元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
263 / 273
最終部:領主であること

名産品

しおりを挟む
「もう少し名産品があってもいいよな。ワインの増産にも限界があるからな」
 南部地域は王都周辺に比べれば温暖だ。だからエールよりもワイン作りが盛んなのは間違いないけどエールよりも高価だから庶民は手を出しにくい。つまり名物にはなりにくい。
 チョークも同じだ。目新しいかも知れないが、材料の貝殻はベックから王都に運ばれている。このあたりで見つかるものじゃない。石灰石があればそれが使えるかも知れないけど、名物にはならないよな。
「そうでございますね。名産品というのは……ありませんね。強いて挙げるなら青茶テ・ブルーでしょうか」
青茶テ・ブルーか……」
 青茶テ・ブルー。パッと聞くと意味が分からないかもしれないけど、文字通り青色の紅茶だ。見た目は真っ青で紅茶とは完全に別物だけど味は紅茶。厳密には茶葉じゃなくて花びらだ。このあたりで「青茶の花」と呼ばれている花の花びらを熟成させたものにお湯を注ぐハーブティーの一種と言ったらいいんだろうか。
 紅茶の呼び方は「テ」だけでもいいけど、黒い茶を表す「テ・ノワール」や赤い茶という意味の「テ・ルージュ」という言い方もある。だから緑茶は緑の茶という意味の「テ・ヴェール」、紫茶は同じく紫の茶「テ・ヴィヨレ」になる。ちなみに青茶と紫茶はハーブティーだ。茶葉を使っていようがいなかろうが、という言葉が使われる。でも「ティー」でも通じる。わりと曖昧だ。
「お口に合いませんでしたか? 紅茶は庶民が口にするには高価ですので」
「いや、青茶も紫茶も飲んだことはある。味はともかく色がなあ……」
 紅茶や緑茶はどこででも作られているけど、基本的には高級品扱いだ。貴族なら普段使いになるけど、平民なら贈答品として使われることもある。製造時に出る粉みたいな茶葉は安い値段で販売されている。それでもそれなりの値段がする。だから地方の庶民は青茶や紫茶を口にする。味は紅茶と緑茶に近いからだ。色の違いだけだな。
 俺が王都の屋敷で生活を始めた頃、使用人たちは俺が飲んだ後の出涸らしで淹れて飲んでいた。それも俺の許可を取った後で。出涸らしですら俺の所有物だから勝手に使ってはいけないからだ。勝手に使うと窃盗扱いになるからクビにされてもおかしくないんだそうだ。
 そういう話を聞いてからは紅茶はある程度の量を好きに使えるようにした。今では商会経由でまとめて買っているから制限なしで使えるようにしている。この屋敷でも同じだ。
 俺はケチじゃない。それに美味い焼き菓子には美味い紅茶が合うだろう。せっかく美味いケーキを食べるのに飲むのが水じゃ台無しなのと同じだ。だから紅茶くらいは好きに飲めるようにした。むしろ飲めと言っている。
 食事の時にお茶を飲むのはかなり理に適っている。中華でもイタリアンでもそうだけど、口の中が脂っこく感じたらお茶がいい。水じゃダメだ。お茶は脂を流してくれる。水は薄めるだけだ。生クリームなんかも同じで、口の中をサッパリさせたいなら水じゃなくて紅茶だ。
 ただ世間的には紅茶は高い。だから青茶や紫茶が飲まれている。でも色が微妙だ。青って食欲がなくなる色だからな。紫茶は青と紫とグレーを足したような色だからまだ濁った野菜ジュースと思えば飲める。でも青はなかなかキツい。
 ワンコの実家はカフェをしてたけど、あれは王都や大都市だからできる店だ。小さな町でやっても客は来ない。飲食は基本は酒場か屋台でするからだ。
「他の領地から買い付けに来るような名物となるとなかなかないでしょう」
「まあそれを作るのが俺の仕事なんだけどな」
 王都の商会では新作の焼き菓子なども販売している……そうか、なにも新作でなくてもいいのか。
「王都で売っているものを売るのでもいいか。王都からは遠いからな」
「その考えもありますね。王都と同じものが買えるとなると喜ぶでしょう」
 そうだな。その方向でもいいか。
 俺がまだ店で元気に働いていたころ、年配の誰かが言っていた。昔はオシャレな普段着がなかったと。普段着にできそうなのはゴルフで着るようなポロシャツくらいだったと。ブランドのショップは田舎にはなかなかやって来ない。当時の流行の先端は東京の百貨店。だから東京までみんな買い物に行っていた。
 それがユニク〇ができると都会でも田舎でも、全国どこでも同じ服を買うことができた。ユニ〇ロはどこにでもあるからな。ある意味ではファッションのあり方を変えたのがユ〇クロだ。その煽りを食って自分のブランドが潰れたと……ああ、あの客か。
「あまり高いものも売れないだろうから、王都と同じものを王都よりも安めの値段にして販売するか」
「王都と同じというだけで喜ぶ客は多いでしょうね。シュウジ様なら嘘でも現実味がありますので」
「俺は嘘は言わないぞ。本当のことを口にするとは限らないけど」
「失礼いたしました」
 エルネストが頭を下げる。俺は嘘は言わない。ぼやかして言うことは多いけどな。
「いや、俺が知っているこの世界のことは限られているからな。周りの助言がなければ俺には何もできない。助言でもでも批判でもいいから言ってほしいというのが本心だ」
 なかなか領主に対して批判は口にしにくいだろうけど、おべっかばっかりでは領地が滅ぶ。お互いにさじ加減が難しいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...