元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
209 / 273
第十五部:勇者の活躍

セレンの代官

しおりを挟む
「さあて、ギリギリ気づかれるかどうか、微妙な距離だな」
 前回と同じく、町を見下ろせる丘の上から攻撃する。
「アルベルティーヌ、ブランディーヌ、クレマンティーヌ、デルフィーヌ、エグランティーヌ」
「「「はい」」」
「俺が【石の玉】をばら撒く。お前たちもできそうなら同じように援護してくれ」
「「「分かりました」」」
 俺は複体を二体出して攻撃力を三倍にする。それから前と同じように角度を決めて【石の玉】を放つ。遠くばっかり見ていたからか【遠見】というスキルが付いたようで、双眼鏡を使わなくてもそれなりに見える。よし、当たったな。前と同じように干し肉(魔素マナ製)を取り出してスキュラたちにも配る。一つ口に咥えるとセレンの町の方に向かって連射した。
 次々と拳くらいのサイズの石の玉が飛んでいっては向こうで魔物に当たる。【石の玉】のレベルも上がっているから、消費魔力量が少なくなった。結果として一度に撃てる数が増える。そういう魔法じゃないかもしれないけど、これが俺の使い方だ。途中で玉を小さく重くできるんじゃないかと思ったけど、素材を穴だらけにしてしまう可能性があるからやめておいた。
「さすがマスターの魔法ですね」
「はい、威力といい数といい申し分ないです」
「バンバン撃ち込んでもらいたいですね。こう体重をかけて」
「種付けプレスが一番ですね」
「それで私たちのお腹の中もいっぱいです」
「もう少し緊張感を持てよ」
 最近はこのパターンが増えたな。さすがに俺も飽きるぞ。ていうか大体クレマンティーヌが原因で話がズレるな。
「どうもこの広い場所を見ていたら心が沸き立つと言いますか」
「野生に戻った感じがします」
「お屋敷の中にいるのもいいですが、自然の中もいいですね」
「アネットさんが外でしたがる理由が分かります」
「マスター、今日は外でしませんか?」
「しないぞ」
 干し肉(魔素マナ製)を食べつつ【石の玉】を使い続ける。そろそろ飽きてきたな。そう思った時にトゥーリアがこっちに向かって歩いてきた。
《シュウジ、我も魔法を使ってもよいかの?》
「いいぞ。でも素材はできる限り残したいから、【石の玉】とか【氷の矢】とか、素材を痛めにくい魔法を使ってくれるか?」
《もちろん分かっておる。では披露するかのう》
 トゥーリアが上体を起こすと、体の前に魔法陣が現れた。その数……いくつあるんだ? 無詠唱じゃないから魔法陣が出るか。次の瞬間に魔法陣から一斉に何かが飛び出していった。俺よりも多いんじゃないか? 俺は連続して撃つけど、トゥーリアは全部同時に撃った。
「何を撃ったんだ?」
《【氷の玉】じゃ。あれも当たれば痛いじゃろ》
「痛いな。石ほどじゃないけど。ところでトゥーリアの属性は水なのか?」
 魔法の属性には火・水・風・土・光・闇がある。
《我のか? 我の属性は風じゃ》
「土でもないのか」
 巣穴掘りが好きみたいだからな。
《どうも土属性の魔法やスキルとは相性が悪くてのう。どうやっても身に付かんのじゃ。それができればダンジョンから出ることもできたんじゃが。そういうわけで訓練中じゃ》
「それで穴を掘ってたのか」
 あれは練習だったんだな。

 そんな話をしているうちに魔物は大半が倒れ、その段階になってようやく残ったやつらがこちらに向かってくる。さて、俺の仕事は終わりだ。ここからは回復役に専念しよう。

 ◆◆◆

「それじゃタイメイユに戻る」
「ああ、頼んだ」
 粗方片付いたようなので、複体を一体だけにして、それをタイメイユに移動させる。そこでディディエたち役人とタイメイユの守備兵の一部を異空間に入れたらこっちで異空間を開く。これは前もってディディエたちと話し合って決めたことだ。どれだけ離れていようが移動は一瞬だからな。そして複体には兵士たちが戻ってくるまでそのままタイメイユに残ってもらう。
 俺でも複体でも全力で走るとメチャクチャ速い。走るというか弾む感じだ。タイメイユまであっという間だった。それから役人と兵士がこちらに来たのに合わせて移動を開始する。
「それではこれからセレンに向かう」
 俺を先頭にして増援部隊がセレンの町に向かう。町が近づくと城壁の上からも手が振られるので俺もそれに応える。慣れたものだ。俺の後ろを歩くスキュラたちも手を振っている。
 住民たちの勇者様コールに手を振って応えつつ、城門を通って町の中心に向かう。これから代官に会って町の接収を伝えなければならない。代官個人に恨みはないけど、アドニス王の指示だからな。そう思っていたら先の方で騒ぎが起きて砂埃が上がった。
「邪魔だ、どけっ!」
 そんな声が聞こえたと思ったら、人垣の向こうから二〇人ほどの集団が人を押し退けながらやって来た。
「代官のオラース・デュビと申します。お見知りおきを」
 揉み手しながら近づいてきたのは代官のオラースだった。見た目は三〇過ぎの好青年だ。こんなこと言えた義理じゃないけど、おそらく腹の中は真っ黒なんだろうな。ステータスを見るまでもなくイヤ~な雰囲気が漂っている。念のためにチェックしてみると、所有スキルに【詐欺:Lv五】があった。隠しても俺には見える。
「ああ、よろしく頼む。これで挨拶は終わったな。それじゃオラース殿をお連れしてくれ。礼は欠かないように」
「「「はっ!」」」
「え? ちょっ——」
 オラースは兵士たちに左右を挟まれて連れていかれた。向こうから「離せ」なんて叫び声が聞こえているけど、国の兵士たちだからな。彼はこれからタイメイユに移送され、そこから転移門を使って王都へ連れていかれる。その後のことは俺は知らない。
 オラースが連れてきた役人たちがいきなりのことにどうしたらいいのか戸惑っている。周りに野次馬も多いから、後々のためにここでハッキリと言っておくか。
「アドニス陛下からのお言葉を伝える。ルニエ子爵は領地管理を怠ったとして、領地は国が接収することになった。子爵も今頃は捕まっているだろう。これより当分の間、ここにいるディディエがセレンの代官代行をする。
 最後の一言をあえて少し強めの語調で口にした。それで反応を見るためだ。国が変わろうが立場が変わろうが大きな違いはない。後ろ暗いところがあるやつはそれが顔に出る。真面目にやってるやつは安心するだろう。そうやって顔を見ると、半数ほどが後ろを向いて逃げ出した。そいつらを兵士たちが追いかけていく。向こうで「どけ」とか「離せ」と聞こえてくる。俺は「逃げるなら今だ」とは言ったけど、「逃げても捕まえない」とは言っていない。国としては徹底的に叩き、一度膿を全部出すつもりだ。
 そうしていると残った役人たちの中でおそらく最年長の男が一歩前に出た。
「我々は勇者様の指示に従います」
 彼がそう口にすると、並んでいた者たちが揃って頭を下げた。
「これからどうすればよろしいでしょうか?」
「これまで子爵に媚び諂うことなく真面目にやってきた者たちを陛下は処罰することはない。これまでと同じ仕事をしてくれればいい。そうでなければ町の運営ができない。代官代行のディディエには五人の部下が付いている。彼らにこの町のことを教えてやってほしい。俺は今からダンジョンに潜る」
 俺がそう言うと、彼らは子供が見てもハッキリと分かるくらいに肩の力を抜いた。彼ら自身が何かしたことはなくても、代官と一緒に何かよからぬことをしていたと決めつけられればそれで終わりだ。この国は共和制じゃない。君主制だ。上がアウトと言えばアウトだ。
「承知いたしました。それではディディエ殿、こちらへ」
「ではシュウジ様、代官代行として各所に通達をしておきます。ダンジョンについては全てお任せします」
「ああ、任された」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処理中です...