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第5話 まさかの爆撃(1)
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1 友の死
警察病院の安置場に一人の男が立っていた。白い面布を被せられた遺体の側で、悲しそうな表情をしている。
「ねえさん。こいつはどこに、いたんだい?」ぽつりと男は口を開いた。
「郊外の山間を抜けた荒地らしい……」その問いに、彼女も神妙な面持ちで答える。
その部屋には、康夫とレディの二人だけだった。雅の亡骸を前にして惜しんでいたのだ。
「山の、奥か……」それを聞いて、康夫の方は一旦納得したかのように呟く。ところが次に、「けど、どうしてこいつが、普段行きもしない山奥で殺されなきゃあいけないんだよ!」と突然、康夫の嘆く声が部屋に木霊した。しかもそれは、誰が見ても尋常でないと思えるほどの権幕だった。彼の怒りを含んだ悲しみが一気に吹き出したのだろう。
レディはそんな康夫を落ち着かせようと、すぐに言葉をかける。
「……まだ、分からないそうだが、心配するな。引き続き警察は捜査をしてくれている。彼らに任せておけば大丈夫だ」と。
けれど康夫にしてみれば、それで気持ちが治まらないのか、
「ちくしょうー、誰が雅をやった。俺は許さねえ、絶対に絶対に許さねえ!」と両手を握り締め、腕を振りながら叫んでいた。
彼の悲嘆は底知れず大きかったのだ。
「…………」レディは、何て声をかければいいのか言葉に迷う。ドアの外には工藤たちの姿が、扉の硝子窓を通して見えていた。
その後、唐突に、康夫は思い詰めた様子で出て行こうとした。
「待て、どこへ行く?」危惧したレディは、すぐさま訊いた。
すると、彼はその声に一時立ち止まったものの、
「ねえさん。こいつは俺の大事なダチだ。仇は俺が必ず討つ!」と予想もしない答えを返してきた。……全く、無茶な話だ。
そのため、レディは「康夫、関わるな。お前では……」とうっかり真実を言いかけたが、ちょうど窓越しに工藤と目が合った。しきりに首を横に振っている。何も言うなという表情だ。
仕方ない。彼女は口を閉ざす。
片や康夫は、その言葉を耳にしたことで少し間を取り彼女を気にかける。だが続きがないと知ると、その後は黙って出て行った。
彼のうしろ姿を見送るレディ。虚しさが心を満たす。彼女は呆然とその場に佇むしかなかった。
そんな中、入れ違いに工藤がドアを開けて近づいてきた。彼はさりげなく言った。
「しょうがねえだろ。あのボーヤに話してどうする。余計、危険に晒すだけだろ」と。
確かに、並の人間では太刀打ちできるはずもない。ただ、彼女にとって真実を言えないことがまどろっこしくもあり、心の底では多少なりとも罪悪感を抱いていたため、
「わ、分かってるさあッ、それぐらい!」と強く返す羽目になった。
工藤は、その口調に両掌を上に向けて肩を道化みたいに上げた。所謂〝呆れる仕草〟で答えた訳だ。
続いておクウとセブンも、部屋に入ってきた。
「ところで、皇虎はどうするんのですか?」と来るなりおクウは工藤に訊いた。
「ああ、もちろん、奴は殺人罪で指名手配してある。だけどな、行方をくらましたままだ。学園にもいねえんだよ。たぶん、北条が裏で手を回したのは確実だな」と彼は答える。
「圧力もかけている訳ですか」
「そう、そうなんだ」
「では、これからの計画はお決まりですか?」
その質問に関しては、工藤もそれなりの答えを用意していたようだ。すぐに話し始めた。
「まずは……M、お前はもう学園に通う必要はないぞ。皇虎に顔を見られたんだから、他の奴らに面が割れた可能性もあるからな。まあそれに、奴らが学園でやってることもだいたい分かった。つまりは、身寄りのない生徒や親族が疎遠の学生を拉致して、薬の効果が出る人間を探すために人体実験をしてたってことだ。ほんと、とんでもねえ奴らだ。偶然、最初に逃げ出した立石がいたから発覚したが、これまでに何人の犠牲者がいるのやら、全く実態がつかめてねえ。そうそう、この前の保護した四人の生徒だがな、三人は拒否反応で死んだよ。また犠牲者が出たという話だ。後の一人は適合者らしく、今のところ元気なんだけどな……あの『HY9』てのは、肉体だけでなく精神も凶暴にするから、そいつは社会生活を送るうえで不適合者になっちまった。だからまともな生活するためにも、抗ウイルス剤が必要だってことになる。なあに心配するな。それを医療技課で作っている最中だ。もうすぐできる見込みさ。研究員の話では感染が最近なら、ほぼ百パーセント効くらしい。しかし皇虎のような数ヶ月もの長い感染者には、効くかどうか分からんと言うことだ」
次にレディも訊いた。
「あの後、研究所は調べたのか?」
「当たり前だ。見逃しはしないさ。でもな、奴らだって抜かりがないようだ。データは全て持ち出されていたよ。ウイルス適合者のサンプルを集めていたという兆候だけは残されていたがな。それ以上は謎だ。何を企んでいるのか? それにあの研究所も、北条とはまるっきり関係ない会社名義の所有物だった。北条を捕まえるには、まだ証拠不十分てことだ。まあしょうがねえ……当面の間は北条の動きをマークするしかねえな。奴は必ず動き出すさ」と工藤は話を終えた。
取りあえず、ある程度の成果は得たようだ。
とはいえ、北条の研究の目的や他にも超人になった者の有無、もしいるならどういう末路が待っているのか、などの分からないことが多過ぎた。それを知るには、明らかに時間が必要だ。
何にせよ、次の戦いまでじっくりと準備を進める彼女たちだった。
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警察病院の安置場に一人の男が立っていた。白い面布を被せられた遺体の側で、悲しそうな表情をしている。
「ねえさん。こいつはどこに、いたんだい?」ぽつりと男は口を開いた。
「郊外の山間を抜けた荒地らしい……」その問いに、彼女も神妙な面持ちで答える。
その部屋には、康夫とレディの二人だけだった。雅の亡骸を前にして惜しんでいたのだ。
「山の、奥か……」それを聞いて、康夫の方は一旦納得したかのように呟く。ところが次に、「けど、どうしてこいつが、普段行きもしない山奥で殺されなきゃあいけないんだよ!」と突然、康夫の嘆く声が部屋に木霊した。しかもそれは、誰が見ても尋常でないと思えるほどの権幕だった。彼の怒りを含んだ悲しみが一気に吹き出したのだろう。
レディはそんな康夫を落ち着かせようと、すぐに言葉をかける。
「……まだ、分からないそうだが、心配するな。引き続き警察は捜査をしてくれている。彼らに任せておけば大丈夫だ」と。
けれど康夫にしてみれば、それで気持ちが治まらないのか、
「ちくしょうー、誰が雅をやった。俺は許さねえ、絶対に絶対に許さねえ!」と両手を握り締め、腕を振りながら叫んでいた。
彼の悲嘆は底知れず大きかったのだ。
「…………」レディは、何て声をかければいいのか言葉に迷う。ドアの外には工藤たちの姿が、扉の硝子窓を通して見えていた。
その後、唐突に、康夫は思い詰めた様子で出て行こうとした。
「待て、どこへ行く?」危惧したレディは、すぐさま訊いた。
すると、彼はその声に一時立ち止まったものの、
「ねえさん。こいつは俺の大事なダチだ。仇は俺が必ず討つ!」と予想もしない答えを返してきた。……全く、無茶な話だ。
そのため、レディは「康夫、関わるな。お前では……」とうっかり真実を言いかけたが、ちょうど窓越しに工藤と目が合った。しきりに首を横に振っている。何も言うなという表情だ。
仕方ない。彼女は口を閉ざす。
片や康夫は、その言葉を耳にしたことで少し間を取り彼女を気にかける。だが続きがないと知ると、その後は黙って出て行った。
彼のうしろ姿を見送るレディ。虚しさが心を満たす。彼女は呆然とその場に佇むしかなかった。
そんな中、入れ違いに工藤がドアを開けて近づいてきた。彼はさりげなく言った。
「しょうがねえだろ。あのボーヤに話してどうする。余計、危険に晒すだけだろ」と。
確かに、並の人間では太刀打ちできるはずもない。ただ、彼女にとって真実を言えないことがまどろっこしくもあり、心の底では多少なりとも罪悪感を抱いていたため、
「わ、分かってるさあッ、それぐらい!」と強く返す羽目になった。
工藤は、その口調に両掌を上に向けて肩を道化みたいに上げた。所謂〝呆れる仕草〟で答えた訳だ。
続いておクウとセブンも、部屋に入ってきた。
「ところで、皇虎はどうするんのですか?」と来るなりおクウは工藤に訊いた。
「ああ、もちろん、奴は殺人罪で指名手配してある。だけどな、行方をくらましたままだ。学園にもいねえんだよ。たぶん、北条が裏で手を回したのは確実だな」と彼は答える。
「圧力もかけている訳ですか」
「そう、そうなんだ」
「では、これからの計画はお決まりですか?」
その質問に関しては、工藤もそれなりの答えを用意していたようだ。すぐに話し始めた。
「まずは……M、お前はもう学園に通う必要はないぞ。皇虎に顔を見られたんだから、他の奴らに面が割れた可能性もあるからな。まあそれに、奴らが学園でやってることもだいたい分かった。つまりは、身寄りのない生徒や親族が疎遠の学生を拉致して、薬の効果が出る人間を探すために人体実験をしてたってことだ。ほんと、とんでもねえ奴らだ。偶然、最初に逃げ出した立石がいたから発覚したが、これまでに何人の犠牲者がいるのやら、全く実態がつかめてねえ。そうそう、この前の保護した四人の生徒だがな、三人は拒否反応で死んだよ。また犠牲者が出たという話だ。後の一人は適合者らしく、今のところ元気なんだけどな……あの『HY9』てのは、肉体だけでなく精神も凶暴にするから、そいつは社会生活を送るうえで不適合者になっちまった。だからまともな生活するためにも、抗ウイルス剤が必要だってことになる。なあに心配するな。それを医療技課で作っている最中だ。もうすぐできる見込みさ。研究員の話では感染が最近なら、ほぼ百パーセント効くらしい。しかし皇虎のような数ヶ月もの長い感染者には、効くかどうか分からんと言うことだ」
次にレディも訊いた。
「あの後、研究所は調べたのか?」
「当たり前だ。見逃しはしないさ。でもな、奴らだって抜かりがないようだ。データは全て持ち出されていたよ。ウイルス適合者のサンプルを集めていたという兆候だけは残されていたがな。それ以上は謎だ。何を企んでいるのか? それにあの研究所も、北条とはまるっきり関係ない会社名義の所有物だった。北条を捕まえるには、まだ証拠不十分てことだ。まあしょうがねえ……当面の間は北条の動きをマークするしかねえな。奴は必ず動き出すさ」と工藤は話を終えた。
取りあえず、ある程度の成果は得たようだ。
とはいえ、北条の研究の目的や他にも超人になった者の有無、もしいるならどういう末路が待っているのか、などの分からないことが多過ぎた。それを知るには、明らかに時間が必要だ。
何にせよ、次の戦いまでじっくりと準備を進める彼女たちだった。
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