口が悪くてスミマセン。

秋の桜海祭編

文化祭ーミス桜海 2回戦②

橘先輩は私達を嘲笑うかのように、それだけを言うと私達の前から去っていく。









「うぅ、私ギター弾けるかな。」





次が順番の杏ちゃんが自信なさそうに話す。







「大丈夫、杏ちゃん自信を持って精一杯弾いておいで。」




私には、これだけしか言うことが出来なかった。





演奏が少し下手だったとしても、杏ちゃんのいつもの明るさならそこも評価してもらえるかもしれない。








……審査員まであっち側では無ければ。










「……ありがとうございます染井先輩。私、全力で頑張ってきます。」





そう言うと杏ちゃんは不安を隠すかのようにいつもの元気な笑顔でステージの中央へと向かう。





杏ちゃんが選んだ楽器はもちろんギター。








杏ちゃんはギターを構え、深呼吸をして弾いていく。











「「あ、私この曲知っている！」」





会場から少しながら声援が聞こえる。






杏ちゃんは楽しそうに、みんなが知っている曲を弾いていく。





確かに少しだけ、たどたどしい部分もあるが他の人に比べ聞いてて楽しくなるような杏ちゃんらしさが出た演奏だった。







橘先輩ほどでないにしろ、他の人に比べ大きい拍手が送られる。









「良い演奏だったよ、杏ちゃん。」





「あ、ありがとうございます。……先輩はどうするんですか？」







そう、私は他の人の演奏があっている間、弾けそうな楽器をひたすら探していた。






フルートやヴァイオリンは弾いたことがなく論外だった。




ほとんど弾けないが杏ちゃんと同じギターにしようかと思っていたとき、私はある楽器の存在に気づく。












「先輩……。無理なら棄権しましょう。」





杏ちゃんが心配した表情で話しかける。






「心配してくれてありがとう。………でも大丈夫、任せて。」










そしていよいよ私の順番になり、ステージへ向かう。







「さぁ、２年生の染井 桜は何を選ぶのでしょうか？」







司会進行の人の声が聞こえる。






私はその人にある質問をした。









「あの！ステージの上にある楽器なら何でも大丈夫ですよね？」






その言葉に会場はざわつく。






まるで「こいつは何を当たり前のことを言っているのか」と。










「えぇ、もちろん大丈夫ですよ。」







そうか、なら問題ない。





こんなにも人の視線を集めているというのに今は不思議と緊張していなかった。














『逃げるなら今の内ですわよ。』






ふと、橘先輩の言葉が脳裏によぎる。






私は絶対に逃げない。何よりあの女の言いなりになるなんて嫌だ。








そして私は楽器を選ぶ。





その選択に会場からはザワザワと声が聞こえた。








そう、普段から設置してあり、堂々とした巨大な有名な鍵盤楽器……。










『ピアノ』だ。