元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

隣国からの客

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「隣国の商会の者が旦那様にお会いしたいということです」
「隣国か。領地持ちになったからかな? ちなみにどの国だ?」
「はい、都市国家群の国の一つ、ミシャル市国です。ここから南に向かった一番最初の国になります」
「ちょっと遠いがお隣か。それなら会おう」

 ◆◆◆

「公爵様、お初にお目にかかります。ミシャル市国で『ドメニコの店』という商会を経営しているドメニコ・オッキーニと申します」
「ドメニコ殿、遠いところからようこそ。今年から領主になったシュウジ・コワレ・ラヴァル公爵だ」
 挨拶が済むとさっそく商談に入ることにする。俺としてはこの領地で米の栽培がしたい。今のところ二期作を考えている。それ以外に何かこの領地で育てられそうなものがないか、名産品になりそうなものがないか、そういうことも考えないといけない。
「クロド王国ほどではありませんが温暖な気候ですから、さほど難しくはないでしょう」
「名物や名産になるものがあればいいのだが」
「名物や名産でございますか」
 ドメニコは一度腕を組むとすぐに下ろし、それから右手で……⁉
「ドミニク」
「はい」
「悪いがしばらく外してくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ、二人だけで話したいことがある」
「畏まりました。それでは何かあればお声かけください」
 ドミニクが部屋を出た。この部屋の中にいるのは俺とドメニコのみ。俺は彼に確認したいことがあってドミニクに出てもらった。
「何か気に障ることでもありましたか?」
 気に障ってはいない。気になったことがあっただけだ。
「そういうわけじゃないが、ドミニクがいるとドメニコ殿に迷惑がかかるかもしれないと思っただけだ」
「私に迷惑ですか?」
「ああ」
 面倒な駆け引きはなしだ。ストレートに聞く。
「ドメニコ殿はひょっとしてオーナーでは?」
 俺がオーナーと呼ぶのはバイト先のレストランのオーナーだ。
「……どうしてお分かりに?」
「顎を触る癖かな?」
 オーナーは考え事をする時に一度腕を組み、そらから右の肘を左手で持ち、右手を顎のところに持ってきて、ピンと伸ばした親指で顎の先を触る癖があった。その動きが俺の覚えているものと同じだった。
 子は親を見て育つという。実質的に父親がいない俺にとって、小学校の頃から面倒を見てくれたオーナーは父親のようなものだ。
「オーナー、今はとりあえずタメで話そう。俺としてはそっちの方がやりやすい」
「……お前がそう言うならそうさせてもらおう。久しぶりだな、シュウジ」
「ああ。俺としては数年も経ってないけどな」
 男二人が握手をする。バイトは辞めたけど食事をすることはあった。仕事をしている間はちょくちょく食べにいっていたから顔を合わせていた。店を辞めてからはなかったな。あんまり外に出る元気もなかったから。
「フレージュ王国が勇者召喚に成功したという話が入ってきてな。それで私も日報紙を入手したら、写っているのがシュウジじゃないか。危うくお茶を吹き出すところだった」
「そうなる前に色々とあったんだよ」
 今となってはいい思い出だ。まだ死んでこっちに来てから一年しか経ってないけどな。
「そうだ。母さんとワンコとオリエがこっちで生まれ変わってるんだけど、よかったら会うか?」
「テルミちゃんが?」
「ああ。見た目は変わってるから言われないと分からないと思うけどな」
「テルミちゃんの都合が良ければ会わせてもらおう」
 俺は部屋の外にいたドミニクに母さんとワンコとオリエをここに呼ぶように伝えた。母さんは屋敷の中にある礼拝堂だろう。ワンコとオリエは料理でもしてるか?
「ところで、オーナーは俺の元知り合いだと知られても問題なさそうか?」
 前世の知識があるということは、場合によっては面倒ごとに巻き込まれることを表している。
「何もないんじゃないか? 私の知り合いはそう多くないだろうからな」
「それならいいか」

 ◆◆◆

「失礼します」
 母さんはそう言いながら入ってきた。一応俺に来客があることは知っているだろう。いきなり「シュウジ、何か用でもあるの?」って入ってくることはないと信じていた。後ろにはワンコとオリエもいる。
「三人に紹介しておこう。こちらがミシャル市国にあるドメニコの店という商会のオーナーだ。俺の日本時代からの知り合いで、三人とも顔見知りだ」
「「「えっ?」」」
 ワンコの驚く顔はそれほど見たことがない。エコが登場した時くらいのものか。
「テルミちゃん、元気にしてたかい?」
「えーっと、その喋り方は……オーナー?」
「当たり」
「わー、久しぶりー」
 母さんがドメニコオーナーに抱きついた。
 ワンコは学生時代からの知り合いだし、オリエも俺と一緒に食事をしたことがあるからオーナーも顔を知っている。それにワンコとオリエは犬耳と猫耳が付いたけど、顔そのものは大きくは変わっていない。でも犬耳や猫耳が付くとガラッと印象が変わるけどな。オリエを見た時は全然分からなかったし。

「それでは私はコワレ商会の代理店のような仕事を任せてもらえると」
「ああ、こっちの文化を壊しすぎない程度に色々と売るつもりだ。たとえばこういうものとか」
 俺が試しに出したのはパンスト。
「これは……コットンでもシルクでもない。何だ?」
「アラクネの糸だ」
「アラクネか。あんな危険な魔物をよく手懐けられたな」
「それがうちのアラクネたちは全然危険じゃないからな。ドミニク、何度も悪いが、アリエーナを連れてきてくれ」
「はい。畏まりました」
 ドミニクが出ていくとオーナーは不思議そうな顔をした。
「アリエーナとは?」
「うちのアラクネの代表だ。全部で五人いるから」
「名前を付けているのか?」
「呼ぶ時に名前がないと不便じゃないか?」
 しばらくしてアリエーナが入ってくる。
「マスター、お呼びでしょうか?」
「ああ、お前たちの作ったストッキングを南にあるミシャル市国で販売することにした。このドメニコ殿の商会を通して販売することになる」
「そうですか。よろしくお願いします」
 アリエーナはしずしずと頭を下げた。
「その女性がアラクネ?」
「ああ、今は【人化】を使っている。建物の中は移動が難しいからな。ダンジョンのボス部屋にいたところを従魔にした。日報紙にも出ていたはずだ」
「いや、私も全部に目を通したわけじゃない。国が違うからな。たまたま手に入ったものもあったというだけだ。だがこれだけ意思疎通ができるのなら魔物とは呼べないな」
 オーナーは何度も頷いている。アリエーナを見て魔物だと分かる者は誰もいないだろう。オーナーにも言ったけど、彼女たちは移動の関係で人の姿をしていることが多い。当たり前だがベッドでは人の姿だ。だからたまに元の姿に戻っていると「ああ、そういえばアラクネだった」と俺自身が驚いてしまう。それくらい人の姿に違和感がない。

 昔話が一段落するとドメニコオーナーは帰っていった。多少移動に時間がかかるが、日本と違ってそこまでビジネスにスピード感は必要ない。またしばらくしたら買い付けに来るだろう。本人かどうかは分からないけど。
 彼には家族がいるそうなのでこっちに来ることはできない。だから代理店のような仕事を頼むことにした。うちの商品を仕入れてミシャル市国で販売して広めてもらう。その商品を扱いたい者はドメニコの店を通じて購入することになる。
 でも、あれだ。このままだと知り合いばっかりにならないか?
 母さんとオーナーとワンコとオリエは顔を知っていた。そして時代が違ったから面識はなかったがリュシエンヌも元日本人だ。日本人が多いような気がする。異世界人=日本人ってこともないだろうに。
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