第三部署特戦課機捜隊レディＭ――最強戦士、ここに降臨――

第４話 怒りの救出（３）

　　　　　　　　２　救出

　レディは、素早くその場を見回した。
　すると、皇虎おおこの側で無残にも横たわる、一人の男に気がつく。そしてその顔を見た途端、彼女は落胆する。
「……雅！」
　多少の予感があったにせよ、それが現実になって目の前に映し出されていた。倒れていたのは、あの雅だった！　心痛な想いが駆け巡る。加えて言い知れぬ怒りが込み上げてきた。彼女の握る拳に力が漲る音がした！

　その様子を、皇虎は慌てもせずニヤリと笑って見ていた。
「また、現れたか。うるさい蝿が」と悪態をついて彼女を迎えた。
　その後、龍子りゅうこが息も絶え絶えに走ってきた。
「はあはあ、すまない、アネキ。阻止できなかった」との弁明を受ける。
　それを聞くも、「くく、まあ良いわ。全員まとめて消えて貰うさ」奴は気にもしないで、ただその目をレディたちの方へ向けた。まるで獲物を見るように。
　なおも龍子が、「アネキ、あいつがＭだ」とレディの素性をばらしていた。
「ほほう、あれが……道理で多少は骨がある訳か。しかし、思ったより小粒だねえ。もう少し大柄でないと私の相手は務まらないよ。さて、お手並み拝見するか」と肩を激しく回し始めた。
　遂に本気の闘争が始まろうとしている。奴は戦闘モードへと気持ちを切り替え、誰であろうと恐るるに足らず、敵を完膚なきまでに叩きのめすため自ずと気合を入れ直した。それが奴にとって至上の喜びでもあるのだから。
　一方、レディはと見れば、殊更冷静な風姿で相対していた。それでもこちらの方に焦点を合わせ、全身全霊で戦おうとする気迫と凄まじいほどの殺気が窺えた。これこそ死闘になるのは、間違いない。
「セブン、いくぞ！」――そしてレディが、先に仕掛けたか？――彼女はそう言い放ちエンジンをけたたましく吹かせる。
　するとその声に素早く反応して、セブンは後部席に乗り込み、バイクに跨る二人の姿が見えた。
　次いで忽ちバイクの前輪を上げ、片輪で走行を始めたかと思ったら、皇虎に向かって一気に走ってきた！　それも途轍もない速度で、砂煙を舞い上げ真直ぐ突っ込んでくる！　体当たりで、撃摧するつもりか？――
　だが、それを奴は、怯まず真正面から正視し、その迫り来る鉄の荒馬へ、まるで鋼はがねのごとき両腕を翳したなら――強烈な衝突音が鳴った！――受け止めた！　皇虎の異常に盛り上がった上腕二頭筋に力が入る。さらにずるずるとうしろに押しやられようとも、最大級の大腿筋が猛烈に拒み、全筋肉を震わせながら完全にバイクを押さえ込んだ。まだまだこれぐらいでは、何ともないぞと余裕の表情で。そうして、
「こんな攻撃で私が降参するとでも？」と平然と語り、奴は不敵な笑みを湛えて運転席を覗き見る……
　が、その瞬間、己の愚かさを知ることになった。何故なら、「ぐっ？……」その場には、誰の姿もない！　レディもセブンも、いなかったのだ。
　そのため、奴は焦りつつも即座に前方を見渡したところ、雅を担ぎ上げおクウの側へ走り寄る、彼女たちの姿が確認できた。つまりバイクは無人、彼女たちは乗る振りをしてだけで、誰も搭乗しない自走車をぶつけてきたという訳だ。
　それを迂闊にも今知り得た皇虎は、怒気にかられ、
「うぐぐぐっ、お前ら！」掴んだバイクを軽々と持ち上げ、言わば樽投げのように、空高くうしろへ放り投げた。
　バイクは破壊音とともに脇の車両の上に落ちる！　これでバイクは無残な姿、潰された車と一体化して、言わば大きな鉄屑になっていた。
　続いて奴は、怒りで顔を歪ませ、こうなったら容赦はしないと勇んでレディたちのいる所へ走り出した……のだが、むぅ？　ここでも何か異変を感じたため、思わず途中で立ち止まる。
　と言うのも、奴の目に、レディの奇妙な――おクウたちを庇うかのように覆い被さる――動作が映ったからだ。……明らかに危険から仲間を護っている？
　皇虎は嫌な予感が走った。咄嗟に辺りを見回す。
　直後、「うっ？」奴は気づいてしまった！……十数メートル後方で鉄塊となったバイク、そのエンジン部で点滅する豆粒大の小さなシグナルを！
「まずい！　全員伏せろ」と唐突に叫んだ。されど、既に遅く……
　次の一瞬！
――壮絶な爆発音が響き渡った！――轟音を立ててバイクが噴き飛んだのだ。周りの車を巻き込み激烈な炎となって一挙に炸裂した。それも、忽然と巨大な火の玉を出現させ、四方をことごとく焼き尽くすほどのパワーで爆発していた。
　流石にこうなると、奴らも打つ手がない。その飛び散る残骸と爆風を浴びたからには、数名の者は吹き飛ばされ地表に叩きつけられた。同じく強風圧を受けた皇虎も、仰け反った途端、大の字に倒れ込んだ。超人であろうとも、強力なエネルギーの前では跪ひざまずかされる羽目になったのだ。