元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第六部:公爵邸披露パーティー

着物という文化

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「シュウジ様、着物文化を広げるということはできないでしょうか?」
「着物か……。パーティーで着てみるか?」
「よろしいのですか?」
「ああ。貴族向け商品の候補に入れてもいい」
 ここのところリュシエンヌは着物を着るようになった。俺が勧めたからだ。今は【ストレージ】に入ってたものを着てるけど、前世では和裁ができたそうで、先日から思い出しながら自分で仕立て始めた。
 着物はヨーロッパでも人気があったそうだからこの国でも流行るかもしれない。流行るとすれば貴族の間だけかもしれないけど、逆に着物が流行っても今の仕立て屋に迷惑はかからないだろう。分野が違うからだ。
 リュシエンヌは日本人時代の記憶が残っている。私的なことは覚えてないそうだけど、知識は抜けてないそうだ。だから一人で着ることができるし着付けもできるし仕立てることもできる。着物を作る反物とこの国で織られる布はサイズが違うそうだけど、リュシエンヌはそのあたりを調節して教えることもできるだろう。
 着物を着るなら帯、帯締め、草履なども必要だ。そして帯留、かんざし、巾着などもあった方がいいだろう。アクセサリーも一緒に人気が出ればそれが一番だ。
 俺が何か仕事をするのについてはダヴィドはいい顔をしないけど、妻たちがすることに関してはわりと寛容だ。それは内助の功だからだそうだ。だからリュシエンヌが商会で扱いそうな商品を提案するのはダヴィドにとっては全然問題がない。むしろ俺のためにもっとアイデアを出すべしと言っていた。ただミレーヌに色々と言うことだけは難しいらしい。

 さて、着物があるなら是非やりたいことがある。いや、リュシエンヌにさせたいことだ。むしろリュシエンヌなら喜んでやりそうなことだ。
「たしかに日常的に着ておりましたが、このような用途で使った経験はございません」
「リュシエンヌと俺の間に生まれたネタっぽいからなあ。しかもほぼ絶滅したネタだ」
 何をやらせようとしているのかというと、アレだ。いつ誰が作ったのか分からない、時代劇に登場する、誰もが一度は憧れたあのワンシーン。それを帯回しと呼ぶ。

 ◆◆◆

 座敷を再現し、着物姿のリュシエンヌにすぐ側でお酌をさせる。
「ほれ、もっと近う寄れ」
 俺がリュシエンヌを手元に引き寄せようとするとシュシエンヌは身をよじって躱す。
「お、お戯れはおやめください……」
 さらに俺が手を伸ばすとリュシエンヌは胸元に手をやり、スッと立ち上がって逃げようとする。もちろん俺は逃がすはずがない。壁際に追い詰める。
「お、お代官様っ⁉」
「はっはっは~、逃げなくてもよいではないか、よいではないか~」
 リュシエンヌが俺の手をすり抜け、部屋の端まで逃げる。
「お、お許しくださいぃぃ」
 指を広げた右手をこちらに伸ばし、イヤイヤと首を振る。俺はノッシノッシと近寄き、左手でリュシエンヌの手右首を掴んで体を引き寄せる。小柄な身体を右腕で抱きすくめる。
「儂を手こずらせおって」
 そのまま右手を腰に回し、帯を掴んでゆっくりと引く。
「あ~~れ~~~~~~~」
 リュシエンヌの体ゆっくりと回転する。俺は右手左手右手左手と順に帯を引っ張る。帯が完全に解けるとリュシエンヌは着物を乱しつつ畳に倒れ込む。
「ああっ、ご無体なぁ……」
「ど~れ~、じっくりたっぷり楽しませてもらおうか」
「ああっ……」

 ◆◆◆

「シュウジ様、ものすごく恥ずかしゅうございました♪」
「そのわりにはノリノリじゃなかったか?」
 何度かリハーサルを行って、最後に撮影を行った。最後はノリノリで演技をしていたのは役に入り込んでいたんだろう。
「途中から楽しくなってまいりました」
「そうだろうなあ。あれだけができていたらな。ほら、このシーンだ」
 わざわざそのシーンをリュシエンヌにアップにして見せる。
「もうっ。シュウジ様はいつも意地悪でございます♪」
 リュシエンヌが頬を膨らませて顔を赤らめながら俺に抱きつく。この表情をすると急に子供っぽくなるんだよな。
「ですが着物にあのような使い方があるとは思いもしませんでした。目から鱗でございます」
「あれは単なるネタらしいけどな」
 このネタが生まれたのは俺が生まれるずっと前らしい。テレビの中の話だから実際にやるものじゃない。今なら確実にセクハラだろう。
 でも飲み屋で隣になったオッサンから、セクハラ・パワハラという言葉がメジャーじゃなかったバブル時期には社員旅行の宴会でやったことがあるという話を聞いたことがある。もちろんそれを女性社員にさせるために上司がご祝儀を渡したそうだけど、いい時代だったんだろうな。
 ちなみに帯回しをするには普通の帯は使えない。長さが全然足りなくて回らないからだ。脱がすのが目的じゃなくて回すのが目的だからな。
 そして回す際に注意するのは、全力で引かないことだ。無理に引っ張るとこっちに向かって倒れる。あくまで向こうが回る補助をするだけだ。さらに勢いが付きすぎると目が回る。全てを回される方に合わせるのがポイントだ。
 どうして知ってるかって? 頼まれてやったことがあるからだよ。俺から言い出したんじゃないとは言っておく。
「ところで、悪代官というのは本当にいたのでしょうか?」
「いたことはいたらしいけど、あそこまで分かりやすいのはいなかっただろうな。もしくは徹底的に悪かったのどちらかだろう」
 リュシエンヌはテレビやドラマは当然知らなかった。でも俺が【カメラ】で色々撮影して見せたので、どういうものかは理解できたようだ。ただ俺が撮影したものってほぼ全部がベッドシーンだから、リュシエンヌの本棚にあるエロ本のコレクションと大して変わらない。
 これも似たもの夫婦になるのか?
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