元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第二部:勇者と呼ばれて

国王と謁見の間

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「勇者様、ご足労をおかけして申し訳ございませんが、謁見の間まで、よろしくお願いいたします」
 午前一〇時を回ったところ。俺とエミリアが滞在する迎賓館に宮内省の役人が迎えにきた。俺は謁見用の服に着替えている。キラッキラのステージ衣装みたいなスーツで、ミラーボールと相性が良さそうだ。カラオケの人気者だな。
「分かった」
「エミリア殿も一緒にお願いします」
「分かりました」
 さて、これまで迎賓館にずっといたから、他の場所は知らない。日本人なら王宮という建物にはほとんど縁がないだろう。少しワクワクするな。
 中庭にある通路を通ってしばらく歩くと、「ああ王宮だ」というような建物が見えた。迎賓館から見えなかったのは、背の高い木で視界を遮っていたからだろう。しかし案内の役人は手と足が同時に出ていた。エミリアは違うから、多分緊張してるんだろう。
 俺たちが王宮の建物に入ると、廊下を待機していた人たちが壁際に下がって頭を下げた。時代劇で殿様が通ると庶民が道を空けるのに似ている。もしくは超VIPが来た時の店内だ。ザザッと道ができた。自分がやられると気分が良いのか悪いのか分からないな。かしこまられすぎるのも考えものだ。
 そのまま廊下を通ってしばらく歩くと、ゴージャスな扉が目の前に現れた。役人が止まってこっちを見た。顔は緊張気味だ。
「簡単に説明いたします」
「頼む」
「謁見の間には赤いカーペットが敷かれています。扉が開いた後、勇者様は二本ある白線のうち、奥の線のところまでお進みください。そこで立ったままお待ちください」
「了解した」
「エミリア殿は手前の線で止まってください。同じく立ったままで結構です」
「はい」
 これは立場の違いか。そして国王から声がかかるんだろう。
「しばらくそのままでお待ちください。国王陛下がきざはしを降りて勇者様にひざまづきます」
 ……。
 …………。
 俺への謁見だった。
 謁見は目上の者に対して行うものだ。勇者は国王よりもさらに上らしい。つまり俺が一番この場所で地位が高いことになる。そう言われりゃその通りだよな。
 たしかに勇者は国王よりも上だと聞いたけど、この後に爵位を貰うんじゃないのか? 正直やりづらいわ。貴族が国王に頭を下げさせてもいいのか?
「勇者シュウジ様と召喚の聖女エミリア殿のご入場です」
 役人に質問しようかと思ったら、扉の向こうからそんな声が聞こえて扉が開いた。中の様子がよく見える。今さら振り向いて質問はできないな。
 謁見の間の入り口から赤いカーペットが続いていた。奥の少し高い場所にあるのが玉座だろう。遠すぎてよく見えないけど、人が座っているのが見える。
 両側にいるのは貴族だろうか。頭の中にあるヨーロッパの貴族じゃないな。男は俺と同じように、スーツをベースにしてゴテゴテと飾りを付けた派手なステージ衣装に近い。女はパーティードレスに近いのか、そこまでスカートは膨らんでないな。
 合図に従って荘厳な音楽の演奏が始まると、俺とエミリアは赤いカーペットの上を進む。途中でエミリアは止まり、俺だけさらに五歩ほど前に進む。
 王冠と王笏おうしゃくとマントという、おそらく最高の正装をしている国王が玉座から立ち上がってきざはしを降りた。国王は三〇くらいか?
 国王は俺の数歩前で王冠と王笏おうしゃくを床に置くと、両膝を床について手を膝に置いた。尻を上げた正座か、正座とお辞儀の中間みたいな姿勢だ。その瞬間に演奏が止まった。
「勇者様、お初にお目にかかります。フレージュ王国国王、アドニスと申します。この名を持つ三代目の国王となります。この度は我々の召喚にお応えいただき、誠に感謝申し上げます。突然のことでさぞご不快に感じられたかと存じますが、何卒ご容赦を」
 国王は役者のようによく通る声でそう言うと、俺に向かって深々と頭を下げた。そしてこの段階になって気づいた。俺にどう答えろと?
 俺は頭が悪いとは思わない。そうでなければ夜の仕事は無理だ。目の前の女性を喜ばせるためには、とにかく話を合わせる必要があるからだ。
 男でも夜の店に飲みに行くことがあるだろう。高級クラブなら女性たちも頭の回転が速く知識も豊富だ。国際関係、政治、経済、歴史、文学、アイドルグループ、どんな話題に対してでもパッと話を合わせることが求められる。
 でも今の状況は俺の限度を超えているぞ。何を言えとも教えられてないからな。さっきの係が俺に伝え忘れたんじゃないのか? あいつ緊張してたからな。
 とりあえずヘルプ!
(ミレーヌ、こういう時はどれくらいの感じで話せばいい?)
(ええと、腰を落として目線を同じくらいの高さにして手を取ってください。芝居っぽい言い方で「気にしなくても大丈夫だから立つように」って少しだけ上から目線で言えば大丈夫です)
(助かったよ)
 よし、片膝をついて目線を合わせるのは以前もやっていた。タバコに火をつけたりおしぼりを渡したりする時にな。たまにホスト座りとか呼ばれることもあったけど、これは立て膝であって座ってるんじゃない。
 正直なところ男の手を握りたいとは思わないけど仕方ない。芝居は必要だ。片膝をつき、王の方をじっと見てその手を取る。少し偉そうに芝居がかった感じで周りにも聞こえるようにはっきりと、頭の中で考えた言葉を口にする。
「アドニス王、俺はある女神より話を聞きこちらにやって来た。今回の召喚、驚きはしたが単にそれだけだ。『神は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず』、俺はそう教えられている。勇者と国王、立場的に違いはあるだろうが、神々に生かされているという意味では我々に上下はないはずだ。頭を上げ、立ってもらいたい」
 手を取ったままアドニス王を立ち上がらせる。周りから拍手が起きた。これで正解だったようだ。これはこれで懐かしい雰囲気だな。俺は盛り上げる側だったけど。
「勇者様、誠に感謝いたしますぞ。今宵は貴方様を歓迎するパーティーを行います。ぜひ参加していただければと」
「俺のために用意してくれるのなら喜んで参加しよう」
 アドニス王は王冠を被って王笏おうしゃくを手に持つと、次はエミリアが召喚を成功させたことを褒めた。エミリアもアドニス王の前で同じようなポーズをした。やっぱりあれが敬意の表し方か。
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