元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第七部:商会と今後のこと

一段落

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 パーティーが終わった。俺は挨拶をした後はララとロラの双子の楽士と一緒に盛り上げ役をした。ホスト役が盛り上げ役までするのは貴族のパーティーでは珍しいけど、やっちゃいけないわけでもない。それに俺はこの世界の生まれじゃないから、そこはある程度は「異世界はそういうものだ」の理論で押し通せるだろうと思った。
 もちろんやりすぎればおかしな顔をされるだろうし、まあギリギリ許容範囲内ってとこだったと自分では思う。ダヴィド的にはアウトなこともあったかもしれないけどな。
 とりあえずこれで喫緊きっきんの問題はなくなった。三月に入れば俺も社交を始めることになる。そこで貴族と社交の関係という微妙な問題が出てくる。
 俺が持ってる貴族の社交の知識ってのはヨーロッパのものだ。しかも多くはマダムたちから聞いたものだから、それがイギリスの話なのかフランスの話なのか、あまりよく覚えていない。聞いた場所がベッドの中ってのが問題なんだろう。貴族の社交のマナーよりもずっと大事なものが目の前にあったんだから。
 俺の知ってる範囲では、イギリスでは一二月から八月くらいまで社交シーズンがあったそうだ。フレージュ王国では早ければ一〇月末、遅ければ一二月頭に王都シャンメリエに集まり、三月末まで滞在するそうだ。そこまで長くないし、俺の場合は屋敷の披露パーティーが終わってから社交を始めるから、今年については実質一か月くらいなので安心している。
 社交といっても晩餐会ばかりじゃなく、個別に訪問することもOKなんだそうだ。だから俺がケントさんに会ったりリュシエンヌの実家に行ったのも社交になるらしい。
 俺としては早めに会っておきたい人がいる。……女じゃないぞ。モラクス公爵だ。女公爵とかじゃない。二〇代の男だ。
 公爵の先祖は俺と同じように召喚された勇者だ。それなら苦労もあっただろう。そこから学べることもあるはずだ。俺が真面目に勉強なんて、昔なら信じられないことだな。
 母子家庭で母親が蒸発。中学からは深夜のバイトもしていた。中坊なら深夜バイトは無理だけど、バイト先のオーナーが保護者になってくれたからできたことだ。家業の手伝いということで色々なことをゴリ押しした感じだ。
 他には商会を正式に立ち上げること。従業員も集まり始めた。準備はできつつあるから、あとは会長を選んで、美容部門の担当者を選んで、ということくらいだ。
 少し前にエミリアの実家であるクレマン商会に手紙を送った。するとから返事が来た。その名前を見てエミリアの表情が消えたのは記憶に新しい。さすがにそれは冗談だったらしい。

 ◆◆◆

「相談だとお聞きしましたが、こういう話とは……。本当によろしいのですか?」
「ああ、俺の少ない伝手の中での話に限るけど、お二人が一番信用できると考えた」
 うちの商会、コワレ商会の会長の話だ。
 商会は作る。従業員も集るだろう。でも会長には信用も信頼もできる者を据えるしかない。そこで頼ることにしたのがエミリア両親、ジョスさんとアンナさんだ。
 挨拶に行った時には会長は息子に譲って後見をしているという話だった。だから毎日でなくてもいいから、王都の方で商会の面倒を見てくれないかと。
「なるほど、女性の美しさをメインにですか……」
「無理だと思うか?」
「いえ、今まであまり気にしたことがない分野ですの——イタタタッ! アンナ⁉」
 アンナさんがジョスさんの脇腹をつねっていた。あれは痛い。
「あなた、気にしたことがないというのはどういうことですか? 私があなたと結婚してからどれくらい経ちますか? その間に私がどれだけ頑張って綺麗でいようとしていたのかが分かっていますか? 私に限らず女性がどれほど普段から若さを保とうと頑張っているか分かっていますか?」
「お、おう、すまん」
 夫婦喧嘩なら他所でやってくれよ。まあアンナさんが怒るのも分かるけどな。俺の周りは見た目を気にする女ばかりだった。
 化粧も含め、女が男の前に出るためにどれだけ美見た目に気を使うかは理解できる。年齢が上がれば基礎化粧品から何から若い頃とは違うと聞いた。「四〇代からの~」とか「五〇代からの~」とかあるくらいだ。
 それに日焼けのこともある。身の回りはUVカット、化粧下地もそう。化粧水から始めてどれだけ重ねるのかって感心するくらいだ。
 その点では男は肌荒れくらい気にすれば問題ない。汗をかいたら顔を洗えばいい。体調が悪い時は目の下に薄くファンデーションを塗って誤魔化したけど、それくらいだ。
 要するに、男は女の化粧については余計なことは言っちゃいけない。ましてや気にしたことがないなんて、絞められても仕方がない。
「あ、公爵様、失礼しました。夫に任せるには不安がありますので、私を会長、夫を副会長にしていただけないでしょうか? 夫にはボンの店もありますので」
「まあ女性が購入するものを多く扱うつもりからそれでも構わない」
 社長の発言が炎上なんて会社としては一番避けたいところだ。イメージが落ちるからな。アンナさんの提案によって会長はアンナさんに決まった。

 ◆◆◆

「なるほど。その美容液を作る錬金術師の方をスカウトすると」
「ああ、時間をずらしてここに来てもらうことになっているから、もう少しすれば到着するはずだ。それとこのような飾りを用意した。これは地味な布地に縫い付けるとそれなりに映えるぞ」
 俺は先日作ったアップリケをエプロンやスカート、カーテンなどに縫い付けてみた。これは簡易的じゃなくてそれなりにきちんと縫い付けている。
 貴族の屋敷なら柄が入ったり刺繍は施されたカーテンはある。でも庶民の場合は商家など、庶民の中でも一部の裕福な家だけだ。刺繍入りの服を着て畑仕事をしても引っかけてボロボロになる。そもそも糸や布を染めるのにも手間と費用がかかる。それなら無地でいいというのが基本的な考えだ。俺はそこをもうちょっと何とかしたい。
 贅沢をさせたいんじゃないんだよ。使う素材は高級品じゃなくてもいい。端切れで十分。見た目をもう少し良くしたいだけだ。実際にここにあるのは集めた端切れを使ったものばかり。値段としてはほぼゼロに近い。
「これはかなり細かいですが、採算は取れますか?」
「それは気にしない。気にしないというのはおかしいけど、端切れや革の切れ端ばっかりだ。かかるのは人件費だけだろう」
 布でも革でも、工房ではできる限り無駄を減らして使用される。それでも無駄はゼロにはならない。何かを加工すれば必ず端の部分が残る。靴紐くらいの細さしかない布や革でも使い道はある。
 ケチ臭いと思うかもしれないけど、それが商品になるのならそのための職人を雇うことができる。職人じゃなくてもいい。手先が器用で真面目に働くならそれで十分だ。要するに内職だ。
 日本ならDMを詰めて宛名シールを貼ったり、ボールペンの組み立てをしたり、粗品の袋詰めをしたり、造花を作ったり、そういう軽作業のことだ。こういう仕事がこの世界には見当たらない。あまり分業が行われないようだ。
 服の場合は糸を紡ぐのと染めるのと仕立てるのはそれぞれ別の職人がするけど、仕立てるのは一人でするのが一般的なんだそうだ。切ってから縫ったら早いだろうと思うけど、自分でパーツを切り出してからそれを縫うのが仕立て職人だと。
「どうせ同じものをいくつも作るなら、最初にパーツを用意して、それを使って次の作業に入った方がいい。全部の作業ができる職人は少ないかもしれないけど、切るだけや縫うだけのように、一つだけなら問題なく作業ができる者はいるだろう」
 そもそもアップリケだけでどうにかなるとは思わない。あくまで商品の一つだ。でもそれによって従業員を確保することができる。細かな作業ができる従業員が増えれば、いずれ服飾関係でも戦力になるだろう。
 とりあえず俺が考えたのは、女性が女性のために働ける場所を増やすこと。そして女性が買えるものを増やすこと。
 働く場所も買うものもないなら経済的にも精神的にも豊かにはなれないだろう。そもそも俺が王都でちょっと頑張ったくらいでどれだけ世の中の役に立つか分からないけど、何もしないよりはマシなはずだ。そして結果として周りが少しでも華やかになればいい。ただそれだけだ。
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