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「秀一郎様、今よく眠ってるから、静かに料理しなよ。」
「……うん。玲央は……。」
「僕?僕は、風邪引きたくないし、ちょっと外で電話してくる。お前、作るだけ作ったら、さっさと帰れよ。もし秀一郎様が起きて来ても、余計な事は言うな。そうだな……荷物持ちで付いて来たとでも言って。」
そう言って、玲央は部屋から出て行った。
俺は買って来たパックご飯と材料を鞄から取り出し、手早くおかゆを作り上げた。
レトルトご飯はなるべく使いたくはなかったけど……長居は出来ないし、仕方ないよね。
するとベッドの方から、秀一郎様がゴホゴホと咳き込む音が聞こえて来て……玲央もまだ電話中だし、俺は心配で居ても立っても居られず、彼の様子を見に行った。
秀一郎様、顔が真っ赤だ。
だいぶ熱が高いんだな。
おでこに貼ってあったであろう熱取りシートも取れてるし……こうして、予備を買って来ておいて良かった。
俺はそっと、秀一郎様のおでこに触れた。
熱い……汗もこんなにかかれて……今、拭く物を……でも、勝手にタオルは使えない……。
俺は、自身のポケットからあのハンカチを取り出した。
このハンカチなら、手を拭いてないから綺麗だし……それに、元々は秀一郎様の物だし。
本当なら玲央に渡すか、あなたにお返しすべき物だろうけど……でもこれは、今の俺の唯一の心の支えだ。
両親を失い絶望した時、おじ様に抱かれ辛い時、おば様にこき使われ苦しい時……そして、玲央に虐げられ涙する時、このハンカチは、俺の傍にあって俺を慰めてくれた。
あなたに愛されないなら、せめてこれだけは──。
※※※
その時……秀一郎様が身じろぎ、目を覚ました。
「お、前……どうして、ここに?」
汗を拭きとっていた俺は、慌ててそのハンカチをポケットに戻すと、彼の質問に答えた。
「あ、あの……俺は、玲央の……お見舞いの付き添いで。もう、失礼します──」
「待ってくれ。」
ビクリと身を竦めベッドから、秀一郎様から離れようとした俺を、彼は何故か引き止めた。
「湊……見舞いと言ったが──」
「玲央が、おかゆを作りに……俺は、彼の荷物を持つのを手伝って──」
「でも……お前の手から、微かに梅干しの香りがしたのは、気のせいか?」
「え?」
そっか、実から種をほぐした時に……手を洗ったけど、それでも──。
「……それで、玲央は?」
「で、電話をしに……。」
「湊、いつもの弁当……玲央が作ってくれてるんだよな?一緒に住んでるなら……分かるよな?」
「玲央が、ちゃんと作ってます。」
「お前の、分もか?」
「……え?」
何……どういう事?
秀一郎様は、どうして俺のお弁当の事など気になるの?
「あの家で……お前は、良くして貰ってるか?」
「そ、それは……もう。玲央と同じくらい、ちゃんと──。」
そう答えるも、俺の頭には家事に追われ、おじ様に抱かれる辛い日々が浮かんだ。
「お前……。」
「……あ──。」
俺の目からは、知らず知らずの内にポロポロと涙が零れていた。
「……泣くな。」
秀一郎様はユラリと体を起こすと、俺に手を伸ばし……その頭を、そっと撫でた。
「……その髪?」
俺は身をよじり、慌てて彼から離れた。
カツラだって……本当の髪じゃないって、バレた──?
「何……してるの?秀一郎様が目を覚ましたら、呼んでって言ったよね!秀一郎様、大丈夫ですか……!」
※※※
その時、電話を終え部屋に入って来た玲央が、驚いた声と共に俺と秀一郎様の間に割り込み……キッと俺を睨んだ。
そして……声を荒げ、こう言ったのだ。
「この子は、こうやって男をタラシ込むんです!前の学校でも、先輩を好きになって……その恋人を、人を使って襲わせた!それだけじゃない、彼は僕の父さ……いえ、こんな事辛すぎて言えません。秀一郎様、どうかこの子と二人っきりにならないで!」
「襲わせた……?」
「……ッ!?」
れ、玲央……何で言うの……?
秀一郎様……シュウ君……!
お願い、そんな目で俺を見ないで──!
俺はその場にいる事が耐えられず……すぐに部屋を飛び出した。
だから俺は、俺の一番大事な物を落として行った事に気付けなかった──。
「……うん。玲央は……。」
「僕?僕は、風邪引きたくないし、ちょっと外で電話してくる。お前、作るだけ作ったら、さっさと帰れよ。もし秀一郎様が起きて来ても、余計な事は言うな。そうだな……荷物持ちで付いて来たとでも言って。」
そう言って、玲央は部屋から出て行った。
俺は買って来たパックご飯と材料を鞄から取り出し、手早くおかゆを作り上げた。
レトルトご飯はなるべく使いたくはなかったけど……長居は出来ないし、仕方ないよね。
するとベッドの方から、秀一郎様がゴホゴホと咳き込む音が聞こえて来て……玲央もまだ電話中だし、俺は心配で居ても立っても居られず、彼の様子を見に行った。
秀一郎様、顔が真っ赤だ。
だいぶ熱が高いんだな。
おでこに貼ってあったであろう熱取りシートも取れてるし……こうして、予備を買って来ておいて良かった。
俺はそっと、秀一郎様のおでこに触れた。
熱い……汗もこんなにかかれて……今、拭く物を……でも、勝手にタオルは使えない……。
俺は、自身のポケットからあのハンカチを取り出した。
このハンカチなら、手を拭いてないから綺麗だし……それに、元々は秀一郎様の物だし。
本当なら玲央に渡すか、あなたにお返しすべき物だろうけど……でもこれは、今の俺の唯一の心の支えだ。
両親を失い絶望した時、おじ様に抱かれ辛い時、おば様にこき使われ苦しい時……そして、玲央に虐げられ涙する時、このハンカチは、俺の傍にあって俺を慰めてくれた。
あなたに愛されないなら、せめてこれだけは──。
※※※
その時……秀一郎様が身じろぎ、目を覚ました。
「お、前……どうして、ここに?」
汗を拭きとっていた俺は、慌ててそのハンカチをポケットに戻すと、彼の質問に答えた。
「あ、あの……俺は、玲央の……お見舞いの付き添いで。もう、失礼します──」
「待ってくれ。」
ビクリと身を竦めベッドから、秀一郎様から離れようとした俺を、彼は何故か引き止めた。
「湊……見舞いと言ったが──」
「玲央が、おかゆを作りに……俺は、彼の荷物を持つのを手伝って──」
「でも……お前の手から、微かに梅干しの香りがしたのは、気のせいか?」
「え?」
そっか、実から種をほぐした時に……手を洗ったけど、それでも──。
「……それで、玲央は?」
「で、電話をしに……。」
「湊、いつもの弁当……玲央が作ってくれてるんだよな?一緒に住んでるなら……分かるよな?」
「玲央が、ちゃんと作ってます。」
「お前の、分もか?」
「……え?」
何……どういう事?
秀一郎様は、どうして俺のお弁当の事など気になるの?
「あの家で……お前は、良くして貰ってるか?」
「そ、それは……もう。玲央と同じくらい、ちゃんと──。」
そう答えるも、俺の頭には家事に追われ、おじ様に抱かれる辛い日々が浮かんだ。
「お前……。」
「……あ──。」
俺の目からは、知らず知らずの内にポロポロと涙が零れていた。
「……泣くな。」
秀一郎様はユラリと体を起こすと、俺に手を伸ばし……その頭を、そっと撫でた。
「……その髪?」
俺は身をよじり、慌てて彼から離れた。
カツラだって……本当の髪じゃないって、バレた──?
「何……してるの?秀一郎様が目を覚ましたら、呼んでって言ったよね!秀一郎様、大丈夫ですか……!」
※※※
その時、電話を終え部屋に入って来た玲央が、驚いた声と共に俺と秀一郎様の間に割り込み……キッと俺を睨んだ。
そして……声を荒げ、こう言ったのだ。
「この子は、こうやって男をタラシ込むんです!前の学校でも、先輩を好きになって……その恋人を、人を使って襲わせた!それだけじゃない、彼は僕の父さ……いえ、こんな事辛すぎて言えません。秀一郎様、どうかこの子と二人っきりにならないで!」
「襲わせた……?」
「……ッ!?」
れ、玲央……何で言うの……?
秀一郎様……シュウ君……!
お願い、そんな目で俺を見ないで──!
俺はその場にいる事が耐えられず……すぐに部屋を飛び出した。
だから俺は、俺の一番大事な物を落として行った事に気付けなかった──。
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