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分不相応
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イリスが勇ましい笑みで答えた。その隣にはロディがいた。
「スノウ先生が、悪い奴のせいでつかまってるってきいて……!」
「私たち、ここまで来て、本部に直談判したんです。院長とスノウ先生を出して――って」
車いすのカレンデュラも、不敵にほほ笑んだ。その後ろには、彼女の息子やら孫やら、ビシリと黒スーツを着こなした、屈強な犬獣人たちが控えていた。
「スノウ先生は難しいそうですが、とりあえず院長は釈放していただけると」
――たしかカレンデュラの生家は、弁護士業を一手に担う名家。それを背景に、ゼス財団の力も退けたのか。とサザフィールドは納得しつつも、大したものだと感心した。
「ふふ、こういった交渉は久しぶりで、腕が鳴ったわ」
「カレンデュラさん、かっこよかった~」
「一族郎党を従えて、『これは不当な拘束です、弁護士もなしに彼を閉じ込め続けるというのなら、あなた方を訴えます!』って」
「ほおお。そりゃあ頼もしい」
皆でサザフィールドを囲むなか、イリスは院長に聞いた。
「院長、スノウ先生は今どこに? どうやって彼を助けましょう」
院長は腕を組んで考えた。
「サイラスは今、おそらく――本部の奥ふかくの、魔物封じの部屋に閉じ込められている。強力な魔術がかかっていて、許可されたもの以外は、近づけもしない厄介な場所だ」
「そんな……」
「だから、力ずくで救出は不可能だ。そこでどう、彼を助けるかだが……」
サザフィールドは数秒の沈黙のち、口を開いた。
「うん。今考えたんだが――我々は、スキャンダルをたてに、弁明する機会もなくゼス家の力によって閉じ込められた。
だから、サイラスと私が自らの行ったことを、正式に皆に説明すべきなのだ思う。サイラスは危険な存在ではないと、皆にわかってもらう必要がある」
ミリアムが口をはさんだ。
「会見を行うと?」
「そう。彼の正体が人間ではなく、そして私がそれを隠していたことの説明をする。そしてそこに、今回の事件の参考人としてラシエル君にも発言してもらいたい。そして患者方一同にも来ていただいて、彼には危険はなく、治療院にとっても必要な人間であると弁護してもらいたいのだが……」
するとサザフィールドがイリスを見た。他の皆も、イリスを心配そうに見ている。
彼らの心配を察したイリスは、笑顔で請け負った。
「はい、私ももちろん、顔と名前を出して証言します。彼に着せられた濡れ衣は嘘だって! でも……」
イリスは心配になった。
「どうやってその機会を作りましょうか。絶対レミングスの邪魔が入りそう……」
院長はうなずいた。
「それについては考えたんだが――今回の学会は中断された。だから近々、また学会をやり直すはずだ。皆論文を発表できなかったからな」
そこで皆、ぴんときた。
「その機会を使わせてもらう――ってことですね」
「そうだ。だから、予告せずにやり、レミングスをだまし討ちにする。報道陣もよんで、いっそ大々的にやってしまおう」
「まぁぁ、学会をのとって、スノウ先生の冤罪を晴らすなんて! なんだかわくわくしちゃう」
カレンデュラが言った。その顔は、心なしかいきいきとしていた。
しかしミリアムは、サザフィールドに心配そうにきいた。
「真実を公表する、という方法は良いですが……それで、本部――ゼス家は納得するでしょうか」
「だからこそのゲリラ会見だ。大々的に新聞社、病院の患者たちに事実を公表し、それが皆に支持されれば、さすがのゼス財団も従わざるをえないだろう。数の力で勝負だ」
イリスは目を輝かせた。
「それならどうにか、レミングスがばらまいた嘘を、払拭できそう……!」
「そう。こたびの騒動も決定も無効だ。君が被害を受けた云々の嘘が暴ければ、かえって彼のほうを訴えることもできるかもしれん」
しかし、ふとサザフィールドが顔を曇らせた。
「だがすまない。ラシエル君。君を矢面に立たせることになって」
しかしイリスは首を振った。
「いいんです。だってスノウ先生に戻ってきてもらうためですから」
そしてイリスは不敵にほほ笑んだ。
「それに先生、私――いいものを持ってます」
◆
――ここに閉じ込められて、どのくらいたったのか。
サイラスは何度目かわからない溜息をついた。
(もしかしたら……もう一生、ここから出られないのかもしれないな)
そう思うと、いやがおうにも身体が冷たくなる。
こんなことなら、森から出なければよかった――。何度目かわからない後悔が、また頭を支配する。
すると、その時キィとドアが開いた。サイラスははじかれたように頭を床から上げ、扉のほうを見上げた。
「ああ、なんだ。飲まず食わずでも生きているのか、さすが淫魔」
サイラスをこんな目に合わせた張本人のレミングスが、ゆうゆうと部屋へと入ってきた。
はいつくばって身を起こすことをできないサイラスと、立ったレミングスはお互いにらみあった。
レミングスはとても嬉しそうに言った。
「ははは、エリート魔術師様から、薄汚い魔物に戻った気分はどうだ?」
彼がこんな上機嫌でやってくるということは、絶対にサイラスにとって嫌な知らせだろう。しかしサイラスは精一杯冷静に聞き返した。
「――何の用でしょう」
すると、彼ははいつくばるサイラスの背をドン!と踏みつけながら言った。
「いいだろう。お前に下った沙汰を教えてやる」
ぐいっ、と力を込めて踏みつけながら、レミングスは叫んだ。
「人に害なす魔物であるお前は、対魔機能のあるこの部屋に無期限謹慎だ! ああ、そのうち魔術研究の実験動物として使われることもあるかもしれない。なにしろ生きた淫魔のサンプルなんて貴重だからな!」
にやにや笑いながらレミングスは言った。
「心配するな。墓はたててやれないが――きっとお前はホルマリン漬けの標本になって、イリスと再会できるだろうよ。博物館かどこかでね!」
――そうか。自分は切り刻まれ、研究対象になるのか。
サイラスは暗い床を見つめながら、自分の運命を知った。
「はははは! どうだ、僕に逆らうからこんなことになるんだ!」
彼は楽し気に数度サイラスを踏みつけにした後、ふと我に返ったのか足をどけた。
「ああ、こんなことしている場合じゃなかった。今日はこれから、あの日の学会のやりなおしに出席するんだから」
彼はバサッと懐から紙束を取り出した。
「君はもうここを出ることも、研究をすることも、魔術を使うこともない。だから『ユーフォリア』も『シールドハーツ』も僕の研究として発表させてもらうよ」
その一言には、さすがのサイラスも顔を上げた。
「ははは、君もうかつだな。あんなしょぼい金庫に研究成果を入れておくなんて。しかも鍵番号は――あのイリス・ラシエルの誕生日!」
彼はあざけるように、サイラスに顔を近づけた。
「安心してくれ。イリス・ラシエルも僕が面倒をみてあげよう。もう治療院は僕のもの同然だからね――あの細っこい身体は、いじめがいがありそうだ」
「っ……!」
その言葉に、サイラスは激高し、動かないからだを動かして相手に襲いかかろうと身体をよじった。
「あはははは! まるで芋虫だ! 自分のことじゃ冷静だったのに、あの女のこととなると怒るのか」
楽し気に、彼は背中を向けた。
「本当に好きだったんだねぇ……だけどいきるなよ。彼女は人間で、お前は魔物なんだ。分不相応な相手だったとあきらめるんだな。お前にお似合いなのは、せいぜい発情期の雌犬だろうよ」
最後に面白がるように彼はサイラスを振り向き、ドアから出て行った。
バタンと無情に締められたドアを、サイラスはできることなら破壊したかった。
(くそ、くそっ……イリス……ッ!)
しかし身体が動かない。サイラスは床に拳をたたきつけたかった――が、それすらできなかったので、ただ叫んだ。
「くそっ、あああああああ!」
それしかできなかった――。
「スノウ先生が、悪い奴のせいでつかまってるってきいて……!」
「私たち、ここまで来て、本部に直談判したんです。院長とスノウ先生を出して――って」
車いすのカレンデュラも、不敵にほほ笑んだ。その後ろには、彼女の息子やら孫やら、ビシリと黒スーツを着こなした、屈強な犬獣人たちが控えていた。
「スノウ先生は難しいそうですが、とりあえず院長は釈放していただけると」
――たしかカレンデュラの生家は、弁護士業を一手に担う名家。それを背景に、ゼス財団の力も退けたのか。とサザフィールドは納得しつつも、大したものだと感心した。
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「カレンデュラさん、かっこよかった~」
「一族郎党を従えて、『これは不当な拘束です、弁護士もなしに彼を閉じ込め続けるというのなら、あなた方を訴えます!』って」
「ほおお。そりゃあ頼もしい」
皆でサザフィールドを囲むなか、イリスは院長に聞いた。
「院長、スノウ先生は今どこに? どうやって彼を助けましょう」
院長は腕を組んで考えた。
「サイラスは今、おそらく――本部の奥ふかくの、魔物封じの部屋に閉じ込められている。強力な魔術がかかっていて、許可されたもの以外は、近づけもしない厄介な場所だ」
「そんな……」
「だから、力ずくで救出は不可能だ。そこでどう、彼を助けるかだが……」
サザフィールドは数秒の沈黙のち、口を開いた。
「うん。今考えたんだが――我々は、スキャンダルをたてに、弁明する機会もなくゼス家の力によって閉じ込められた。
だから、サイラスと私が自らの行ったことを、正式に皆に説明すべきなのだ思う。サイラスは危険な存在ではないと、皆にわかってもらう必要がある」
ミリアムが口をはさんだ。
「会見を行うと?」
「そう。彼の正体が人間ではなく、そして私がそれを隠していたことの説明をする。そしてそこに、今回の事件の参考人としてラシエル君にも発言してもらいたい。そして患者方一同にも来ていただいて、彼には危険はなく、治療院にとっても必要な人間であると弁護してもらいたいのだが……」
するとサザフィールドがイリスを見た。他の皆も、イリスを心配そうに見ている。
彼らの心配を察したイリスは、笑顔で請け負った。
「はい、私ももちろん、顔と名前を出して証言します。彼に着せられた濡れ衣は嘘だって! でも……」
イリスは心配になった。
「どうやってその機会を作りましょうか。絶対レミングスの邪魔が入りそう……」
院長はうなずいた。
「それについては考えたんだが――今回の学会は中断された。だから近々、また学会をやり直すはずだ。皆論文を発表できなかったからな」
そこで皆、ぴんときた。
「その機会を使わせてもらう――ってことですね」
「そうだ。だから、予告せずにやり、レミングスをだまし討ちにする。報道陣もよんで、いっそ大々的にやってしまおう」
「まぁぁ、学会をのとって、スノウ先生の冤罪を晴らすなんて! なんだかわくわくしちゃう」
カレンデュラが言った。その顔は、心なしかいきいきとしていた。
しかしミリアムは、サザフィールドに心配そうにきいた。
「真実を公表する、という方法は良いですが……それで、本部――ゼス家は納得するでしょうか」
「だからこそのゲリラ会見だ。大々的に新聞社、病院の患者たちに事実を公表し、それが皆に支持されれば、さすがのゼス財団も従わざるをえないだろう。数の力で勝負だ」
イリスは目を輝かせた。
「それならどうにか、レミングスがばらまいた嘘を、払拭できそう……!」
「そう。こたびの騒動も決定も無効だ。君が被害を受けた云々の嘘が暴ければ、かえって彼のほうを訴えることもできるかもしれん」
しかし、ふとサザフィールドが顔を曇らせた。
「だがすまない。ラシエル君。君を矢面に立たせることになって」
しかしイリスは首を振った。
「いいんです。だってスノウ先生に戻ってきてもらうためですから」
そしてイリスは不敵にほほ笑んだ。
「それに先生、私――いいものを持ってます」
◆
――ここに閉じ込められて、どのくらいたったのか。
サイラスは何度目かわからない溜息をついた。
(もしかしたら……もう一生、ここから出られないのかもしれないな)
そう思うと、いやがおうにも身体が冷たくなる。
こんなことなら、森から出なければよかった――。何度目かわからない後悔が、また頭を支配する。
すると、その時キィとドアが開いた。サイラスははじかれたように頭を床から上げ、扉のほうを見上げた。
「ああ、なんだ。飲まず食わずでも生きているのか、さすが淫魔」
サイラスをこんな目に合わせた張本人のレミングスが、ゆうゆうと部屋へと入ってきた。
はいつくばって身を起こすことをできないサイラスと、立ったレミングスはお互いにらみあった。
レミングスはとても嬉しそうに言った。
「ははは、エリート魔術師様から、薄汚い魔物に戻った気分はどうだ?」
彼がこんな上機嫌でやってくるということは、絶対にサイラスにとって嫌な知らせだろう。しかしサイラスは精一杯冷静に聞き返した。
「――何の用でしょう」
すると、彼ははいつくばるサイラスの背をドン!と踏みつけながら言った。
「いいだろう。お前に下った沙汰を教えてやる」
ぐいっ、と力を込めて踏みつけながら、レミングスは叫んだ。
「人に害なす魔物であるお前は、対魔機能のあるこの部屋に無期限謹慎だ! ああ、そのうち魔術研究の実験動物として使われることもあるかもしれない。なにしろ生きた淫魔のサンプルなんて貴重だからな!」
にやにや笑いながらレミングスは言った。
「心配するな。墓はたててやれないが――きっとお前はホルマリン漬けの標本になって、イリスと再会できるだろうよ。博物館かどこかでね!」
――そうか。自分は切り刻まれ、研究対象になるのか。
サイラスは暗い床を見つめながら、自分の運命を知った。
「はははは! どうだ、僕に逆らうからこんなことになるんだ!」
彼は楽し気に数度サイラスを踏みつけにした後、ふと我に返ったのか足をどけた。
「ああ、こんなことしている場合じゃなかった。今日はこれから、あの日の学会のやりなおしに出席するんだから」
彼はバサッと懐から紙束を取り出した。
「君はもうここを出ることも、研究をすることも、魔術を使うこともない。だから『ユーフォリア』も『シールドハーツ』も僕の研究として発表させてもらうよ」
その一言には、さすがのサイラスも顔を上げた。
「ははは、君もうかつだな。あんなしょぼい金庫に研究成果を入れておくなんて。しかも鍵番号は――あのイリス・ラシエルの誕生日!」
彼はあざけるように、サイラスに顔を近づけた。
「安心してくれ。イリス・ラシエルも僕が面倒をみてあげよう。もう治療院は僕のもの同然だからね――あの細っこい身体は、いじめがいがありそうだ」
「っ……!」
その言葉に、サイラスは激高し、動かないからだを動かして相手に襲いかかろうと身体をよじった。
「あはははは! まるで芋虫だ! 自分のことじゃ冷静だったのに、あの女のこととなると怒るのか」
楽し気に、彼は背中を向けた。
「本当に好きだったんだねぇ……だけどいきるなよ。彼女は人間で、お前は魔物なんだ。分不相応な相手だったとあきらめるんだな。お前にお似合いなのは、せいぜい発情期の雌犬だろうよ」
最後に面白がるように彼はサイラスを振り向き、ドアから出て行った。
バタンと無情に締められたドアを、サイラスはできることなら破壊したかった。
(くそ、くそっ……イリス……ッ!)
しかし身体が動かない。サイラスは床に拳をたたきつけたかった――が、それすらできなかったので、ただ叫んだ。
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