元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十六部:領主になること

領地経営

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「上から見ただけだが、領地としては悪くないな。綺麗にまとまっている気がする」
「元は伯爵領で、領地替えでルニエ子爵領になったそうです。今では少々落ち目になっておりますが」
「そこを何とかするのが俺の仕事だ」
 俺は領地の方の屋敷で家令スチュワードを任せることになったエルネストから話を聞いている。彼は子爵たちを捕縛する兵士たちと一緒にやって来て、それから情報を集めて俺にすぐに引き継げるようにしてくれていた。有能だな。俺が手放すはずがない。だから家令スチュワードにした。
 領地を取り仕切るのがランドスチュワードなら屋敷を取り仕切るのがハウススチュワードになる。その区別はこの国にはないから単に家令スチュワードということになる。
「さて、俺が領主になるのなら、これまでとは変えたいことがある」
「何でしょうか?」
「麦畑をできる限り広げさせる」
「国に納める税が上がりますが」
 やっぱり財務省出身者でもそう言うか。どうしてこんな簡単なことに気づかないのか。
 俺は領地を貰うと決まった直後に、領地経営に必要な決まりについてルブラン侯爵がまとめた資料を手渡された。それを端から端まで読んだら、どんな馬鹿でも気づきそうな欠点に気づいてしまった。社会政策大臣を続けるならこれを広く告知すればもっと簡単に地方を救えたのになと思った。だからそれはシプリアンに任せることにした。彼の功績になるだろう。
「エルネスト、税は麦畑の広さで決まるよな?」
「はい、一定の面積を超えると増えます。最小五〇エクレになります。それが何か?」
「麦畑の広さは集落ごとで管理されているよな?」
「はい、それぞれで決まった範囲を超えないように気を使っております」
 そうだよな。俺だって最初は勘違いしていた。領地でを管理し、それを越えないようにしているんだと。
「なあ、エルネスト。例えばこのモリニャンって村だが、今の麦畑の広さは最小の五〇エクレってことになっている。それで間違いないな」
「はい。ほとんどの村は五〇エクレになっております」
 エクレってエーカーのことだろう。たしか四〇〇〇平方メートルくらいだ。五〇エクレなら五〇〇メートル四方もない。それを村で分け合うなら足りなくなって当然だ。
「それならモリニャンの半分の世帯が東に一キロ引っ越して、そこに東モリニャン村でも作ったらどうなる?」
「…………‼」
 そう。エルネストが驚いたように、この国では複数の世帯が集まって集落を作ることに決まっているが、二世帯で一集落にしてもルール上は問題ない。
「旦那様、それですと今ある村の周囲に新しい村を複数作っても、それぞれの村が治める税は最低限で済むということですね?」
「そうだ。だから俺は村作りと畑作りを推奨する。さすがに二世帯で一つの村というのは大変だろう。それぞれの村に任せる。
 五〇エクレまでの税額を一とすると、五一エクレから一〇〇エクレまでの税は四になる。一〇一エクレから一五〇エクレまでは一六。つまり作れば作るほど税が高くなるからどの村も五〇エクレで止めることになる。でも五〇エクレの麦畑を持つ集落が二つなら税額は二、四つなら四で済む。一〇〇エクレの農地一か所と五〇エクレの農地が四か所で同じ税額、一五〇エクレ一つと五〇エクレが一六でも同じというこのおかしな税制。それに誰も気づいていなかった。
 これまでモリニャンは三〇世帯で五〇エクレという麦畑を管理していた。それを一五世帯の村二つがそれぞれ五〇エクの麦畑を作ればいい。一〇世帯ずつ三つの村にして五〇エクレずつ作ってもいい。もちろん領地全体が支払う税は多くなるけど、それだけ収穫量が増えるわけだから、結局は大きなプラスになるはずだ。
「どうして誰もこのことに気づかなかったのでしょうか?」
 エルネストが愕然とした顔をした。財務省で働いていたのにこんなことに気づかなかったというわけだ。
「領地として国に支払う税が増えることばかり気にしていたからじゃないか? 国に支払う分が増えても、それ以上に収入が増えれば全然問題ない。それに農地を増やすというのもそう簡単ではないだろう。森の木を切り倒して根っ子を抜いて石を取り除き、そうやって農地を作るのにどれだけかかるか。それを考えたら現状維持をした方が楽だろう。町長や村長としても」
「たしかに……。森を切り拓くのは下手をすれば一世代もしくはそれ以上かかる作業だそうです」
 村は草原の真ん中にはない。必ず山や森や川の近くにある。自然の実りを手に入りやすくするために。農地を広げるためには森を切り拓かなければならない土地だって多い。
「ちなみにこれは俺の後任の社会政策大臣にも伝えてある。いずれは追随する領地もあるだろう」
「それでは国全体で農村部の暮らしが向上するかもしれませんね」
「それが狙いだ。ああ、そして来年まだは難しいかもしれないが、できれば麦だけじゃなく米も作りたい。ここはフレージュ王国でも一番南だから十分作れるだろう。麦に比べれば手間はかかるが、俺は米作りを推奨したい。今後は商品作物として積極的に売っていく」
 麦畑を増やしたからって、いきなり次男や三男が戻ってくるわけでもないだろう。でも今の子供たちが跡を継ぐ頃には町へ出なくても家族を養えるくらいにはしたい。だから麦だけじゃなくて米も作る。
 税のかからない米を作り、それを高値で売れるようにする。そうすればいずれは米にも税をかけようとする動きになるだろう。その時は引き換えに麦の税を下げるように訴える。そのためにはうちだけではなく、他の領地にもぜひ米作りを頑張ってもらいたい。
 俺は国に逆らうつもりはない。でも貴族として領地を任されることになるなら、今度は領地のために最善を尽くす。できる限り領地を豊かにする。国に恨まれず、かつ周りから妬まれない程度に。
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