第三部署特戦課機捜隊レディＭ――最強戦士、ここに降臨――

第４話 怒りの救出（１）

　　　　　　　　１　死闘

　レディは懸命にバイクを飛ばした！　もう郊外に入り、山間の道を抜けて舗装もされていない荒地をひた走っていた。目にするのは黄色い大地と、耳に聞こえるのはエンジンのビート音だけ――それはまるで彼女を急かすように響いていた。
　仲間は無事なのだろうか、そのことだけが脳裏を駆け巡る。工藤の話では、敵車に阻まれ近寄れないらしく、そのせいで全く状況が掴めていないとのことだ。
　とにかく急ぐしかない。彼女は嫌な予感を振り払い、握るハンドルに力を入れた。ちょうどこの時点まで来れば、周りを小高い丘に取り囲まれた、何の障害物もない開けた平地に到達していた。そのため一層バイクのスピードを上げ、猛烈に舞い散る砂煙の中を流れるように滑走させる。もう研究所は近い、目と鼻の先だ！
　ところが、ここに至って怪しい気配……
　突如、轟音とともに迫り来る物が目に入ってきた？
――げっ！　あれは、ロケット弾――まさに、狙われていたのだー！
　すぐさまレディは、車体を傾ける。
　途端に砲弾は、白煙を吐きつつ真横をすり抜け……後方で爆発音を立て破裂した！
　何とか……逃れられたよう。とはいえ、危なかった。よもやこんな奇襲を仕掛けてくるとは想像だにしない。たぶん、現れた敵は……
　レディはバイクを滑らせ停止させたなら、前方を凝視した。すると、思った通り目の前にいたのは、龍子りゅうこだ！　視角に入るギリギリの所で、奴が行く手を遮っていた。
　ええい、邪魔者め！　貴様の相手などしてられぬ。さっさと退きやがれ。忽ちレディの胸中に怒りが込み上げてきた。そして、こうなったら誰が阻もうと構いはしない、正面突破あるのみと決意を固め、エンジンを吹かせた。ビート音も姦しく、スロットルを全開にして一気に走りだしたのだ！
　対してそれを待ち受ける龍子も、覚悟のうえだろう。通さんとばかりにバズーカで狙いを定めながら立ちはだかる姿があった。
　ここに激戦の火蓋が切って落とされた訳だ。
　ただちに――息つく暇もなく発射音が鳴る！――左右に蛇行して激走するレディに合わせて、龍子が連続砲火を浴びせてきた。
　ただし、そうそう容易く当てられはしない。――凄まじい爆裂音！――彼女の真横すれすれの地面で着弾した。
　龍子がどれほどの狙い撃ちをしようとも、彼女の素早いハンドル操作なら辛うじて避けることができた。奴の砲弾を余すところなくかわす。
　とはいえ、油断大敵か……
――突然、甚大な破裂音が轟いた！――何！　注意したそばから、バイクの直正面で黒煙を噴き上げ炸裂した？
　そんな、まさか……撃たれてしまったというのかー？
　その場は、爆風で舞い上がった土煙で霞み、一時だけ周りが見え辛くなっていた。
　その後、徐々に風が煙を晴らしていったところ……いいや、彼女は健在だ！　片膝を地面に置き、しゃがんだ体勢で奴に対峙する、レディの勇姿があった。ただ、近辺にバイクは見当たらなかったが。

「チッ、しくじったか」片や龍子は、それを見て悔しがった。確実に当てたつもりが、予想外にも少し逸れたようだ。仕方なく、もう一度レディに狙いを済まそうとした。ところが既に弾切れになっていた。
　龍子は急いで別のカートリッジ（五発の砲弾）をバズーカに付け替える。
　ただその間にも、レディの方はゆっくりと立ち上がり龍子に迫ってきていた！　その気迫の前に、奴も少々慌てる。必死の形相でセットを完了させた。
　そして――再度、撃った！
　けたたましい爆発音を伴い、レディの間近、彼女の立ち位置からすぐ右の地面で爆裂した！　煙と砂塵が噴き上がり、石つぶてが彼女の頭上へと降り注ぐ。さらに次の弾も、近々の左側の地表に着弾した！
　ただし、レディには……当たらず。それどころか、狙い定めた砲弾の中を全く動じることなく、左右の爆風を後方に受けながらも堂々と近づいてくる。それはまさしく最強の戦士『ＭＡＸ』に相応しい、Ｍの称号の証であるかのようだ。
　それには龍子も、「クソッ、何故命中しない！」と不思議がった。己の狙撃が下手なのか？　疑ってはみたものの……否、違っていた。そうではなく、全てレディの反射神経が為せる業だと気づく。彼女はバズーカの発射口の方向を見て、左右避けられる位置へ瞬時に移動していたのだ。つまり、それほど彼女の身体能力は凄かった。
　するとその時！　「うおー！」突如龍子が、吹っ飛ばされた。堪らずバズーカを放り投げて転がり倒れる。
　何が、起こった？
　強固な物による衝突、何かが突っ走ってくるのと同時に、ぶつかったようだ！
　それは、もしや……バイク？　確かに、レディの自走車によって強烈なアタックを食らわされたのだ。……とすれば、レディは、自分をオトリにしたうえで腕時計のコントローラーを操作していたということになる。
　まさしく命知らずの強者だ！
「うくぅ、つつつ……」龍子は大の字に倒れ込み痛みに耐えた。相当な衝撃を受けたからには、もう反撃は無理だと悟る。しかも気づけば、己の側にレディの姿を認めた。
「お、お前は何者だ！」と声を震わせ龍子は叫んだ。これほどの荒業を信じられないと感じつつ、奴は彼女をまじまじと仰ぎ見た。
　然らば、太陽の光を背に浴び煌々と輝くレディが、静かに名乗った。
「俺は、特戦課機捜隊、レディＭ」
「何、お前があの……Ｍ！」
　そこには、龍子の驚いた顔があった。