元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十四部:それぞれの思惑

飲食店の準備の準備(進まず)

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 町を作ったり国の経済状態に関わったりすると、今度は俺個人の経済状態の話になってくる。商会が赤字とかじゃないからな。何だかんだでそこそこの収入がある。母さんの送別会の時に話が出た飲食店を作る件だ。すぐには無理だと言ったんだけど。
「考えるよりも動いた方が早いか」
「あんたは指と舌と腰の動きは速いでしょ?」
「何の話だ何の」
 ちなみに朝食後の会話だ。朝からこれだよ。
「エミリアから聞いたわよ。連日連夜凄いって。もうお祈り前からノロケられて、集中できないできない。母さん濡れるわー。ねえシュウジ、挿れて?」
 そんな感じで屋敷に来てから母さんの下ネタが全開だ。日本なら確実にセクハラになりそうだ。実際俺の右腕と左腕はにそれぞれ掴まれていた。こんなところで【複体】なんか使ってどうするんだ?
 そもそも修道女のサンドラはパエリアが気に入って料理人を目指したいと言った。そのパエリアには米を使う。米はこの国ではまだまだ高価だ。同じ重さの小麦の何倍もするからな。だから俺としては米作りの目処が立ってからと思っていた。つまり今年の後半以降だ。詳細を決めるのも。
 でもたしかに店を作ろうと思ってもいきなりは作れない。まずは店舗、そして店員、そして食材の仕入れ先。準備が必要なのは分かる。それならいっそのこと母さんを店長というかオーナーにして丸投げするか? 俺よりも向いてる気はするからな。愛想もいいし。でも遠慮しない可能性があるからそこは心配だ。
「人と建物を用意するのはいいとして、どの客層を狙うかだなあ」
「貴族向けって感じはしないでしょ?」
「そうだなあ。平民向け、やや高級ってとこか」
 貴族向けの店を作りたくないわけじゃないけど、料理の裾野を広げるなら庶民向けだ。あまりにも格差があるから、貴族の間で流行っても、庶民にまで伝わらないこともあるだろう。そのあたりが日本とはかなり違う。しかし値段をどうするか。
 日本でディナーにフレンチのコースを頼んだとして、いわゆるで二万円から三万円くらいだろう。もちろんそれだけでは終わらない。あれは料理だけの値段だからだ。
 まずは食前酒のシャンパンがある。グラスで二〇〇〇円前後。それを一杯か二杯くらい。それにワインも注文する。ワインはボトルなら七、八〇〇〇円くらいからあるけど、せっかく高級店に入ったのなら一万円以上のものを頼むこともあるだろう。肉と魚で赤と白を変えるから、最初からグラスで頼んでもいい。デートで使うならボトルで頼んでソムリエに話を聞くのもいいだろう。
 それ以外にワインに合うチーズなど、他に追加を頼んだりすればさらに上がる。そして最後にサービス料が入る。サービス料ってのは店内に飾る花やテーブルクロスのクリーニング、化粧室のアメニティーなどに使われる。食事代の五パーセントから一五パーセントを考えておけばいい。
 こうやって積み重なっていって、実質的には一人がになる。一人で行くことはないだろうから二人で一〇万円。ちょっといいところだとそれくらいになるだろう。
 こっちの世界で俺の感覚だとその金額は中銀貨二枚から二枚半になる。軽く一人分の月給が飛ぶとなれば気軽には利用できない。もちろん高級店はあってもいいけど、それは安い店があってこそだろう。高い店ばっかりなら行くところがなくなる。
 ただ安い店を作るとしても、この国にはライ麦の全粒粉で作った黒パンという強敵がいる。これさえ口にしていれば死なないというスーパーフードだ。ただけっして美味くはない。不味くはないけど酸味があり、食感はモソモソ気味だ。最初は意外とイケると思ったけどすぐに飽きた。食感は大切だな。保存食にもなるから水分がない方がいいのは当然だけど。
「でも誰だって不味いよりは美味しい方がいいでしょ?」
「そりゃそうだ。でも一定金額以下に抑える必要がある」
「それなら大衆食堂と高級店?」
「一店舗で賄うのは当然無理だからな」
 ここは日本とは違う。身分差が大きいから店の客層そのものが違ってくる。一元さんどころか全く入ろうとさえしないのが普通だ。それはどんな店でもそうだから、うちの商会は北側は富裕層、南側は庶民と出入り口を分けている。そして並べている商品も少し違う。そのためにわざわざ貴族街と庶民街の真ん中に店を置いた。
「高級店で貴族からふんだくって、その分を大衆食堂に回すってのはどう?」
「いや、慈善活動と思ってくれればいいけど、そうでなきゃ無駄金を払ってるだけだと思われるだろう」
「そこはあんたの名前を出したらダメ?」
「あまり無茶を言うなよ。それに貴族は俺の部下じゃないし、異世界の料理なら最初は珍しがられるかもしれないけど、何度もってわけにもいかないぞ。そもそも貴族の人数が少なすぎる」
 が有効なのは、そのエリアに常に新しいカモが来るからだ。そうでなければ意味がない。
 高級店なら一日五組くらいだろうか。貴族は俺を除いて一三六人だから、それでも一か月も経たずに一巡する。継続的に金を落としてもらうためには喜んで来てもらわなければならない。渋々ならすぐに来なくなるだろう。
 貴族たちが俺と縁を結びたかったのは、俺から何かを得られると思ったからだ。世の中はギブアンドテイク。俺は彼らから貴族としての姿勢や考え方などを学んだし、俺は教えられることは教えた。危険じゃない範囲で。だから俺と仲良くしたいという貴族とはできる限り円満な関係を保ちたい。
「母さんがクラブで働いてた頃って、どうやって常連になってもらったんだ?」
 俺が聞くと母さんは口元に手を当てて考える様子を見せた。
「う~ん、そうねえ。手を握って『また来てくれる?』って頼む感じかな」
「あんまり変わらないな」
 俺はオラオラは好きじゃなかった。「また俺のために来いよ。いいな⁉」って言って引かれたらアウトだからな。あれは俺向きじゃない。「次にここでその笑顔をまた見るのはいつなんだろうな?」って優しく手を握るのが店にいた最後あたりの口説き文句だった。結果として体を壊して店を辞めたから、店では見ることはなかったな。でも店を辞めた後に転がり込んだから、顔は見たことになるのか。
「言い出したのは母さんなんだから、集客くらいは考えてくれ。ついでにメニューも」
「分かった分かった。それくらいはもちろんするよ。メニューを考えるのにマルちゃんとオリエちゃんを貸してね」
「ああ、ワンコは昼間は暇してることが多いからな。やることがある方がいいだろう」
 あいつの場合は寝るのに忙しいとか言いそうだけどな。普段から寝るか寝るヤるのどちらかだから。
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