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「ーーふぅ。今からお話することは、わたくしとヨハンで決めたこと。ですから、あの娘は知らないのです」

(ま、またまたな展開だなぁ)

(ああ。もう驚かない自分がいるのに、逆に驚いている……)

とにかく、今日は何の因果なのだろう。

朝から心臓を抉るくらいの衝撃的な出来事が続いていた。いちいち驚いていたら、身がもたなそうだ。

「大地の女神はね、あまり公になっていないのだけど、感情を操ることが出来るの。そして、感情を見ることも出来るの。分かりやすく言えば、例えばいまリンセイからはね、わたくしに向けては敬愛を示す色が出ているし、あなた自身の感情としては『混乱』が見てとれるわ」

リンセイは名指しされ、また指摘の内容が正しかったのか、表情が強ばる。漆黒の瞳が真っ直ぐにマーリを捉えた。

ーーーー感情を可視化。

それはとても珍しい能力だった。

「だから、わたくしは、あなたたち三人がアーレイに向ける感情が愛情であることをずっと知っていたの。それに、あなたたちからアーレイに出ている感情は、金色だったからー」

金色の感情?
それはやはり特別なのだろう。

「それは、結ばれる色、ね。運命の金色とも言えるけど。縁者石のお告げが出るのは明白だったから。それがわかっていたから、あの娘のことを頼んだのよ?未来の旦那さまですからね」

ーーーマーリ様はずっと知っていた?

ふと横を見れば、ウエイもリンセイも驚きのあまり声を失っていた。

女神は何でもお見通しだったーー?

もともと、ここにいる三人は親同士が親戚やら、幼馴染みの関係でもあり、小さな頃からよく一緒にいた。その延長戦で頼まれたのかと思っていたが。

その上、男三人であまりアーレイのことを好きだ、などあまり話をしたことはなく、何となく察しているような感じではあったが、まさか三人ともアーレイを深く愛し、運命の相手であったとはーー。

今は言葉が出ない、とばかりに思わず口を手で塞いでいた。

「ジーエン?大丈夫?」

動揺させてごめんなさい、とばかりにマーリに覗きこまれ、目配せする。微かに碧眼が見開かれた。

「続けて下さって結構です。」

「ありがとう、ジーエン。それでね。ほら、わたくしの縁者石のお告げはあまりに悲劇だったでしょう?オーウェンからも金色の感情がわたくしに出ていたのに、無理やりイライザと結婚することになったり。あとは、間者とかもすぐに分かるの!まあ、便利なこともあるけど、厄介なことも多くて……」

つまり、マーリは、感情が見えると厄介なことのほうが多いと考えた。

特に表の仮面と、裏の感情が異なる場合などもそうだろう。嫉妬や憎しみも分かる。

確かに、見たくないものをいつも見えるのは厄介そうだ。

「だから、わたくしはこの感情のオンオフが出来るようになる制御術を身に付けようと修行を始めたの。一方で、あの娘の感情を封印することを決めたわ。正確に言うならば、色情感情のみの封印と、感情の可視化を使えないようにしたの」

ーーつまり、アーレイは、マーリのように感情を可視化することが出来ず、恋愛感情を感じないのだ。

(そうか!だから、決して愛情を伝えるな、だったのですね)

ようやく納得できた。

「ようやく、可視化のコントロール方法も会得したし。縁者石のお告げも出たから。だから、安心してっ!あの娘が目覚めたら感情解放の儀を行うわっ!」

マーリはなぜだろう自信気に三人に告げる。

「そうよっ!これからアーレイちゃんは恋愛に目覚めるの!三人共、今までごめんなさいね。あの娘と三人は間違いなく両想いだから。あの娘からちゃーんと金色の感情があなたたちに出ているの。だから、だからお願いね」

どうみても母親の無茶振りなような気がするがーー。何だろう?妙な胸騒ぎがするのは。

マーリは三人に懇願するように手を合わせる。

「だからーーー」

だから、何なんだ???
今日のマーリはやけに興奮しているようだった。

「どのみち両想いなんだし、夫婦になるんだし。いつ殺されるか、襲われるかわからないんだから。ね?早いところあの娘と仲良くなって?一刻も早く既成事実作ってしまっても良くてよ?」

つまりーーー。
早く子作りせよ、と?

リンセイは耳まで真っ赤になり、ウエイは視線でジーエンに訴える。

(言いたいことは分かりますよ、ウエイ。後程、話しましょう)

「マ、マーリ」

皇帝であるヨハンは、妻の突然の発言に制止しようと口を挟んだ。

「ヨハン!そんなのんびりしていられないわ。これは戦争なのよっ!だから、もうみんなには泊まってもらっても何でも構わないから、とっとと押し倒すなりしてねっ!」

ヨハンはまあまあ、とマーリをたしなめに入る。

「わたくしから、彼らの国には今後のこともありますし、連絡しますわっ。とにかく、子作りですわよ!」

マーリの力強い宣言に、男たちはただうつむきがちに同意せざるをえなかった。
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