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第1話 恐れられた頭文字、再び(2)
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第一話 西暦199X年、全てが始まった
1 登場
けたたましい警告音が響いた! 続いて長いシェルター通路を駆け抜けるおびただしい軍靴の足音がした。何十人もの兵士が、入り組んだ迷路のような地下道を右往左往する姿を見せている。
一方、シェルター内に設置された幹部室では一人の兵士が忙しなく上官に報告していた。
「サー、ビル一等兵が基地外に逃走しました」
「何だと? 警備の者たちはどうしたんだ?」
「はい、全員呆気なく倒され、阻止する間もありませんでした」
「予想以上のパワーか。だが外は荒野だ。さほど遠くには行けまい……。すぐに追いかけて探し出せ」
「ハッ」
即座に兵士たちは、地下通路に待機させているジープに乗りこみ一等兵を追跡した。
――ここは米国のエリア五十八と呼ばれる、地下に設けられた秘密基地――その軍事施設内にはバイオテクノロジーに関する実験室があり、そこから一人の被験者が逃げ出した模様。そのため、軍人たちは慌てて逃亡者を追う羽目となったのだ。
そして、流石に早い捜索でヨロヨロと歩く男を見つけ出した。……が、ジープが近づいた途端、一等兵が倒れ込んだ。それも異様な卒倒で!
「ビル、大丈夫か? 確りしろ」急いで駆け寄る兵士。しかし彼が見たのは、この世の物とは思えない一等兵の姿。肌の色が青白く染まり、裸同然の上半身が常人とは思えないほどの筋肉で盛り上がっている。しかも、その面相さえまるで鬼のごとく、頬骨は膨らみ口は耳まで裂けたうえに瞳の色まで赤く染まっていた……
それでも、仲間のビルに変わりはない。彼は近づき声をかける。
「おい、返事しろ!」
だが、ビルは全く微動だにもせず、それどころか、その目を大きく見開き、明らかに遺恨の念を込めて空を睨んでいた!
……よもや、一等兵の壮絶な末路? 既に息絶えている?
「うわー!……な、何てことだ」彼は慄き、唯々肝をつぶした。
まさしくその場は、現世では到底あり得ない、死の恐怖で覆い尽くされていたのだ!
……………………
――それから数ヶ月後のこと。
突如、高速道路の高架下でパトカーのサイレン音が渦巻き、警官が続々と集まりだした! それは高さ二十メートルの高架橋が聳える、商店街やビル群が並ぶ町中の一角で起こった。
警官たちは人気も多い通り沿いにも拘らず、一点だけを囲むように道を塞いだなら、人々に危険が及ばないと判断できる距離まで警戒態勢を敷いた。
街の人々も、その思いも寄らぬ臨戦態勢を目にしたことで緊迫感に包まれているみたいだ。そのうえただごとではない様相だと知ることにもなる。何故なら警官たちが早くも銃を構え、ある店の内部にいる、何か蠢く〝もの〟に向かって照準を合わせていたからだ。
それは、八百屋の陳列棚に顔を埋め、やたらと食べ物に喰らいついていた人間のようなもの?……否、これは到底、人とは思えない。ビリビリに引き裂かれたワイシャツと思えし布を纏い、青白い肌に鬼の顔、赤い瞳が光る。見たこともない怪奇な化け物が、仁王立ちして獣のごとく喰らっていたのだ。そして隅では、店主と女房が腰を抜かし震えている。
「グワーー!」突然、化け物が吠えるとともに強烈な破壊音を立て両腕を棚に叩きつけた! 瞬時に棚は粉砕され、一部が二メートル長の板切れになった。続いて何を思ったのか、それを掴んで外へ放り投げたため、忽ち道路を越えて前のビルの壁面まで吹っ飛び、大きな衝突音を鳴らし突き刺さった!
とてつもない怪力だ。そのパワーに、街の人々も驚異のあまり騒めき始める。
そうして今度は、その力を店主に向けるつもりなのか、化け物はゆっくりと奥の方へ進みだした。
「ひやっー」それには、当然ながら店主も慄いた顔を見せ、必死に後退りしようと慌てていたが……恐怖で足が竦んでいるのだろう、一向に動けていない。
その間に化け物の方は、店主を目の前にして、そのまま拳を振り下ろす?……
1 登場
けたたましい警告音が響いた! 続いて長いシェルター通路を駆け抜けるおびただしい軍靴の足音がした。何十人もの兵士が、入り組んだ迷路のような地下道を右往左往する姿を見せている。
一方、シェルター内に設置された幹部室では一人の兵士が忙しなく上官に報告していた。
「サー、ビル一等兵が基地外に逃走しました」
「何だと? 警備の者たちはどうしたんだ?」
「はい、全員呆気なく倒され、阻止する間もありませんでした」
「予想以上のパワーか。だが外は荒野だ。さほど遠くには行けまい……。すぐに追いかけて探し出せ」
「ハッ」
即座に兵士たちは、地下通路に待機させているジープに乗りこみ一等兵を追跡した。
――ここは米国のエリア五十八と呼ばれる、地下に設けられた秘密基地――その軍事施設内にはバイオテクノロジーに関する実験室があり、そこから一人の被験者が逃げ出した模様。そのため、軍人たちは慌てて逃亡者を追う羽目となったのだ。
そして、流石に早い捜索でヨロヨロと歩く男を見つけ出した。……が、ジープが近づいた途端、一等兵が倒れ込んだ。それも異様な卒倒で!
「ビル、大丈夫か? 確りしろ」急いで駆け寄る兵士。しかし彼が見たのは、この世の物とは思えない一等兵の姿。肌の色が青白く染まり、裸同然の上半身が常人とは思えないほどの筋肉で盛り上がっている。しかも、その面相さえまるで鬼のごとく、頬骨は膨らみ口は耳まで裂けたうえに瞳の色まで赤く染まっていた……
それでも、仲間のビルに変わりはない。彼は近づき声をかける。
「おい、返事しろ!」
だが、ビルは全く微動だにもせず、それどころか、その目を大きく見開き、明らかに遺恨の念を込めて空を睨んでいた!
……よもや、一等兵の壮絶な末路? 既に息絶えている?
「うわー!……な、何てことだ」彼は慄き、唯々肝をつぶした。
まさしくその場は、現世では到底あり得ない、死の恐怖で覆い尽くされていたのだ!
……………………
――それから数ヶ月後のこと。
突如、高速道路の高架下でパトカーのサイレン音が渦巻き、警官が続々と集まりだした! それは高さ二十メートルの高架橋が聳える、商店街やビル群が並ぶ町中の一角で起こった。
警官たちは人気も多い通り沿いにも拘らず、一点だけを囲むように道を塞いだなら、人々に危険が及ばないと判断できる距離まで警戒態勢を敷いた。
街の人々も、その思いも寄らぬ臨戦態勢を目にしたことで緊迫感に包まれているみたいだ。そのうえただごとではない様相だと知ることにもなる。何故なら警官たちが早くも銃を構え、ある店の内部にいる、何か蠢く〝もの〟に向かって照準を合わせていたからだ。
それは、八百屋の陳列棚に顔を埋め、やたらと食べ物に喰らいついていた人間のようなもの?……否、これは到底、人とは思えない。ビリビリに引き裂かれたワイシャツと思えし布を纏い、青白い肌に鬼の顔、赤い瞳が光る。見たこともない怪奇な化け物が、仁王立ちして獣のごとく喰らっていたのだ。そして隅では、店主と女房が腰を抜かし震えている。
「グワーー!」突然、化け物が吠えるとともに強烈な破壊音を立て両腕を棚に叩きつけた! 瞬時に棚は粉砕され、一部が二メートル長の板切れになった。続いて何を思ったのか、それを掴んで外へ放り投げたため、忽ち道路を越えて前のビルの壁面まで吹っ飛び、大きな衝突音を鳴らし突き刺さった!
とてつもない怪力だ。そのパワーに、街の人々も驚異のあまり騒めき始める。
そうして今度は、その力を店主に向けるつもりなのか、化け物はゆっくりと奥の方へ進みだした。
「ひやっー」それには、当然ながら店主も慄いた顔を見せ、必死に後退りしようと慌てていたが……恐怖で足が竦んでいるのだろう、一向に動けていない。
その間に化け物の方は、店主を目の前にして、そのまま拳を振り下ろす?……
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