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第2章・富国強兵基礎編
36話 太原雪斎、信長の真意を知る
しおりを挟む1550年12月、遠江国
今川館での評定を終えた太原雪斎は、信長との会談に向け準備に余念がなかった。
織田信長、今川義元の10年間不可侵条約の締結!
『信長はその件で、儂が締結前の事前会談を申し込む事を想定している、要はどうでも良い事なのだ。
おそらく新たに出してくるであろう、新しい条件こそが奴の本音…果たして何が飛び出すか…』
遠江国と駿河国の国境、能満寺。
雪斎が寺に到着すると、信長は既に本堂で待っていた。その姿は甲冑をまとった武将のそれではなく、上下を何やら草か森林の様な(迷彩服)不思議な服に身を包んだ、異様な雰囲気の男だった。
「よう来られたな雪斎殿。さあ、こちらへ」
信長は雪斎を重厚な一枚板で設えたテーブルへと促す。腰掛ける椅子も派手な飾り付け等はないが、一目見て相当高価な代物だと見当が付く。
「南蛮渡来ですかな?この様な形式での会談は初めてにて、無作法があれば御許しのほどを」
「さて単刀直入に聞こう。雪斎殿が、今川家が、この会談で一番望む物は何でしょうや?」
信長の言葉に雪斎は静かに答える。
「太守様のご帰還、それのみにございます。」
「よかろう。だがそのためには、雪斎殿に幾つか試練を乗り越えてもらわねばならん。」
信長は懐から一つの書状を取り出し、雪斎に手渡す。
そこには、今川義元が1年後に駿府へ帰還する条件①~③の追加として新たな要求が記されていた。
条件④
今川家は全ての武装を解除するべく、織田家の刀狩りに従い、武器防具の徴収に速やかに応じる事。勿論有償、それ相応の銭にて買い取る。
条件⑤
織田家は今後、日ノ本各国に一国一城制度を設ける。これは文字通り一つの城以外は認めない事である。今川家であれば今川館のみ残し、その他の城は破城すなわち取り壊す事。
条件⑥
今川家は織田家へ、駿河国に港を建設する許可を与える事。
「信長殿…想定はしていたが、流石にこの内容では、今川家内を納得させる事は無理ですぞ。」
「安心せよ。代わりに儂からも義元公以外に与える物がある。」
信長は懐から、もう一枚の書状を取り出した。雪斎はその内容を読み顔色を変える。
織田家から今川家への供与
①干した鰯を使用する(ぼかし魚粉肥料)の製造技術。有機肥料完成品の提供。
②うなぎの養殖技術及び調理工程の供与。
③領民の公衆衛生向上の為、公衆トイレの設置。
④同じく領民の為に公衆浴場の設置。
⑤織田軍が責任を持って他国からの防衛、及び駿河国治安維持を行う事。
以上全てを無償で行う。
「…これは…!」
「雪斎殿と義元公は、治政の才に長けている。この技術があれば駿河国は豊かな国になる。
戦乱を終わらせ民が安心して暮らせる世を作るためだ。」
その言葉に雪斎は真意を悟った。信長は今川家を滅ぼすのではなく経済的に繁栄させ、無用な戦を無くすつもりなのだ。
「正直に申し上げます。拙僧ですら有機肥料やトイレ?等々、聞いた事の無い物…おそらく素晴らしい物だとは分かるのですが、駿河国の民・百姓が使いこなせるのでしょうか?」
「了承を得られれば今すぐにでも2万の織田軍を駐屯させる。彼等は既に経験している故に、民衆の指導も請け負う。
もちろん最初に今川家臣団に覚えてもらうがな。尾張ではそれを研修と呼んでいる。」
「研修?研鑽して修める。ですかな?」
「ハハハ流石だな雪斎殿。その通りである。織田では教育システムの一環として研修制度がある。他国に用いるのは初めてだが、尾張国では民の民度が上がり、我ら武士への不満が大幅に減少したぞ。」
「システム?………貴方は不思議な御方ですな。まだ16歳と聞いておりますが、54歳の拙僧より遥かに長く生きられておる…そう感じさせる物をお持ちです…」
雪斎は信長の要求を全て受け入れることを決断した。
「信長殿…その条件、全てお受けいたします。ただ…武装解除を拒否する武将も出て来るかと。駿河を二分する内戦は避けたい。」
「その可能性のある武将や集団は当家でも把握しておる。駿河の無血開国の為、必要最低限の犠牲は払ってもらう…
返答は無用!ここから先は織田の軍事力でしか解決できぬのでな。」
信長の言葉に無言で深く頭を下げる雪斎…彼もまた不満分子の犠牲は覚悟していた。
「この雪斎、信長様の期待に必ずお応えいたします」
二人の知略が交差した会談は、日ノ本の未来を大きく変える、運命的な一歩となるのである。
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