幼馴染の終わり方 ― 当人たちより周りが先に気づく恋 ―

伊藤 生ちゃん

文字の大きさ
7 / 13
第7章 好きなものの話

第7章 好きなものの話

しおりを挟む
 放課後の白波坂。  
 昨日の衝突も、今朝のぎこちなさも、もうどこかに溶けていた。

「ねぇ守、今日さ、商業の授業で“好きなものをプレゼンする”ってのがあってさ」

「へぇ。商業ってそんなことするんか」

「するよ。でね、私“好きな食べ物”で発表したんだけど……」

「どうせ甘いもんやろ」

「なんで分かるの!」

 彩香が笑う。  
 守も少しだけ口元が緩んだ。

「守は? 好きな食べ物とかあるの?」

「んー……別にこだわりないけど、強いて言うなら……」

「なら?」

「……あんこ」

「えっ」

「いや、あんこっていうか……“こしあん”な。粒あんはちょっと違う」

 彩香は思わず吹き出した。

「守、クセ強っ!」

「別にええやろ。和菓子は落ち着くんや」

「高校生で“こしあん派”ってなかなかいないよ」

「おるやろ、探せば」

「探さないよ!」

 彩香は笑いながら、ふと何かを思い出したように目を丸くした。

「もしかしてさ……中学の時に私があげた“どら焼き”のこと、まだ覚えてる?」

「……覚えてる」

 守は少しだけ視線をそらした。

「あれ、めっちゃうまかった。  
 なんか……“あぁ、こういうの好きやな”って思った」

 彩香は一瞬、歩く速度を止めた。  
 頬がほんのり赤くなる。

「……そんな昔の覚えてるの?」

「覚えてる。あれ食って、なんか落ち着いた。  
 彩香が選んだもんやし、余計に」

「……そっか」

 彩香は前を向いたまま、耳まで赤くなっていた。

 沈黙が落ちる。  
 でもその沈黙は、気まずさではなく、  
 “心が揺れた証拠”の静けさだった。

「じゃあさ、守は他に何が好きなの?」

「機械いじりとか、バイクとか……まぁ色々あるけど」

「人は? 好きな人とか」

 彩香は軽いノリで聞いたつもりだった。  
 でも守の返事は、軽くなかった。

「……おるよ」

「えっ」

「ずっと前から、好きな人おる」

 彩香の心臓が跳ねた。  
 足が止まりそうになる。

「だ、誰……?」

 守は少しだけ横目で彩香を見る。

「言わんでも分かるやろ」

 その一言で、  
 彩香の胸が一気に熱くなる。

「……なんで、そんな急に言うの」

「たわいもない話やからこそ、言えるんやろ。  
 俺、嘘つくの苦手やし」

 彩香は俯いた。  
 心が揺れているのを自覚してしまったから。

 幼馴染としての“当たり前”が、  
 またひとつ形を変えた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...