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「あぁ…今日も素敵な笑顔を下さり、ありがとうございます!」

 壁に貼られた愛しのあの人のポスターに、俺はうっとりと抱き着いた。

 その様子を、部屋に入って来た妹が若干引き気味で見ている。

「お兄ちゃんさ、私がそのBLゲームにハマってる時、生暖かい目で見てたけど……今は、私よりそのゲームにハマってるね。」

「だってさ……こんなカッコいい男が出てくると思わなかったし。今や俺の心の拠り所は、このポスターとこのグッズしかないんだ!」

 俺と妹は非常に仲が良く、ゲームや漫画の貸し借りをしてるんだけど……偶々その中に、手違いでBL漫画が混じっててさ。
 何となく気まぐれに読んでみたら、俺はその世界にドハマりしてしまった。

 それから色んな漫画や小説、果てはゲームを借りたり、自分でも買うようになっちゃって……結構、立派な腐男子になりました。

「そんなにそのキャラが好きか……お兄ちゃんの恋も、神様が叶えてくれたらいいのにね。」

 な、何ていい子なんだ、妹よ!

 でもなぁ……どれだけ好きでも、彼とは生きてる世界が違うからな──。
 今の俺に出来る事は、数少ないグッズを集め、ちょこっとだけお顔が載っているこのポスターを愛でる事だけ──。

「それでも……俺はこれからもあなたが好きです、カイル様。だからどうか、今夜もまたあなたの夢が見れますように──。」

※※※

 第二王子カイル…彼は俺が初めて買ったBLゲームの、「禁断の薔薇園」に出てくるキャラクターだ。
 
 お店でこのゲームのパッケージを見た時、俺の心は大きく震えた。
 
 この優しい微笑み、何て素敵なんだ……!
 せっかく手に取ったんだし、このゲームやってみようかな。

 そうして購入したゲームをやり進めて行く内に、俺はある事に気づいた。

 あれ…カイル様の出番、減ってきてないか?

 そして俺は、衝撃の事実を知る事に──。

 カイル様は、あくまでサブキャラクター。
 カイル様と結ばれるルートは、ゲーム内に存在しない。

 それでも俺は、諦めずに最後までプレイした。
 だって、メインキャラクターの一人で、カイル様の兄である第一王子サリューと結ばれるルートに、カイル様が再登場という流れだったから。
 
 そして画面に現れたカイル様は、あの素敵な笑顔でこう言った。

『ご結婚おめでとうございます。兄上とどうぞお幸せに。』

 違う男とくっ付いたのに、俺、祝福された……。
 俺が好きなのは、あなたなのに。
 ゲームのセリフとはいえ、悲しいなぁ……でもその優しい笑顔、やっぱり好き!

 そして漸くゲームの第二弾が発売され、今度こそカイル様ルートがあると信じ、俺はそれを購入した。

 でもその期待は、大きく裏切られたのだ──。
 
 カイル様、全く出てこないんだけど!?
 ちゃんと居るよね、パッケージに。
 でもどのルートでも、名前さえ出てこないよ?
 
 そして終盤になって、サリューのセリフで俺は奈落の底へと突き落された。

『カイルも結婚したし、俺たちもそろそろ──』

 け、結婚……?
 俺の好きな人、俺の知らない内に、俺の知らない人と結婚しちゃってた──!?
 
 俺はその日を境に、そのゲームをプレイするのを辞めた。

「でも、それでも好きなんだよな……。カイル様~、なんで結婚したの?あーあ、俺があの世界に行けたらなぁ。そしたら俺が、彼の心を射止めてみせるのに……。」

 俺は枕元のお手製カイル様人形を抱きしめ、眠りの世界へと旅立った──。

※※※

 コン、コン。

「お坊ちゃま、準備はできましたか?」

 …準備って?
 ていうか、お坊ちゃまって──!?

 俺は、驚いて目を開けた。
 
 あれ、俺いつの間にベットから起き上がって……。
 
 それに、何この服。
 俺、上下スウェット着てたよね。
 
 なのに、何で制服着てるの?
 
 ていうか、この制服見たことある。
 確かあのBLゲームの中の……ローズ学園の制服じゃん!

「お坊ちゃま、入りますよ?」

「え、あ、はい!」

「あら、着替えられてるじゃないですか。サリュー様がお待ちですよ、学院に一緒に行くのでしょう?」

 サリュー様って、あのサリュー様?
 てことは、やっぱりここはあのBLゲームの世界?
 
 俺、知らない内に、異世界転生したの?

 それでサリュー様と一緒に登校するってことは…もしかして俺、主人公になってる──!?

 や、やった!
 俺、カイル様の存在する世界に居るんだ。
 
 カイル様に会える、カイル様にアタックできるのか!?

「主人公のノアになれたのなら、こっちのもの!ルートがないなら作ればいい!運命だって変えて──」

「あの、お坊ちゃま!盛り上がってる所申し訳ありませんが……あなた様はノアではなく、アルト様でしょう……?」

「……へ?」
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