8 / 38
2-1. 隷属魔法
しおりを挟む
隷属魔法。
これは、私の国には無かった。
この魔法は双方の合意に基づいて行使される。
契約時に「要求」を述べ、奴隷は合意した内容を拒否できなくなる。もちろん主人も奴隷の要求を聞き入れる必要があり、契約の不履行と判断された場合には、魔法の効果が解除される。
一見、対等な条件だが、そうではない。
奴隷の場合は「問答無用」で行動を制限される。一方で主人の場合は、三回までの警告を受けることができる。逆に言えば、三回は約束を破れるということだ。
私は疑問に思った。
なぜ、このような魔法が必要なのだろう。
「迷宮です」
魔物を倒した時、人は成長する。
迷宮において、奴隷は強くなり過ぎる。
だから隷属魔法が必要なのだと上機嫌な奴隷商人が教えてくれた。
裏を返せば、隷属魔法が登場する以前には下剋上が問題になっていたのだろう。
説明の後、契約が行われた。
私はふたつの要求を伝えた。
ひとつは迷宮で共に戦うこと。
もうひとつは、私の復讐を手伝うこと。
レイアは「可能な限り協力する」と答え、私は合意した。
「愛を教えて」
一方で彼女の要求は、ひとつだけだった。
「可能な限り、努力する」
「信用できない」
彼女は合意してくれなかった。
自分なりに最も良い回答をしたつもりだったが、どうやら彼女は疑り深いらしい。
「お前ッ、この機を逃せば家畜──」
私は憤慨する奴隷商人の口を手で塞ぎ、彼女に目を合わせて言った。
「どうすれば、信用して貰えるのだろうか?」
彼女は唇を結び、微かに頬を赤らめて私を見た。
私が初めて目にする態度に戸惑っていると、彼女は目線を逸らして呟くような声で言った。
「キスしなさい。今、この場で」
私は面食らってしまった。
理由はふたつある。ひとつは経験が無いこと。もうひとつは、このような美しい少女の唇を、私などが奪っても良いのかと思ってしまったことだ。
「もちろん、舌を入れるやつよ」
さらに難易度が上がり、今度は私が頬を赤らめる番となった。もちろん実際に赤くなっていたのかは不明だが、もしも鏡があれば、見たことの無い自分の姿が目に映ったのだろう。
「……何秒だ?」
「難病? 見ての通り健康体なんだけど」
「どれだけの時間、舌を入れれば良いのかと聞いた」
彼女は逸らしていた目を正面に戻す。
それから私をジッと見て、急に慌てたような様子で言った。
「……本気?」
「……無論だ」
私は腹に力を込め、どうにか声が震えないようにした。
見つめ合う。沈黙が生まれる。
時が経つ度、胸の鼓動が大きくなる。
「……冗談よ」
やがて、彼女は俯きながら小さな声で言った。
「良いのか?」
私は緊張と安堵が程よく混ざり合ったような感情を胸に、問いかける。
彼女は息を整えるように呼吸をする。
それから顔を上げて、かなりの早口で言った。
「もちろんよ! 私の初めては一生を捧げても良いと思える相手と綺麗なベッドの上で愛を囁き合った後にどちらからともなく唇を重ね互いを求め合った後そのまま自然な流れで体液の重なる位置を下へ移行させ一晩中愛し合う形にするって決めてるんだから! ……あっ」
──その後、隷属魔法が行使された。
彼女の名誉を守るため、一言だけ述べる。
私は、想像したよりも愉快な性格をしているのだなと、そう思った。
これは、私の国には無かった。
この魔法は双方の合意に基づいて行使される。
契約時に「要求」を述べ、奴隷は合意した内容を拒否できなくなる。もちろん主人も奴隷の要求を聞き入れる必要があり、契約の不履行と判断された場合には、魔法の効果が解除される。
一見、対等な条件だが、そうではない。
奴隷の場合は「問答無用」で行動を制限される。一方で主人の場合は、三回までの警告を受けることができる。逆に言えば、三回は約束を破れるということだ。
私は疑問に思った。
なぜ、このような魔法が必要なのだろう。
「迷宮です」
魔物を倒した時、人は成長する。
迷宮において、奴隷は強くなり過ぎる。
だから隷属魔法が必要なのだと上機嫌な奴隷商人が教えてくれた。
裏を返せば、隷属魔法が登場する以前には下剋上が問題になっていたのだろう。
説明の後、契約が行われた。
私はふたつの要求を伝えた。
ひとつは迷宮で共に戦うこと。
もうひとつは、私の復讐を手伝うこと。
レイアは「可能な限り協力する」と答え、私は合意した。
「愛を教えて」
一方で彼女の要求は、ひとつだけだった。
「可能な限り、努力する」
「信用できない」
彼女は合意してくれなかった。
自分なりに最も良い回答をしたつもりだったが、どうやら彼女は疑り深いらしい。
「お前ッ、この機を逃せば家畜──」
私は憤慨する奴隷商人の口を手で塞ぎ、彼女に目を合わせて言った。
「どうすれば、信用して貰えるのだろうか?」
彼女は唇を結び、微かに頬を赤らめて私を見た。
私が初めて目にする態度に戸惑っていると、彼女は目線を逸らして呟くような声で言った。
「キスしなさい。今、この場で」
私は面食らってしまった。
理由はふたつある。ひとつは経験が無いこと。もうひとつは、このような美しい少女の唇を、私などが奪っても良いのかと思ってしまったことだ。
「もちろん、舌を入れるやつよ」
さらに難易度が上がり、今度は私が頬を赤らめる番となった。もちろん実際に赤くなっていたのかは不明だが、もしも鏡があれば、見たことの無い自分の姿が目に映ったのだろう。
「……何秒だ?」
「難病? 見ての通り健康体なんだけど」
「どれだけの時間、舌を入れれば良いのかと聞いた」
彼女は逸らしていた目を正面に戻す。
それから私をジッと見て、急に慌てたような様子で言った。
「……本気?」
「……無論だ」
私は腹に力を込め、どうにか声が震えないようにした。
見つめ合う。沈黙が生まれる。
時が経つ度、胸の鼓動が大きくなる。
「……冗談よ」
やがて、彼女は俯きながら小さな声で言った。
「良いのか?」
私は緊張と安堵が程よく混ざり合ったような感情を胸に、問いかける。
彼女は息を整えるように呼吸をする。
それから顔を上げて、かなりの早口で言った。
「もちろんよ! 私の初めては一生を捧げても良いと思える相手と綺麗なベッドの上で愛を囁き合った後にどちらからともなく唇を重ね互いを求め合った後そのまま自然な流れで体液の重なる位置を下へ移行させ一晩中愛し合う形にするって決めてるんだから! ……あっ」
──その後、隷属魔法が行使された。
彼女の名誉を守るため、一言だけ述べる。
私は、想像したよりも愉快な性格をしているのだなと、そう思った。
2
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる