元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第六部:公爵邸披露パーティー

楽士二人

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「二人にはパーティーでの盛り上げ役を頼む」
「「畏まりました」」
 俺はララとロラの二人を別室に呼んで、パーティーで楽器を演奏したり歌を歌ったりして盛り上げるように指示をした。盛り上げるとはいってもステージがあるわけじゃなく、端の方でBGMを流すようにするだけだ。
「しかし楽士とは、また面白い仕事を選んだな」
「私たちは子供の頃から歌うのが好きでした。いつでも歌っていましたね」
「でも小さな町では仕事が少ないので、どうやっても歌で食べることはできません」
 仕事柄貴族の屋敷に出入りすることも多いからか、俺を前にしてもあまり畏まらない。いい感じだ。
「それならいっそのこと吟遊詩人トルヴェールをしてみようということになりました」
「最初の頃は大道芸人ジョングルールのように歌を歌いながら芸をしていましたが、そのうち民話を集めるようになり、語りながら演奏するようになりました」
「楽器も自分たちで手作りしたものばかりでしたが、今は職人にお願いして作ってもらえるようになりました」
 そう言って俺に渡してくれたのはギターのようにストラップのある、ハープのような楽器。胸の前に置いて両手で演奏する。音階は……
 ポロン、ポロポロポロン……
 半音ずつか。
 ポロロン、ポロロン、ポロロン……」
「だ、旦那様、ひょっとして演奏できるのですか?」
「初めて触ったのに?」
 俺がいくつかアルペジオを鳴らしたら二人が驚いた顔をした。
「弦の並びは半音ずつだろ? 頑張れば何曲かはいけそうだ」
 店にはピアノがあったから演奏したことはある。意外と集中して練習すれば弾けるようになる。もちろん小さな頃から練習しないとプロみたいには弾けないけど、簡単な曲なら何曲かくらいは弾けるようになった。ピアノが演奏できるというのは意外にウケるぞ。
 目の前の楽器はピアノと違って白鍵と黒鍵があるわけじゃない。弦が一直線に並んでいるだけだから少し弾きにくい。これは色分けしたいな。ああ、本体側に印が付けてあるのか。
 たどたどしく音を探しつつ、何とか演奏っぽくする。
「これは難しいな」
「聞いたことのない曲ですが、初めてできちんと演奏できるのは素晴らしいと思います」
「楽士に対して失礼だとは思うけど、弦をはじけば音が出るだろう。和音が分かればそこそこいけるんじゃないか?」
「旦那様は他に演奏できる楽器はあるのですか?」
「あったことはあったけど、こっちにあるかどうかがなあ……」
 俺はストレージを漁る。ミレーヌが最初から用意してくれたものは、ほとんどが普及品レベルのものになる。高級品はごくわずかだ。ロマネ・コンティなんてメチャクチャ高い酒が入ってるけど、武器なんかは数打ち物ばっかりだ。実際にそれで十分。
 楽器はそんなにないか。プラスチックなどの合成樹脂を使ったものはなさそうだ。ミレーヌに頼めば用意してくれるかもしれないけど、プラスチックの説明って難しいよな。
 このあたりは笛か。ええっと、木製の横笛と縦笛。【ファイフ】と【ソプラノリコーダー】と出ている。
 この世界にはオーケストラはあるんだよなあ。微妙に楽器は違うけど。謁見の時にはトランペットやトロンボーンっぽいのがファンファーレを演奏してたし、パーティーの時には弦楽器もあった。意外と新しい楽器ってないな。
 エレキギターとかキーボードとかはどうやってもこの世界の技術じゃ無理だろう。アンプもない。バンドで使うようなものはまず無理そうか。ドラムはいけそうか?
 シンバルとかトライアングルとか、そういう学校にありそうなのはあるけどヴァイオリンとかはない。
「でもこれは……この世界にあってもいいのか?」
 俺は一本の管楽器を取り出した。
「旦那様、その神々しいまでに美しい楽器は?」
「全部金ですか?」
「いや、違うだろう」
 キンキラキンの楽器、サックスがあった。ブラスか金メッキだろう。さっき言ったトランペットやトロンボーンはもっと茶色くて十円玉っぽかった。あれはブロンズか?
「一応ここには四種類ある。音の高い方からソプラノサックス、アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックスだ。縦笛の一種と思ったらいい」
 二人はソプラノとアルトを選んだので、俺はテナーを手に取る。
「穴がありませんが、これを押すのですか?」
「ものすごく細かい部品がたくさんあるのですが」
「王宮で管楽器を見たけど、あれは穴があるだけだろ? これはキーを操作すると穴が閉じたり開いたりするんだ」
 リード……もあるな。水の入ったコップに入れる。しばらく待ってマウスピースにリガチャーを付けてリードを差し込んで……。
「これでいけるぞ。これを首にかけてくれ」
「はい、やってみます」
「おかしな音が出ても笑わないでくださいね」
「普通に吹けば音が出るからな」
 俺でも音階くらいなら吹ける。サックスは金管ほど難しくない。
 支配人の趣味でジャズコンサートをやったことがある。その時にトランペットを吹かせてもらったことがあるけど、あれは無理だ。唇がやられる。慣れれば音くらいは出せるんだろうけどな。
「ペーーーーッ」
「ポーーーーッ」
 サックスの音って意外と響くな。石だからか。
「ベーーーーッ」
 久しぶりだけど鳴るな。
「一応これが運指表だ。違う押さえ方で同じ音がでる替え指も載ってるから参考にしてくれ。楽譜もいくつかあるけど同じように読めるかどうかは俺には分からない。パーティーで使えそうなら使ってくれてかまわない」
 その道のプロなら楽譜は何とでもなるだろう。多分耳コピでやってたんだろうからな。むしろ楽譜が読めないってこともあるかもしれない。
「旦那様、この楽器を売る予定はありませんか?」
「貴族様ならおそらく飛びつくと思いますが」
「いや、作り方を知らないからな。それに壊れても直せないぞ」
 そもそもリードだって交換しないとダメだし、タンポの交換だって必要だろう。メンテナンスフリーじゃない。売るだけ売って後は知らんぷりってのはこの世界じゃ普通らしいけど、それもなあ……。
 とりあえず二人に貸し出してパーティーの余興として使うくらいならいいだろう。聞かれたら俺が異世界から持ってきたと言えば済む話だ。

 この双子はサックスの音が気に入ったようで、パーティー当日まで大ホールで演奏する姿を毎日見ることになった。サックスの音って人間の声に近いと言われるから、歌が得意な二人には相性が良かったんだろう。
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