍しく、私に恋の悩みを打ち明けてきたときがあってね。それで私、ピンときたのよ。先生はたぶんイリスちゃんを好きなんだって」

 目を丸くするイリスに、カレンデュラは若干高い声で言った。
 それはまさに、恋バナに興ずる少女の声だった。

「いや、それはその……」

「ええとね。私の薬を、甘くするようにアドバイスしてくれたのって、たぶんイリスちゃんでしょう?」

「はい、そうですね……それを先生が?」

「そうよ。そうアドバイスしてくれたその人のことを考えると、胸の奥が痛くなるって。その人に自分がどう思われているか、そればかり考えてしまうって、熱列に悩んでいたわ」

「……え……」

 思いがけない情報にイリスは固まったが、二人の間にミリアムが割って入った。

「待って待って、二人はつまりまだ、ちゃんと付き合ってないけど、好きあってたってこと?」

 イリスはぐっと詰まった。

「先生はわからないけど――私は……」

 イリスは思いだした。サイラスに、最初彼の部屋で押し倒されたときのことを。
 たぶん、相手がレミングスだったら、どんな手を使っても逃げていただろう。
 けど、サイラスに甘い言葉をささやかれたら、受け入れてしまっていた。

(多分最初から――わたし、先生のことが気になっていたんだ)

 いつも、彼の担当になるときは憂鬱だった。嫌われているがの悲しかった。
 それはつまりーー彼に好かれたい、と思っていたということだ。
 クールだけど、誰より仕事ができて実は優しい、サイラスに。

(それで……身体を重ねるうちに、どんどん、先生のことが……)

 ベッドでささやかれる、甘い睦言。ベッドから出ても、どこまでもイリスのことを気遣う優しさに胸をときめかせ、サイラスの本心に期待してーーでも打ち消してを繰り返していたのは、ほかならぬ自分だ。

「私……先生のこと、好きです」

 するとカレンデュラは目を輝かせ、逆にミリアムはうなった。

「つまり二人は正式な恋人って証拠がまだなくて――どうやって知ったかは謎だけど、そこをレミングスに逆手に取られて、『性的暴行』ってことにされちゃったのね。だって二人が堂々と付き合ってれば、そんなこと言えないもの」

 イリスははっとした。

「そっか……ばれたのは、あの時だ。予定を盗み聞きされて……」

 レミングスがサイラスの研究室のドアの前に立っていたあの日。彼は会話からイリスとサイラスの関係、そしてサイラスの正体を推測し、あの新聞記事にたどりついたのだろう。

(ああ、あの時盗み聞きされなければ……!)

 イリスはほぞをかんだが、もう遅かった。

「今からでも言うべきねぇ。もう嘘でもいいから付き合ってたって。それで――なんとか冤罪が晴れて、スノウ先生が戻ってこれるようにできないかしら」

 カレンデュラが言う。

「でもそもそも、スノウ先生の正体を隠してた院長は、どういうつもりだったのかしら」

 イリスは知りうることを話した。

「多分、院長はスノウ先生を拾って、ほぼ育てたみたいな感じなんだと思う、聞いた感じだと。それで、皆に受け入れてもらえるように、スノウ先生がある程度の実績を積んでから、公にしようって計画だったみたい」

「なるほどね……たしかに先生は実績を積んでる最中だったものね。うーん……。とにかくまずは、責任者の院長を連れ戻したいわね。どうにからなないのかしら」

「今本部で審議中みたい。期限はわからない」

「私たち下っ端が何を言っても、取り合ってもらえないものね……」

 黙ってしまったミリアムとイリスに、カレンデュラが言った。

「私たち患者が、スノウ先生と院長を返して、って直談判するのはどうかしら」

 二人ははっとした。

「それ、いいかもしれません!!」 

 しかしすぐにイリスはうーんとうなった。

「でも、病気のカレンデュラさんを連れ出して無理させるのはちょっと」

 ミリアムも言った。

「それに、優しいカレンデュラさんに、本部の手ごわいおじさんたちの相手をさせるなんて……」

 心から心配するふたりに、しかし老婦人は微笑んだ。

「まかせて。こういうこと、得意なのよ。私の元職業は――」
 


 
「は~~~、こんなことになるとはなぁ」

 魔術師協会本部の秘密会議室で、一人取り残されたサザフィールドは溜息をついた。
 ――ここに取り残されて、もう何日にもなる。

「私の沙汰は、追ってたしかめる、とのことだったが……」

 取り調べにやってきたのは、魔術師協会の副会長だった。彼はゼス財団の当主、レミングスの父親でもあった。

「かなーり、あっちにとって都合の良い沙汰が下りそうだなぁ……」

 伝言メモでも飛ばして、外の人脈たちに助けを求めたいのだが、この秘密会議室は厳重に封鎖されていて、髪の毛一本、許可なくすり抜けることはできない。

(利己的で身内びいきなあの男は、敵も多い。外に連絡さえ取れれば、こちらの味方に話をつけて、どうにかなりそうなのだが……)

 しかしあちらもそれを見越して、素早くサザフィールドをこの出口のない部屋に閉じ込めたのだろう。

(それにしても、他の協会のお偉方も助けに来てくれないということは、これはひょっとして……)

 サザフィールドには少し心当たりがあったが、さしあたって心配なのは。

「現場だ! それにサイラスも、ラシエル君も無事だろうか……」

 いったいどこでどうしているのか。レミングスの手に落ちて、ひどい目にあっていたとしたら。

「――いかん。もし患者が不利益をこうむり、あの二人が危険な目にあっているのならば、それはこの事態を招いた私の責任だ。なんとしてでも、出ねば!」

 たとえ爆発してもかまわない。サザフィールドはその勢いで、扉の密閉魔術を自らの魔術でこじ開けようと手をあてた。

 その時。

「院長、サザフィールド先生……ッ!」

 扉が向こうから開いた。そこに立っていたのは――

「ラシエル君⁉ それに、カレンデュラさん! ロディ君まで……!」

 イリスが、十数人の患者と助手を連れて、そこに立っていた。

「一体何が……!」

「院長、迎えにきました!」

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