9 / 38
2-2. 迷宮
しおりを挟む
千年以上も前の話。
突然、天と地を繋ぐ巨大な光が現れた。
多くの人々は、それを神の御業と考えた。
しかし光の中から現れたのは神などではなく、人類に害をなす魔物だったそうだ。
結論だけ言えば、人類は勝利した。
奪われた土地をひとつひとつ取り戻し、元凶まで辿り着いた。
そこにあったのは巨大な穴だった。
当時の人々は穴を塞ぐための国を作った。
高度な建設技術によって出入口を限定し、戦闘能力の高い者を住まわせることで、穴から魔物が出てこないような仕組みを作り上げた。
時が流れ、魔物の脅威がほぼ失われた。
代わりに生まれたのは、穴に対する興味である。
この穴はどこまで続いているのか。なぜ現れたのか。なぜ魔物を生み続けるのか。その好奇心は人々を冒険に誘い、有益な資源を次々と持ち帰った。
その資材は莫大な富を生み出した。
噂はじわじわと広まり、国には世界中から人が集まり続けた。
こうして迷宮都市ソマリは生まれた。
もはや国ではない。迷宮と共に生きる冒険者達の溜まり場。それがソマリである。
──以上、フィーネから教わった話。
「……これが、迷宮」
初めて迷宮に立ち入った私は、唖然とすることしかできなかった。
迷宮は都市の中心部にある。
巨大な鉄塔が目印であり、出入口の前に立っている鎧を着た職員にカードを見せることで侵入できる。
出入口は洞穴のような形状で、五メドル程の横幅と二メドル程の縦幅があった。
その先には地下へ続く石階段があり、薄暗い場所に繋がっていた。
三十段ほど下りたところで足音が反響するようになった。灯は左右の壁に等間隔で設置された魔石灯だけであり、進む度に外の光が薄れて暗くなる。
百段ほど下りても先が見えない。
そのうち、自分が怪物の腹の中へと進んでいるかのような恐怖心が芽生え始めた。
そのまま五分ほど下り続け、やっと平地に降り立った後で、私は最初の言葉を呟いた。
「不気味なところね」
レイアが呟くような声で言った。
「ああ、十分に注意して探索しよう」
私も自然と声をひそめた。
フィーネの説明によると、ここは第一層と呼ばれる場所らしい。古代の冒険者達が初めて目にした階層でもあり、迷宮という名前の由来となっている。
壁は濡れた土のような色をしており、どこを見ても歪な凹凸がある。天井は高い。剣を大振りしても問題にはならないだろう。
「どっちに進むの?」
「直進する」
私はレイアの質問に答え、階段を降りた地点から見た三つの分かれ道のうち、正面の道へ進んだ。
この先に「ルームA1」と呼ばれる場所があり、一定の間隔で魔物が現れるらしい。
魔物の種類は、五色のツギハギ。
1メドル程の長い胴を持ち、二本の小さな足で移動する魔物である。その外見が繰り返し修繕された人形のように見えることから、ツギハギと命名された。
ツギハギは遅い。背後に回れば胸にある魔石をひと突きするだけで倒せるが、色に応じた属性の魔法を使う。
青と緑は倒せ。
赤と黄色は注意して倒せ。
黒を見たら一目散に逃げろ。
以上が世話役のフィーネから受けた説明。
私は祖国で魔物の討伐をしていたが、ツギハギという魔物は初めて耳にした。
──大丈夫、雑魚ですよ! 黒以外は!
フィーネは笑顔を見せてくれたが、やはり初見の魔物は怖い。
コン、コン、と歩く度に音が鳴る。
私はその音が魔物を引き寄せているように思えて、徐々に口の中が乾くのを感じた。
「レイアも、迷宮は初めてだったか?」
その緊張を紛らわすため、今日知り合ったばかりの仲間に声をかける。音を気にするなら喋るべきではないが、このまま黙っていたら気がおかしくなりそうだった。
「初めてよ」
彼女はあっけらかんとした態度で言った。
「その割には随分と落ち着いて見える」
「あんたが怯え過ぎなのよ」
心なしか初めて会話した時よりも距離を感じるが、今はその堂々とした言葉が心強い。
「……ここか」
しばらく歩いた後、広い空間に出た。
どうやら行き止まりのようで、ここから先へ続く道は無い。
「何も無いじゃない」
レイアが呟いた瞬間。
岩が砕けるような音がした。
反射的に目を向ける。
そして私は、初めて迷宮の魔物を見た。
突然、天と地を繋ぐ巨大な光が現れた。
多くの人々は、それを神の御業と考えた。
しかし光の中から現れたのは神などではなく、人類に害をなす魔物だったそうだ。
結論だけ言えば、人類は勝利した。
奪われた土地をひとつひとつ取り戻し、元凶まで辿り着いた。
そこにあったのは巨大な穴だった。
当時の人々は穴を塞ぐための国を作った。
高度な建設技術によって出入口を限定し、戦闘能力の高い者を住まわせることで、穴から魔物が出てこないような仕組みを作り上げた。
時が流れ、魔物の脅威がほぼ失われた。
代わりに生まれたのは、穴に対する興味である。
この穴はどこまで続いているのか。なぜ現れたのか。なぜ魔物を生み続けるのか。その好奇心は人々を冒険に誘い、有益な資源を次々と持ち帰った。
その資材は莫大な富を生み出した。
噂はじわじわと広まり、国には世界中から人が集まり続けた。
こうして迷宮都市ソマリは生まれた。
もはや国ではない。迷宮と共に生きる冒険者達の溜まり場。それがソマリである。
──以上、フィーネから教わった話。
「……これが、迷宮」
初めて迷宮に立ち入った私は、唖然とすることしかできなかった。
迷宮は都市の中心部にある。
巨大な鉄塔が目印であり、出入口の前に立っている鎧を着た職員にカードを見せることで侵入できる。
出入口は洞穴のような形状で、五メドル程の横幅と二メドル程の縦幅があった。
その先には地下へ続く石階段があり、薄暗い場所に繋がっていた。
三十段ほど下りたところで足音が反響するようになった。灯は左右の壁に等間隔で設置された魔石灯だけであり、進む度に外の光が薄れて暗くなる。
百段ほど下りても先が見えない。
そのうち、自分が怪物の腹の中へと進んでいるかのような恐怖心が芽生え始めた。
そのまま五分ほど下り続け、やっと平地に降り立った後で、私は最初の言葉を呟いた。
「不気味なところね」
レイアが呟くような声で言った。
「ああ、十分に注意して探索しよう」
私も自然と声をひそめた。
フィーネの説明によると、ここは第一層と呼ばれる場所らしい。古代の冒険者達が初めて目にした階層でもあり、迷宮という名前の由来となっている。
壁は濡れた土のような色をしており、どこを見ても歪な凹凸がある。天井は高い。剣を大振りしても問題にはならないだろう。
「どっちに進むの?」
「直進する」
私はレイアの質問に答え、階段を降りた地点から見た三つの分かれ道のうち、正面の道へ進んだ。
この先に「ルームA1」と呼ばれる場所があり、一定の間隔で魔物が現れるらしい。
魔物の種類は、五色のツギハギ。
1メドル程の長い胴を持ち、二本の小さな足で移動する魔物である。その外見が繰り返し修繕された人形のように見えることから、ツギハギと命名された。
ツギハギは遅い。背後に回れば胸にある魔石をひと突きするだけで倒せるが、色に応じた属性の魔法を使う。
青と緑は倒せ。
赤と黄色は注意して倒せ。
黒を見たら一目散に逃げろ。
以上が世話役のフィーネから受けた説明。
私は祖国で魔物の討伐をしていたが、ツギハギという魔物は初めて耳にした。
──大丈夫、雑魚ですよ! 黒以外は!
フィーネは笑顔を見せてくれたが、やはり初見の魔物は怖い。
コン、コン、と歩く度に音が鳴る。
私はその音が魔物を引き寄せているように思えて、徐々に口の中が乾くのを感じた。
「レイアも、迷宮は初めてだったか?」
その緊張を紛らわすため、今日知り合ったばかりの仲間に声をかける。音を気にするなら喋るべきではないが、このまま黙っていたら気がおかしくなりそうだった。
「初めてよ」
彼女はあっけらかんとした態度で言った。
「その割には随分と落ち着いて見える」
「あんたが怯え過ぎなのよ」
心なしか初めて会話した時よりも距離を感じるが、今はその堂々とした言葉が心強い。
「……ここか」
しばらく歩いた後、広い空間に出た。
どうやら行き止まりのようで、ここから先へ続く道は無い。
「何も無いじゃない」
レイアが呟いた瞬間。
岩が砕けるような音がした。
反射的に目を向ける。
そして私は、初めて迷宮の魔物を見た。
2
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる