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「あぁ……、お腹空いた。朝ごはん抜きは、やっぱ駄目だ。」

 今は三限目が終わって、休み時間。
 俺はあまりにお腹が空いて、お昼を待たずカフェテリアにパンを買いにやって来た。

 ゲームで見た時から、ここのパン食べてみたかったんだよね!

 ぐううぅ~……。

 うわ、すっごいお腹の音。
 これは、とてもお昼まで持たなかったよ。

 ぐううぅ~……。

 あぁ、また──!

「フッ……。ずいぶん元気がいいんだね、君のお腹は。」

 え……ちょ、待って?
 こ、この素敵な声は……!?

「カ、カイル様……?」

「やぁ、アルト。ごめんよ、笑ってしまって。」

「ほ、本物、カイル様……!い、いえ、あの、こんなのでよろしければ、どんどん笑って下さい。むしろ笑顔が見られて、最高のご褒美です!」

「あ、ありがとう。でも、本物って……?それにご褒美とは……?」

「あ、いえ……どうかお気になさらず!」

「そう?早く食べて戻らないと、四限目に間に合わないね。食事の邪魔をしてごめんよ?」

「とんでもないです!」

 俺に手を振ると、カイル様はその場から去って行った。
 
 愛するカイル様と、初会話だ……。
 俺、今ちゃんと話せてたかな?
 
 頭の中がパニックで、あんまり自信が無いや。

 でも、今の会話で分かった。

 アルトはまだ、ノアを虐めてないんだ。
 だからカイル様は、俺にああして話しかけてくれた。

 ありがとうアルト!
 何とか、思い留まってくれてたんだな──!

 あ~、心配事が減ったら、ますますお腹空いた。
 
 あと一限を乗り越えて、お昼はいっぱいご飯を食べよう──!

※※※

「アルト様、ずいぶんご機嫌ですね。」

「うん。気にかかっていた事が一つ、解決したから。」

 俺は、アルトの取り巻きたちと、一緒にお昼を食べていた。

「でしたら、上手くいったのですね。」

「え……上手くいくって、何が?」

「もう、とぼけないで下さいよ。昨日おっしゃってたじゃないですか。あの田舎者のノアと言う男……あの男が今日使う教科書を、学園の沼にこっそり捨ててやったって。」

 ……は!?
 き、昨日って、俺がまだアルトじゃない時の話だよね?
 
 や、やってたのか、アルト~!
 全然、セーフじゃなかった──!
 
「フフ、今日の授業では、さぞや苦労したでしょう。」

「先生に酷く怒られたに決まってます!」

「ちょっと頭がいいからって、調子に乗るからじゃないか。たかが平民の分際で……ねぇ、アルト様?」

 取り巻きたちが盛り上がり何やら言っているが、もうそんな事は俺の耳には入って来なかった。

 俺は昼食もそこそこに、ユラリと立ち上がった──。

「……だ。こんなの駄目だ……。ハートを射止めるどころか、このままじゃあの人に嫌われちゃうじゃないか──!」

「ア、アルト様、どこへ行かれるのです!?」

 俺を呼び止める声も聞かず、俺はその場から猛ダッシュした──!

 ダダダダダ……!
 
 あった、ここがノアのクラスだ。

「失礼します!ノアさんはいらっしますか?」

「あの……僕ならここに。一体何の御用でしょう?」

 居た!
 主人公、ノア!

「お願いだ、今は何も言わずにこれを受け取って下さい。俺がちゃんと責任を取るまでは、これを使って欲しいんだ!とりあえず今は、こんな事しか出来ないけど…必ずちゃんとします。本当に、申し訳ありませんでした!」

「あ、あの……!?」

 俺はペコリと頭を下げそれを渡すと、教室を飛び出した。

 今は俺がアルトなんだから、アルトのやった事は俺がどうにかしないと──!

※※※

「ここがその沼か。うぅ……すっごい匂い!何てドロドロした、不気味な沼なんだ……ゲーム画面で見るより、迫力ありすぎ!」

 俺は靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を上げると……勇気を出して沼に足を突っ込んだ。

 ジャブン……!
 グチャ、グチャ…。

 うぇ~、何か色んなものが体に纏わりついて来る……。
 
 いや……今はそんな事より、教科書を見つける事に集中しなきゃ!
 
 昨日の事だから、まだそう深くには──。

 ん……何か、本っぽい物が──!
 
 あっ……袋に入れられて捨ててある。
 これバラバラで捨てられてたら、もっと悲惨だったろうな──。

 俺はそれをすくい上げ、岸に引き返そうとした。

 ズボッ!
 
「わぁッ!な、何これ……足がハマった!?」

 もがけばもがくほど、俺の体は沈んで行った。
 
 も、もしかしてこの沼、底なし沼だったのか!?

 苦しい、息ができない!
 どうしよう……俺、このままじゃ死んじゃう──!

「……ト!アルト──!」

 だ……誰?
 誰かが、俺の名を呼んで──。

 この声、カイル様の声に似てるけど……でも、まさか……な──。
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