【R18】みだりに近づかないでください!

はこスミレ

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「倫音ちゃん、明るくなったね」
 常連さんから声を掛けられた。
「え?今まで暗かったってことですか」
 そんなつもりは無かったけれど。
「日晴くんが来なくなって、こーんな感じで寂しそうだったから」
 両方の眉毛を下に引っ張って八の字のようにしている。いくらなんでも、そんな顔はしてない。
「この前、すごかったんですよ!」
 耳聡い高倉さんが常連さんへ話出し、盛り上がり始めた。
「いや、本当…私のことはいいですって」
 どうしてみんな、こんなに恋の話が好きなんだ。
「っはー!日晴くん、いい男だなー!こりゃもう時間の問題だな」
「でしょー!」
「…全然会えてないですけどね、メッセージやり取りするくらいで」
 彼はまだまだ忙しいらしい。社会人って、大変だな。繁忙期みたいな感じなんだろうか。
「会えない時間が、愛を育てるんだよ」
 うんうんと頷いている常連さんのコップに水を注ぎ足した。
「そうだと…いいですけど」
 誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟き、カウンター側の定位置に戻った。

 それから、本当に日晴くんには会えなかった。でも、日晴くんがそばにいるんじゃないかってくらい、変な男には絡まれていない。
 相変わらず、星野にウザ絡みはされるけれど、大学内も静かなものだ。たまーに飲み会や合コンに誘われたりするけれど、全てお断りしている。
 そういえば、天体観測サークルの冬の会に参加して、あの女子達と星を見てきた。何やら星野から情報が漏れているらしく、日晴くんのことを根掘り葉掘り聞かれて、恥ずかしかったけど、楽しかった。
 相変わらずメッセージのやり取りと、あとたまに通話をすることもある。耳元で聞く日晴くんの声は、生とは違うけれど、会えない分嬉しかった。
「倫音さん、少し時間取れそうなんだけど…明後日ってシフト入ってたよね?」
「あ、うん。ラストまで」
「閉店ギリギリになりそうなんだけど、行っても良いかな?」
 今までで一番、胸がギュウッとなった。
「うん、待ってる」
「良かった、また連絡します」
「はい」
 短い通話の後、血がドクドクと早く流れて逆流するんじゃないかと思った。
「どうしよう…」
 会えなくなってから、軽く二ヶ月は経っていた。
 前は、どんな顔して会っていたんだっけ?
 顔……顔は大丈夫、造形だけは良く産んでもらっているから。
 でも、どんな風に話せばいい?会った時に、変な表情になっていたらどうしよう。灯里に取られた写真みたいな顔だったら、恥ずかしくて死にたくなる。あんなの、私の気持ちがモロバレじゃないか。
 ぐるぐると考えて、その夜は夜更かしをしてしまった。


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