元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

飲食店

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「やはり客層によって分けるしかないか」
「その方がいいでしょう。身分が違いすぎれば、同じ場所にいてもお互いに気持ちよく食事ができないと思います」
「それなら三段階に分けるか」
 サンドラを始め、飲食店勤務の希望者たちと話をしている。ここには料理人以外にも給仕希望の者もいた。分かると思うけど全員が修道女かシスターだ。こんなに引っ張ってきてもいいのかと思ったけど、新院長のセヴリーヌさんが問題ないと言ったからいいんだろう。総勢二八人。増えすぎだ。
 俺がこの世界に来てから、なんだかんだで合計一〇〇人以上が修道院からうちにやって来た。逆に言えば、修道院は一〇〇人分の余裕が出るわけだ。
 修道院の運営は寄付金で賄われている。もちろん国は援助してくれるけど、際限なく出してくれるわけじゃないので寄付を募っているわけだ。人数が減るのは国としても修道院としても助かる。
 修道院や教会を出て大丈夫なのかと確認したら、シスターの場合は俺が所有する飲食店で働くならいいと親に言われたパターンがほとんどだ。一部は親を押し切ったらしい。
 修道女の場合はそれぞれやっかいな事情を抱えていることもあるけど、王都から離れればそれほど問題にはならないだろうし、俺の元にいるなら守ってもらえるだろうと思ったそうだ。ただし俺はいつも店にいるわけじゃない。そういうわけで助っ人兼護衛を用意することにした。
「「「マスターのためならいくらでも働くわよ」」」
「ああ、期待してるぞ」
 セイレーンたちだ。彼女たちをメインにして、アラクネたちにも時間がある時には入ってもらう。そういうわけで、ラヴァル公爵領の領都エウロードでは、元修道女たちと元シスターたちと俺の従魔たちが働く飲食店がオープンすることになった。
 本来こういうのはスキュラたちが一番向いていると思うけど、彼女たちには別の場所で仕事をしてもらっている。それは開拓だ。
 おそらく今年か来年あたりにでもあの変な税制は改善されるけど、その前に農地を広げておきたいと思っている。だから各村を回ってその件について説明し、実演しているのがスキュラたちだ。
 さて、従魔たちのことは日報紙で存在が知られている。最初にスキュラたちが従魔になったあと、シーヌに独占インタビューをさせ、そこでスキュラたちについて語った。それでこの国に伝わっているということを広めてもらった。
 本来スキュラという魔物はもっと恐ろしい見た目をしている。妖艶な女性の上半身と凶悪な犬の下半身からできた魔物だ。どう考えてもうちのスキュラたちはそれと同じには思えない。だから俺が知り合ったのは新種のスキュラだろうと。
 その日報紙が出たあとに王宮から確認させてほしいという連絡があって、宮廷魔術師たちが確認に来たけど、やっぱり普通のスキュラとは違うそうだ。アラクネとセイレーンも見てもらったけど、やっぱり普通ではないらしい。ただ種族としてはスキュラ、アラクネ、セイレーンとなっているので、今のところは魔物扱いになっている。たしかに人ではないよな。
 アラクネたちは自分が出した糸で色々な布を織っている。年齢は二七歳ということで、妙に落ち着いた性格だ。どう言ったらいいのか、旅館の若女将というか良妻賢母っぽい感じというか。うちの母さんとは違うな。
 まあ母さんも悪妻ではなかったと思うし愚母ってわけでもなかった。俺にとってはいい母親だったけど、良妻賢母って言葉が途轍もなく似合わないのは息子の俺が一番分かる。母親というよりも年上の友人って感じだろう。ああいうママは知り合いに多かったからな。妙にサバサバしてノリがいいタイプだ。
 セイレーンたちは大学の体育会系クラブがよく似合う。走ることができるなら陸上部が似合うだろう。でも陸上では上手く動けないので、今は早歩きから初めて走ったり跳んだりすることを練習中だ。店員も訓練の一環ということになる。
 ああ、話がズレた。店のことだ。店は王都でオープンする予定だったけど、俺が領地をもらったことで状況が変わった。俺は貴族相手に金儲けしたいわけじゃない。そっちは王都の商会で稼いでいるから、飲食店の方は働く場所を増やすってだけでいいんじゃないかと思うようになった。
 そして最初は王都で富裕層向けの高級レストランと庶民向けのビストロを用意するつもりだったけど、最終的にはこっちで少し高めのレストラン、庶民が気軽に入れるビストロ、接客が必要ないテイクアウト専門店の三つになった。あまり安い店を作らなかったのは他の店の売り上げを下げてしまう可能性があるからだ。領主がオーナーを務める店のせいで他の店が次々と潰れてしまえばシャレにならない。
 とりあえずこのような形で始めるけど、もし人気が出るようなら王都の方にも店を持つことは考えている。こっちに来てまだあまり経ってないけど、領地を持つと一気に責任感を感じる。この領地が俺の双肩にかかっているのかと思うと真面目にやらないといけないと思ってしまう。だからまずはこの領地からだ。
 俺個人と妻たちだけならいくらでも生きていくすべはあるだろう。でも領民たちはそういうわけにはいかない。いかに彼らを豊かにさせるかを考えないといけない。それが先日言った「麦畑を三倍にまで増やしてもいい」ということと「米作りを推奨する」ということだ。米についてはまず王都の側の実験都市でやろうと思っていたけど、結果としてこっちでもやることになった。
 米作りについては初めてだから不安もあるけど、南にある都市国家群を超えたさらに南のクロド王国は米作りが盛んだから、ここでもできるだろう。こことサン=シュウジ、両方でやってみてどれだけの違いがあるかを確認するのが今年の仕事だ。そこは社会政策大臣の仕事なのでもう俺の手を離れたけど、ここで「はいさようなら」と言うほど薄情じゃない。しばらくは協力することになるだろう。俺としても王都近くでどれくらい米ができるかは気になる。
 俺が作る店では米を使った料理を主体にすることが決まった。それは店長のサンドラの意向でもある。彼女は俺が作ったパエリアを食べて修道院を出る決意をした。どうかと思うけど、それも彼女の人生だ。修道院にいれば多少は窮屈だけど生活に困ることはない。でも外に出ればこれまでとは全く違う生活を送らなければいけない。カゴの中の小鳥じゃないことを選んだからには苦労もあるだろう。
 とりあえず同じ馬車で移動していたサンドラ、アリエル、ローズの三人は……手を出したからには責任はとる。いや、何日もずっと同じ馬車の中にいたらおかしな雰囲気になるよな? 男女が密室にいたら間違いが起きてもおかしくないよな? まあそういうことだ。
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